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キングブレイカー  作者: 43番
第二章 Mr.ウルヴァリンの冒険
24/97

その9

 キングスカンパニーの新しい研究施設は旧町役場の地下深くに建設されていた。表向きは永いこと打ち捨てられた廃墟のため非常に分かりにくいが、機密を保持するためにはうってつけの場所だと思われる。

 とはいうものの、地上の入り口から地下の施設に入るまではMr.ウルヴァリンが想定していた以上に深かった。



「一体どのくらい歩けば着くんだ?もう地下20階くらいは降りてるはずなんだが…」



 Mr.ウルヴァリンは下り階段を只管進んでいるものの、周りの様子は一向に変わらなかった。このままでは発信している妨害電波の適用時間が切れてしまいかねない。

 若干焦りが帯びてきたとき、ようやく階段の終わりが見えてきた。階段の先には重厚そうな扉があるが、特に鍵のようなものはなさそうだった。



「どうやら私でも開けられそうな感じだな」



 Mr.ウルヴァリンは慎重に扉を開けて中を覗き込んだ。すると、そこには無数の軍事用ドローンの全自動の製造ラインが広がっている。

 ラインを流れる重厚な機械音がMr.ウルヴァリンの耳に飛び込んできた。思わず両耳を押さえたくなるくらいの喧しさだ。

 更にラインの奥の方にはドローンに小型の受信機と爆弾のようなものが取り付けられる工程が見えた。



「カメラアイモード作動」



 Mr.ウルヴァリンは両目をカメラに切り替えて地下研究施設の製造ラインの様子をシャッターに納めた。一連の事件に関係する証拠集めである。



「しかし、これ程の製造ラインをこんな田舎の寂れた街に建造していたとは…私の思った以上にキングスカンパニーの闇は深そうだな」



 ふとMr.ウルヴァリンが見上げると製造ラインの上部にある管理室の灯りが点った。誰かがやってきたらしい。急いでMr.ウルヴァリンは製造ラインの影に身を潜めた。



「画像転送モード作動」



 Mr.ウルヴァリンは撮影した画像を精査してミス・ジェーン宛に転送していく。そして慎重に声を潜めながら通話モードを起動した。



「ストーム、こちらウルヴァリンだ。先程新造されたキングスカンパニーの研究施設内の画像を転送した。すまないが、急ぎ解析してくれ」


「了解。画像の転送を先程確認したわ。ところであなたは無事なの?Mr.ウルヴァリン」


「無事、とはいいがたいな。尻尾を切り取られたのと少しばかり火傷を負った」


「はあ…だから言ったじゃない、無茶するなって。とにかく通話できるくらいは元気そうね」


「お陰様でね。サラ・コナーに助けられた」


「サラ・コナー?あなた、また出会った人間に対して適当な呼び方をしてるのね」


「でもストーム、これは中々の収穫だろう?」


「…確かに。これほどまでの軍事用ドローンが秘密裏に製造されていたなんて。まるで戦争でも起こすみたいね」



 通話先のミス・ジェーンが溜め息混じりに返事をして来た。キングスカンパニーの目的が何なのか、徐々に核心に迫ってきた気がする。

 そのとき、ミス・ジェーンの後ろからもう一人、ダニー・マードックの声が聞こえた。



「Mr.ウルヴァリン。すまないが、その軍事用ドローンの鮮明な画像をくれないか?」


「おお、サイクロップス君。声が出せるまでに復活したようだね」


「お陰様でね。もう少しで動けるようにはなりそうだ」


「それは朗報だ。ところで鮮明な画像の件だが、お安いご用だ。すぐに転送しよう」



 Mr.ウルヴァリンは上の管理室の様子を伺いながら慎重に製造ラインのドローンたちをシャッターに納め、ダニーらに転送した。すると、



「Mr.ウルヴァリン…これは本当なのか?今あんたはこのドローンたちの製造ラインにいるというのか?」


「ああ、正にリアルタイムで製造ラインの状況を眺めているよ」


「やっぱりそうだ…!あの掃討作戦で俺たちを襲ったドローン…」



 通話先のダニーの声が震えていた。自分の身に起きたことが全て最初から仕組まれていた確信を得たようである。



「Mr.ウルヴァリン、俺も今からそちらへ向かう」


「何だって?君はまだ…」


「ダメよ。まだあなたは完治していないし、義体もまだ試作のままだわ」


「止めないでくれ、ミス・ジェーン。これは俺自身の問題なんだ」



 通話越しのダニーの声が荒くなってきている。一刻も早く行動を起こさねば気がすまないようだ。



「サイクロップス君、まずは落ち着きたまえ。証拠集めが第一だ。今、焦って行動したところで奴等の思う壺だよ」


「ぐっ…」



 ダニーは言葉を飲み込み、Mr.ウルヴァリンの話に耳を傾けた。



「とにかく今、君ができることは傷を治すことだ。それから行動しても遅いことはない。それに今の諜報活動には私の方が向いている。何とか無事に戻るから安心していてくれたまえ」


「Mr.ウルヴァリン…」


「Mr.ウルヴァリン、これだけは言わせて」


「なんだい、ストーム」


「AIのあなたに言うのも変だけど、生きて帰ってきてね」


「承知した、ストーム。サイクロップス君を頼む」



 Mr.ウルヴァリンは通話を切ると、製造ラインの深部、そして他の研究室へと歩を進めた。

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