その15
「ウロボロスの終末」掃討作戦後のダニー撃墜直後まで話は遡る。
……………
「…少佐、報告ごくろうだった。見事な首尾だったようだな」
「…恐れ入れます准将」
「とりあえず当面の不安要素は消えたか」
「………」
「少佐、後は此方が与えた指示の通りに動いてくれ。マスコミ連中には我々が用意したシナリオを発表するから心配はいらん。彼ら先鋒隊は「英雄」として華々しく散ったのだ。世間にはそのイメージで定着するだろうし、彼等の遺族らも納得してくれるだろう」
「…あの…准将……大変失礼ですが、今回の作戦について意見を伺ってもよろしいでしょうか?
私は決行数時間前に今回の事態が起こる旨を、それもキングスカンパニーのCEOより直接聞きました。…正直どうにも必要な情報の隠蔽や現場との隔たりがあることは否めないのです」
「…今、私がいうべきことはない。それに君に説明する義務もない」
海兵隊の援軍ヘリより無線の先の相手は無下な態度で通信を切った。ヘリの中で何ともいえない沈黙が漂う。作戦指揮官であるアーノルド・ルーズベルト少佐は今回の作戦に関する顛末を司令部にいる准将へ報告していた。
しかし、告げられたのは自分の知らぬところで作戦に関するシナリオが出来上がっており、自分はその駒にすぎない、という既成事実だけだった。
「チッ……自分たちが指令系統を混乱させた上に殉死した隊員はみな英雄とする、か。実にくだらん…上層部の見苦しい言い訳だ」
少佐は吐き捨てるように呟いた。そして、無線の周波数を別の番号に切り替えた。
「ダニー・マードックは見つかったのか?」
「いえ。撃墜したのは間違いありませんが、遺体はまだ見つかっていません。確認したのはパワードスーツの破片のみです。広範囲に散らばっているので墜落の衝撃で遺体がバラバラになった可能性も視野に捜索しております」
「わかった、捜索は継続してくれ」
「サー!イエス、サー!」
少佐は無線を切ると一人の部下を呼んだ。情報部の兵士である。
「サー、お呼びでしょうか?」
「一人貴様に頼みたいことがある。三年前の「ウロボロスの終末」事件に使用されたドローンとハッキングされたAI、そして製造元とその管理者について情報を調査してほしい。ただしこの命令はこのヘリの中だけの極秘だ。上層部には一切知らせることは禁ずる」
「サー、司令部には内密で調査を進めるということですか?」
「そうだ。上層部が情報統制を敷いた上で、現場を混乱させ、我々を捨て駒扱いするくらいならこちらにも考えがある」
「サー…上層部に逆らうとは、リスクが高すぎます」
「構うな、貴様とは一蓮托生だ」
「サー!イエス、サー!」
少佐より極秘任務を与えられた情報部の隊員は少佐に敬礼すると扉へと向かった。
「……ダニー・マードック、貴様が生きていようが、死んでいようが必ず見つけ出す」
少佐は机の上に置かれたマグカップに手を伸ばすと半分ほど残っていたコーヒーを一気に飲み干した。
…………
時と場所は変わり、ダニーが治療のため、しばしの眠りについた後…
「さて私の出番が来たようだな」
Mr.ウルヴァリンは摩天楼の夜景を見下ろしながら呟いた。
第二章へと続く…
これにて第一章完結です。
第二章はMr.ウルヴァリンが主人公の予定です。