その13
「ところでダニー、あなたの体のことだけど、失っている部分が多すぎる。正直いって生身のまま完治するのは不可能ね」
ミス・ジェーンは唐突に残酷な現実をダニーに突きつけた。先の逃走劇で受けた攻撃の傷は非常に深く助かったのは正に奇跡だった。
皮肉にもテロに荷担していたと思われるキングスカンパニー製のパワードスーツがダニーの命を守ったといえる。
(…そうか、確かに体を動かすどころか、声さえ出せない以上、受け入れるしかないのか…)
「でも安心して。義体も用いるのであれば、以前の体とほぼ同等、いえそれ以上の身体能力を約束できるわ。ただあなたにそれ相応の覚悟とリハビリ、そして義体との相性があるけどね」
「心配ない、サイクロップス君。ストームは非常に優秀だ。君の回収に使用した私の代替ボディも彼女が用意してくれたんだよ」
(…ああ、どうやって俺を回収したのか、何となく疑問に思っていたが、代替ボディがあったのか)
「この猫の体とは似ても似つかぬゴリラのような巨体のドローンだがね。力仕事が必要な場合には非常に助かるんだ」
「海兵隊の作戦をモニタリングしていたことと、無線を傍受していたことであなたの動きがわかったの。パワードスーツの爆発を衛星でキャッチしたことで、すぐにMr.ウルヴァリンが回収に向かったわ」
「正直何かしら「ウロボロスの終末」に関する手掛かりを回収できるかが目的だったんだが、まさか生存者がいるとは思わなかった。しかし思いの外大収穫だったよ」
Mr.ウルヴァリンが得意気に胸を張った。
(そりゃ、恩に着るよ。あのままだったら死んでいたしな。ところでもう一つ気になっているんだが、ここは一体どこなんだ?)
「ここかい?ここは君らの掃討作戦が行われた野戦病院跡地から数十キロ離れた発電所跡だよ。何十年も前に打ち捨てられたところだし、廃墟となって以降、寄り付くような組織や連中もいないから時々利用させてもらっている」
(時々?他にもアジトのようなものがあるのか?)
「そうね、幾つか潜伏先は用意しているわ。バックアップとして不意打ちを受けたときの対策でね。ここはあくまでも仮の潜伏先よ」
(なるほど、今のところすぐに追手が来る心配はなさそうか)
「ダニー、さっきの義体の話だけど。あなたが着用していたパワードスーツがある程度原型を留めているから、これを改良してあなたの失った体の一部に応用しようと思っているの。一応最新鋭だし、あなたが実戦で使っているから耐久性も問題なさそうだしね」
(構わないさ、それでまた戦えるなら)
「失ったのは左耳に下顎の一部、右の肺、右腕と左腕の肘から先、あとは両足といったところね。でも安心して、脳と生殖機能は無事だから」
(喜んでいいのか、非常に微妙だな。というか良く生きてたな、俺)
「義体が完成するまで時間をちょうだい。早ければ三日後には試作品ができるから。あとはリハビリを頑張ってもらわないとね」
(…心得た。一度は死んだ身だ)
「よし、サイクロップス君が回復するまで、私が動くとしよう」
Mr.ウルヴァリンがダニーの胸元からヒョイと飛び降りた。