その12
地下研究施設のある旧町役場の庁舎へ向かうキングスカンパニーのロゴの入ったヘリを追ってナターシャはバイクを飛ばした。
ヘリが低空飛行しているお陰か見失うことはないが、尾行していることを悟られないために適度に距離を保ちつつ、相手の向かう方向を探った。
「どこへ行くつもりだ?あの辺にヘリポートらしきものはなさそうだけど」
ナターシャは先回りしようとしたが、如何せんこの辺の地理に詳しくないため今はヘリを追うことに集中した。暫くすると低空飛行していたヘリの速度が急速に落ちてきた。そろそろ目的地付近らしい。
「ここら辺で様子を見るとするか」
ナターシャはある程度開けて高い木々がある丘にバイクを停めた。そして太い幹の木によじ登り、枝葉の間から双眼鏡を取り出してヘリの様子を眺めた。
ヘリは旋回しつつ、徐々に高度を下げて有刺鉄線に張り巡らされたコンクリートの広場に着陸しようとしていた。ローターに巻き上げられた砂ぼこりが舞うのが、双眼鏡で確認できる距離まで近づけたらしい。
「一体誰が乗っている?キングスカンパニーの関係者は間違いないが…」
ナターシャが思案していると着陸したヘリから数名が降りてきた。外には出迎えと思われるスーツ姿の人間が二、三人確認できた。スーツ姿の人間が恭しく挨拶しているのを見るに、ヘリに乗っていたのは来賓と思われる。
来賓とおぼしき人間は三名。一人は小太りの頭頂が禿げ上がった中年男性。三人の中では一番背が低い。ニコニコ愛想良く他の来賓に話しかけているが、如何せん品がないように見える。
「あのオッサンは…確かキングスカンパニーのCEOだ」
ナターシャの推察通り小太りの中年はキングスカンパニーCEOのフランク・フリーマンであった。自己顕示欲の塊である彼はことある毎にメディアの前に現れ、自身の会社をPRしているため大体の人々に顔は知れ渡っていた。
「他の二人は…と」
フランク以外の来賓の内、一人は軍服を着た如何にもなお偉方。髭面の強面も相まって威圧感が半端ない。
もう一人は日本の着物を着た艶やかな美女。すらりとした背の高さと凛とした風情は正に大和撫子といっても過言ではなく、尚更先の二人と並ぶとミスマッチな印象を受ける。だが、この大和撫子の姿を見たナターシャの顔色はみるみる内に変わっていった。
「アイツは………間違いない。まさか、本当に此処に来るとは…」
ナターシャの双眼鏡を握る手に力が入る。来賓の他にヘリに乗っていた面々に視線を送ると、またもナターシャの顔色が変わった。
なぜなら乗っていたのは先程庁舎内で片腕を切断した忍者と瓜二つの風貌をした人間が三人出てきたからである。先の忍者とは別に複数人にいたようだ。
そうこうしている内に来賓と忍者たちは出迎えの人間に連れられてコンクリートの地面の下に開いた入り口に潜っていく様子が見えた。どうも庁舎とは別に来賓用に地下通路があるようだ。
「チッ、別ルートから入る気か」
ナターシャが双眼鏡を外して木から降りようとしたとき、不意に首もとに刃を突きつけられた。
「動くな」
ナターシャが後ろに視線を送ると先の忍者と同じ容姿の忍者が刀を抜いてナターシャに向けていた。
「俺達の仲間が世話になったみたいだな」
「アイツ、無事に逃げたのか」
「我々にとっては恥さらしもいいとこだが、有益な情報は持ってきたからな。多少は「主」も大目に見てくれたようだ」
そういうと忍者は懐から血の滴る生首らしきものを取り出し、ナターシャに投げた。ナターシャは反射的に生首を掴むと、顔を見て思わず血の気が引いた。それは先にナターシャによって片腕を切断された忍者のものだったからである。
「……大目に見た、か。結局は処刑してるんじゃない」
「我々にとって「主」自らが手を下されたことは名誉に他ならん」
「……フン、下らん」
ナターシャは生首を捨てると刃を向けている忍者の隙を突いて右手に持った双眼鏡を投げつけた。そして忍者が双眼鏡を両断したと同時に忍者の顔面に飛び蹴りを入れた。
忍者は思わぬ反撃に対処しきれず、まともにダメージが入ってしまい、ナターシャと共に木から落下した。
「ぐっ……!!あじな真似を…」
忍者は体勢を立て直して刀に手にするが、それよりも早くナターシャが忍者の後ろに回り込み首と刀を持った腕を絞め、地面に組伏せた。
「うっ……うおおおお……」
忍者は悶絶しながら、必死にもがく。だが、その度にグイグイとナターシャの絞める力が入っていく。
「さて、このまま絞め落とされたくなければ、さっきの入り口につながる場所とその入り方を吐きな!」
「うっ……そんな、ことし、て…どうする…」
「決まっているでしょ?あんたの「主」に会うんだよ。「ブラッディ・レイン」のことを忘れたとはいわせないよ!」
「が、……わか…わかった……い、い、いう」
忍者は気を失い泡を吹きそうになる寸前でようやくナターシャに服従した。




