その6
「会いたかったよ、こないだは世話になったな」
忍者が暗闇で不気味に笑いながら刀を構えた。ジリジリとMr.ウルヴァリンとの距離を縮めていく。これに対してMr.ウルヴァリンは呆れたように溜め息をついた。
「はあ…お前さんは忍者というか暗殺者失格だな…」
「何だと?」
忍者は明らかに不愉快そうな口調でMr.ウルヴァリンに返した。
「あのまま黙って襲っていれば暗殺成功していたのに、わざわざ自分の存在を明かすなんて普通はあり得ないな」
「フン、何をいうかと思えばくだらない」
「そうでもないさ。お前さんは腕前は確かだが、暗殺者の心得はなってない未熟者ってことさ」
「黙れ!!」
忍者は図星を突かれたのか激昂してMr.ウルヴァリンに刀の切っ先を向けた。
「こんな黒猫ごときに図星を突かれて感情を露にするところが、正に未熟者の証だね」
Mr.ウルヴァリンは嘲笑しながら露骨なまでに目の前の忍者を煽り続けた。忍者は次第に冷静さを欠き始めたらしく、わなわなと全身を震わせている。
(さて、と奴も暗視ゴーグルを搭載しているとなると闇に紛れてやり過ごすことは不可能だ。あとは此所のセキュリティを利用するしかない)
Mr.ウルヴァリンは扉の周りに厳重に張り巡らされたセキュリティに目を遣った。
「残念だけど、お前さんごときに私はやられんよ。黒猫一匹も満足に殺せない忍者なんて恥ずかしくて堪らないだろ」
「こんのおおおお!ドラネコがああああ!!」
怒りで完全に見境を失くした忍者が真正面からMr.ウルヴァリンに斬りかかった。Mr.ウルヴァリンは冷静に扉の先へ体を動かした。幸い一太刀目は間一髪で避けることができた。
「くたばれええええええええ!!」
忍者が返す刀でMr.ウルヴァリンに刃を向けた。そのとき、扉に張り巡らされたセキュリティセンサーが一斉に作動し、レーザーが忍者に向けて照射された。
「ぐはああああああああああ!!」
まるで断末魔のような悲鳴を上げて忍者の体が赤く燃え上がった。超高温のレーザーによって防御用のタイツスーツが火を吹いていた。体を悶えさせながら火を消そうとローリングし続けるが、ローリングした先からもレーザーが照射されるため、焼石に水状態である。
「お前さんは少し頭を冷やしたまえ。と、いっても燃え上がっている状態じゃ無理か」
Mr.ウルヴァリンは目の前の忍者の惨状を悠然と眺めていた。しばらくして忍者がバッタリと倒れこみ、ピクリとも動かなくなった。
「…ふう、何とかしのいだか」
忍者が倒れるとセキュリティセンサーの動作が一斉にストップした。そして何事も無かったように静寂が再び訪れる。
Mr.ウルヴァリンがふと扉を見上げるとパスワードを入れる10キーと指紋センサーがあった。
「なるほど、さっきのネズミたちで侵入者かキングスカンパニーの関係者かを解析して問題があれば、レーザー照射で排除するという仕組みか」
Mr.ウルヴァリンは納得したが、潜入に際して一つ問題が起きた。10キーについてはある程度時間を掛ければ解析可能だが、指紋についてはどうしようもない。
「やれやれ困ったな、誰かの指紋を採取しないと」
とMr.ウルヴァリンが扉の前で途方に暮れていると、突然死んだはずの忍者が起き上がった。
「!!?」
Mr.ウルヴァリンは慌てて忍者を見据えた。レーザーによってタイツスーツはボロボロに焼かれ顔を覆うマスクも爛れているが、弱る様子もなくゆっくりとMr.ウルヴァリンに近づいてくる。
「ハッハッハ…全く一々癪に触るドラネコだ」
「貴様…あのレーザーで死んだはずじゃ!?」
「残念だったな、このスーツの耐久性を甘く見ていた貴様が悪い」
忍者は今度こそ確実に仕留めようと刀を構えた。刀もレーザーで焼かれた刃の部分が溶けて焦げている。だが、忍者は構わず切っ先をMr.ウルヴァリンへ向けた。
「言い残すことはないか?」
「……」
Mr.ウルヴァリンは言葉に詰まった。もう一度レーザーを作動させるか?だが、既に間合いは詰められている。動いたところでレーザーが照射される前に自分が真っ二つになるだろう。
「死ねええええええええい!!」
忍者が刀を振り上げたとき、Mr.ウルヴァリンは覚悟を決めて目を瞑った。が、次の瞬間、
「うぎゃああああああ!!!!!」
凄まじい悲鳴が庁舎内に響き渡った。この悲鳴に驚いたMr.ウルヴァリンが目を開けると血飛沫を上げながら片腕を押さえてうずくまる忍者の姿があった。更によく見ると刀を持っていた片腕が無くなっている。
「どういうことだ?!」
Mr.ウルヴァリンが慌てて周りを見渡すと刀を握った忍者の片腕らしきものが落ちていた。
「だ、誰だ?!誰が俺を斬った?」
忍者は片腕を押さえながらヨロヨロと立ち上がり、自分を攻撃した者へ呼び掛けた。すると、
「生かしておいただけマシだと思いな!」
声の主が暗闇の中から現れた。
「あのときのサラ・コナー……!」
声の主の正体にMr.ウルヴァリンが思わず声を上げた。