その15
「ウロボロスの終末」事件の真実はコンピュータウイルス「キングブレイカー」が引き起こしたAIによる暴走事故だった。全てはキングスカンパニーが暗躍していた…。Mr.ウルヴァリンの中で一つの結論が浮かんだが、それでも幾つかの疑問が残っている。
「「キングブレイカー」は彼女が原形を作った。ま、当時はそんな名前はなかったがね。私は彼女の原形を基により兵器として完成させようとしている」
「お前さんの彼女とやらは何でそんな物騒なものを作ったんだ?」
「全くの偶然…本来開発を目指していたのは人の意識をAIに移し、世界中に展開されたドローンたちを直感的に遠隔操作する技術だった。それも社長自ら主導して秘密裏に彼女に作らせていたのさ。
しかし開発の過程で何らかの不具合が生じて新型のウイルスが誕生した。結果的に警備用ドローンを制御するAIを乗っ取る形でウイルスは侵食を続け、大惨事を引き起こした」
「なるほどキングスカンパニーはこの事実を隠蔽しようと軍を通じて「ウロボロスの終末」とかいう架空のテロリスト集団をでっち上げて世間に公表したのか」
ローはゆっくりと頷いた。
「幸いコンピュータウイルスの持続性が非常に短かったお陰で事態は収束したが、キングスカンパニー、いや社長のフランクは開発責任者である彼女に全ての罪を擦り付けて自殺に追いやった。正確には殺された、だな」
「テロリストのでっち上げだけでなく、関係者の口封じまでやるとはな」
「その後キングスカンパニーの中でこの事件は封印され、コンピュータウイルスの存在も完全に抹消された。彼女の痕跡も彼女が開発していたAIたちも…だ」
Mr.ウルヴァリンは項垂れてローの話を聞き続けていた。
「私は彼女を斬り捨てた今のキングスカンパニーを、いやCEOのフランク・フリーマンを心から恨んでいる。私は何としても彼女が作り出したコンピュータウイルスを再現しようとした。それが私なりの会社への復讐だ。そして誕生したのが…「キングブレイカー」だ」
「…一つだけ、教えてくれ。彼女の名前は何だ?もしかしたら本体のAIを通じて痕跡を探せるかもしれない」
ローは少し驚いた表情を見せた。Mr.ウルヴァリンの顔をマジマジと見つめると、フーッと息を吐いた。
「彼女の名は、ペニー・シーラン・フリーマン。確かもう一人共同研究者がいたはずだが、彼女の死後に行方知れずになってしまってね。全く手掛かりがゼロなんだ」
「その情報だけで十分だ、ドクターストレンジ。だが、このウイルスを完成させて復讐するって、キングスカンパニーに何かあるのか?」
「ああ、彼女が開発していた人の意識をAIに移す計画はまだ社長主導で進められている。だからこそ計画そのものを何とか阻止したいのさ。どういう理由であれ、あんな計画を放っておいたら碌なことにならないからな」
「だから名前が「キングブレイカー」なのか」
「ご名答」
ローは苦笑いしながら頭を掻いた。が、すぐに右手にはめた腕時計に目をやると、その表情がみるみる内に強ばった。
「そろそろ時間のようだ、黒猫君。噂の社長がお出ましだ」
Mr.ウルヴァリンはハッとして手術台の先にある窓に視線を送った。遠目ではあるが、スーツ姿の男たちと如何にもな来賓たちがドローンの製造ラインに向かっているのがわかった。
「私は少々社長たちの相手をする。黒猫君はこの部屋を出て右手に非常用階段があるからそこから地上に出るといい」
「いいのか?一応侵入者だぞ」
「君もキングスカンパニーに恨みなり思うところがあるからこそ、此処にいるのだろう?だとしたら私は君を敵とは思わない。それに人生の最期くらいは好きにさせてくれ。先ほど君を捕捉した時、君の体の中に「キングブレイカー」のコードを仕込んでおいた。後は君に完成を託すとしよう」
ローは丸イスからゆっくりと立ち上がると、扉の方へ足を向けた。
「生きて再会できるかい?」
Mr.ウルヴァリンがローの背中越しに尋ねる。しかし、ローの返事はなく、代わりに右手を上げてヒラヒラと振った。
その様子を見たMr.ウルヴァリンはやれやれと溜め息をつき、手術台から降りるとローの言う通り非常用階段へ歩を進めた。
次回で第二章は区切りです




