その2
Mr.ウルヴァリンが目を向けたドローンの搬入口の先は長い直線が伸びており、地下のドローンの製造ラインまで続いているようである。
地下研究施設に入るためのルートの内、此処が一番広いルートのようだ。とはいうものの厚い壁で入り口は塞がれており、まだ搬入口としては未完成の状態と思われる。通路の先の照明設備や路面状態も比較的新しい。
「なるほど。あれだけ大量のドローンたちをどこから運び出すのだろうと疑問に思っていたが、謎が解けたみたいだな」
Mr.ウルヴァリンは独り納得して瓦礫のない広場へと歩を進めた。言わずもがなダニーが自分を発見しやすいためである。しかし、そのときMr.ウルヴァリンは何かが起き上がる物音に気づいた。
ハッとして再び辺りを見回すと、ヨロヨロしながら黒いタイツスーツを着用した忍者が一人立ち上がっていた。何か衝撃を受けたのか、片手で後頭部を押さえて呻いている。
「あ、あの…女…「ブラッディ・レイン」とか抜かしてたな。おもいっきりオレの頭を殴りつけやがって…。このままではまずい、…「主」に知らせなくては……」
忍者の呻き声の内容にMr.ウルヴァリンは少し引っ掛かるものを感じた。それでも急いで物陰に隠れようとしたが、忍者の方がその動きに気づいた。
「待て!!!」
忍者は叫びと共に懐から手裏剣を取り出し、Mr.ウルヴァリンの足元に向けて投げた。間一髪刺さらなかったものの、Mr.ウルヴァリンは隠れるタイミングを逸してしまった。
「こんなところに何故黒猫がいる…?もしかしてだが、先に俺たちの仲間が追っていた猫か…?」
(まずいぞ、一難去ってまた一難というやつか)
Mr.ウルヴァリンは生唾を呑み込む素振りを見せた。ゆっくりと近づいてくる忍者に対し、交戦の構えを見せる。
「ほう、やる気か。どうやらビンゴのようだな」
忍者は不気味に笑うと日本刀をゆっくり抜いて構えた。先にMr.ウルヴァリンを襲った忍者とほぼ同じ動きと構えである。
「さっきは不覚を取ったが、まあいい。「主」への手土産に貴様のお命頂戴する」
忍者がMr.ウルヴァリンに向けて突進しようとしたとき、上空から激しい轟音と共に何かが忍者とMr.ウルヴァリンの間に降ってきた。地面に激突した衝撃波で忍者とMr.ウルヴァリンは共に後方へ吹き飛ぶ。砂ぼこりが辺り一面を覆いつくし、何も見えなくなってしまった。
「ぐっ、何だ?!新手の敵襲か!?」
忍者がよろめきながらも体勢を立て直し、砂ぼこりの先に向けて叫ぶ。Mr.ウルヴァリンも同じく体勢を立て直し、カメラアイをサーモグラフィモードに切り替え、砂ぼこりの先を凝視した。
「サイクロップス君!!」
Mr.ウルヴァリンが思わず叫んだ。Mr.ウルヴァリンの視線の先にはくすんだ金髪に目元には漆黒のバイザー、黒と紺の混ざった光沢に胸元は赤光の円形ライトのメタリックスーツに身を包んだダニーがいた。着陸の衝撃を抑えるためにやや身を屈め、四つん這いのような格好になっている。
「……ったく、聞いてないぞMr.ウルヴァリン。一体どういうことだ?」
砂ぼこりが晴れるとダニーは若干恨めしそうな声を上げてMr.ウルヴァリンに振り返った。Mr.ウルヴァリンはダニーの姿に興奮しているのか目がキラキラしているように見える。
「いやはや見違えたよ、サイクロップス君。こんなに立派な姿になって…」
思わず目頭を押さえようとするMr.ウルヴァリンに対し、ダニーは呆れたように溜め息をついた。
「今はそんなこといっている場合じゃないだろ!」
そういうとダニーは背後から迫る忍者の方を振り返り、瞬時に一太刀目を避けた。不意打ちを仕掛けた忍者が驚きの表情を見せる。
「貴様、その猫の仲間か?」
「ま、一応な。とりあえずいきなり攻撃したのはそっちだからな。恨みっこは無しだぞ」
そういうとダニーは右腕の前腕から細い鋼鉄製の筒を取り出した。そして筒から青く鈍い光を放った光線が射出された。さしずめレーザーブレードのようである。
「フフン、アイアンマンのコスプレかと思いきやサイボーグ風情か。おまけにライトセーバーまで出すとはな」
忍者がダニーの容姿を鼻で笑った。しかしダニーは動じることなく、
「かかってこいよ、忍者もどきのコスプレ野郎が!」
ダニーの挑発に逆上した忍者はダニーに向けて再び突進した。ダニーは冷静に忍者の動きを見極め、忍者の太刀を右腕のレーザーブレードで受け止めた。
「ぐっ…中々あじな真似を」
「どうした?受け止められたのは想定外だったか?」
ダニーはレーザーブレードで忍者の太刀を弾き返すと、間合いを詰めて忍者の腹部にレーザーブレードを突き刺して、一気に引き抜いた。超高温のレーザーであるため刀の時のように血飛沫が上がることはないが、忍者は声にならない呻き声を上げてその場に崩れ落ちる。事切れたのか動かなくなった。
「ふう、何とか撃退したか」
ダニーは一息つくと、Mr.ウルヴァリンの方に顔を向けた。Mr.ウルヴァリンは先程のダニーの戦闘を見て興奮治まらない様子である。
「いやはや…さすがストームだ。この短時間で戦闘可能な義体を用意するとは…いや、サイクロップス君の回復力も素晴らしいものがある。それに義体との適応力も半端ではないな、うん」
Mr.ウルヴァリンは器用に前足を組んで、一人納得していた。その様子を呆れ気味に見たダニーはMr.ウルヴァリンの前にしゃがみこんだ。
「あんたを迎えに来たのに何でいきなり忍者に襲われるんだ?」
「話せば長くなるんだよ。それは後程ゆっくり説明するから…」
そういいかけたとき、Mr.ウルヴァリンの脳裏に先の忍者の言葉が蘇った。
(あの忍者…「ブラッディ・レイン」とかいってたな…まさかこの先に向かったのはあの時のサラ・コナー……?)
「どうした?Mr.ウルヴァリン?」
突然動きが止まったMr.ウルヴァリンに対してダニーが呼び掛けた。
「すまない、サイクロップス君。撤退といきたいとこだが、野暮用ができた。私と一緒にこの搬入口の先に向かってくれないだろうか」
「はっ!!?何をいってるんだ?俺の目的はあくまでもあんたの回収だぞ。それにこの搬入口の先って…さっきまであんたが潜入していたドローンの製造ラインなんじゃ……」
「とにかく!!頼む、サイクロップス君!私としてもこのまま放って置くわけにはいかないんだ!!どうにも胸騒ぎがする!」
Mr.ウルヴァリンの気迫に押されたダニーは少し頭を抱える素振りを見せた。しばし熟慮すると、Mr.ウルヴァリンに向き直った。
「……わかった、どうしてもというなら行くよ。ただし!ミス・ジェーンにも必ず断りを入れるんだぞ」
ダニーの言葉を聞いてMr.ウルヴァリンの表情が一気に明るくなった。そしてダニーの肩にひょいと飛び乗った。
「さすが私のサイクロップス君だ。話が分かると信じてたよ」
「誰が「私のサイクロップス君」だ」
ダニーは溜め息をつきつつ、Mr.ウルヴァリンを肩に乗せ徐に立ち上がった。
「振り落とされないようにしっかり俺に掴まっているんだぞ」
「大丈夫。抜かりはないよ」
ダニーは両足に装備しているジェットパックを起動するとMr.ウルヴァリンの指し示す搬入口へ向かって飛ばした。




