その2
短いですが、更新します。
ダニー・マードックは合衆国海兵隊の准士官である。階級は3等准尉、現在28歳。
高校卒業後に志願して入隊。ブートキャンプを経て一等兵として任用。極めて優秀な成績を挙げるものの、素行に問題あり。
父親はイラク戦争にて武功を上げ、後に除隊して警察官となったリチャード・マードック。入隊は父の勧めであるとのこと。父親は極めて厳格ではあったが、基本的に善人であり海兵隊という経歴を大変な誇りとしていた。年を取ってからの子供であるダニーに対する期待や愛情は人並み以上でダニー自身は父親の過剰な期待を若干疎ましく思っていた。
ダニーの容姿はややくすんだ金髪の白人。背は180㎝前後で体重は70㎏後半ほど。中肉中背ではあり、筋肉質というわけではない。
ダニーの最大の特徴は目元を覆う漆黒のバイザーである。バイザーを着けるきっかけは訓練中の事故による顔面の負傷であり、あくまでも一時的な応急処置であったが、ダニーの元来人見知りな性格と相手に感情を悟られたくない思惑から傷の完治後も引き続きバイザーを装着し続けている。
その徹底ぶりはシャワーや顔を洗うタイミング以外は決して外さず、ダニーの素顔を拝んだ人間は現在在籍している隊にはいないといわれるほど。
そんなダニーのことを陰口で「ロボコップ」だの「サイクロプス」だの言う者もおり、ダニー自身を気づいてはいるが、厄介ごとに巻き込まれるのは嫌なので敢えて放っておいた。
バイザーを除くと冴えない男のようだが、格闘術や射撃術は抜きんでており、彼を嘗めて喧嘩を吹っかけて来た者たちは尽く返り討ちに遭っていた。以降、彼を馬鹿にする者は減ってきたものの隊の中では徐々に孤立化しており、腫物扱いする者も少なくなかった。
そんなダニーに対してほぼ唯一といっていいほど友好的に接しているのがライナスであり、ダニーも軽口を叩けるほどまでに彼には心を許している。
「そういやライナスの奴、プロポーズするとかいってたな。そろそろ田舎に戻ってゆっくりするってことかな。…全く羨ましい限りだ」
自室のベッドでぼんやりとタブレット(会議で出ていたスーツの取説動画)を眺めながらダニーは一人ぼやいた。
「これで愚痴をいえる奴が一人減るわけか。この作戦が終わったら、少し寂しくはなるな」
柄にもなく感傷的な気分に浸ったことに自嘲気味に笑い、タブレットをベッドの片隅に投げ込んだ。
………
「まさか、そんな…事実なのですか?」
「少佐、既に上層部に話をつけてはいたのだが、どうやら現場の指揮官である貴方にはまだ届いていなかったみたいだ。お察しの通りこれは極めて由々しき事態なのだ。決して口外は出来ない」
「だからといって、そんなことを知った上で作戦を決行できる訳が…」
「承知の上だ、少佐。とにかく今回の作戦は構わず続行してくれ。結果如何についての処理は上層部も含め既にまとまっている。貴方はご自身の任務を遂行していただければそれでよい」
「…既にシナリオが出来上がっているなんて…、作戦に当たる隊員たちはどうなるというのですか・・?」
「この国を救うためにはやむを得ない処置なのだ。この作戦がどういう成否であろうと結末は変わらない」
ガチャン
無造作に通話は打ち切られ、パソコンの画面の前で少佐は茫然とした。
「こんな馬鹿な・・・」
少佐の顔からみるみる内に血の気が引いていき、震える手でコーヒーカップに手を伸ばすが、つかみきれずに床に落としてしまった。