その5
Mr.ウルヴァリンが迷わず向かった先はキングスカンパニーの研究施設の入り口があるとされる座標位置だった。地図によると旧町役場が記載されている。
「ガンビットの情報だと確かにここのはずだが…妙だな、人っ子一人いないぞ……?」
Mr.ウルヴァリンがたどり着いた旧町役場は中心部への役所機能の移転後、ほぼ打ち捨てられた状態であちこちが老朽化して見る影もなかった。幾つか装飾品が未だに遺されており、在りし日の繁栄が偲ばれる。
この廃墟の状況を見る限り、とてもキングスカンパニーの人間が出入りしているとは思えない。
「座標が間違っているわけではなさそうだ。となると、ガンビットにガセ情報を掴まされたってことかな…はあああ……」
Mr.ウルヴァリンは思わず庁舎の入り口でへたりこんだ。いくら疲れ知らずの体とはいえ、膨大な時間と危険を伴う岐路を歩んだ労力が無駄になってしまったことは少なからずショックであった。
「やれやれ、参ったな…やはり危険だが、本社へ潜入するしか方法はないか」
Mr.ウルヴァリンが仕方なく立ち上がると不意に庁舎の中から赤く鈍く光るものが見えた。
廃墟に何かいるのか?Mr.ウルヴァリンは慎重に光の方へ近づいていった。
「こんなときに子どもが肝だめし、なわけないか」
旧庁舎の中は昼間にも関わらず漆黒の闇に包まれており、少しでも歩を進めると先が確認できないくらいであった。その中で赤い光だけが不気味に輝いており、薄気味悪さを倍増させていた。
しかし…赤い光は一つだけではない。その数は…10、いや100は優に越えている。
「暗視ゴーグルモード作動」
Mr.ウルヴァリンは自分の両目にあたるカメラアイを夜間用に切り替えた。この光の正体は…
「ね、ネズミ?!」
Mr.ウルヴァリンは思わず声を上げた。小さいマウスの集合体が目を赤く光らせてこちらを凝視している。
「ネズミ、型のドローンのようだな。しかもこの数、イタズラに置いたとは到底思えないな。やはり…ガンビットの情報はビンゴだったってわけだ…」
Mr.ウルヴァリンが情報の信憑性に確信を持ったと同時にマウス型のドローンたちが一斉にMr.ウルヴァリンを取り囲んだ。
「どうやら話し合っても通じる相手ではなさそうか」
マウスたちは一定の距離を取るとMr.ウルヴァリンにレーザーのようなものを照射した。どうも正体不明の侵入者の解析をしているようだ。
「向こうがそう来るなら仕方ない、あんまり揉め事は起こしたくないのでね」
そういうとMr.ウルヴァリンは両耳から超音波のようなものを辺り一面に響かせた。しばらくするとネズミ型のドローンたちの動きが一斉に止まった。よく見ると目の赤い光が小刻みに点滅している。
「いわゆる妨害電波ってやつだが、意外と効果があったみたいだね」
動かなくなったドローンたちを尻目にMr.ウルヴァリンは再び庁舎の深部へと歩を進めた。すると暗闇の中に明らかに最近作られたとおぼしき厳重な扉が見えた。更に周りにはセキュリティ用のセンサーがあちこちに張り巡らされている。
「どうやらここが研究施設の入り口、か」
Mr.ウルヴァリンが再び妨害電波を出そうとすると、不意にドローンとは違う気配を感じた。思わずMr.ウルヴァリンは身構えて辺りを入念に見渡した。
「どこだ……何かがいる…さっきのネズミたちとは違う何かが…」
Mr.ウルヴァリンが自分の気を張るために呟いていると、
「ここだよ、黒猫くん」
天井から声が響き、突然Mr.ウルヴァリンの目の前に黒いタイツスーツの影が現れた。
「お前は、あのときの…!!?」
「今度は逃がさんよ」
先にMr.ウルヴァリンを襲った忍者が不気味に笑い刀を抜いて構えた。