その12
「正直彼があなたを保護したとき、パワードスーツの損傷の酷さに助からないものと思ってたけど、機械を通して会話できるくらい回復したなら良かったわ。幸い命に別状はないけど、治療とリハビリは必要ね。」
艶のある声の主がダニーの視界に現れた。肩まで伸ばした銀髪に褐色がかった肌色、黒フレームのメガネに唇の下にはセクシーな黒子が見えた。
齢は少なくともダニーより年上だろう。全身は見えないが、抜群のプロポーションと思われる。パッと見て出来るキャリアウーマンを地で行くようだ。メガネの奥から鋭い視線を覗かせる。
「彼女は古い付き合いのあるシステムエンジニアだ。ちなみに私の定期的なメンテナンスも彼女が行っている」
黒猫が横から口を挟んできた。
「はじめまして、私は…」
「彼女はストームだ」
「違うわ」
ストームと呼ばれた彼女は即座に否定した。
「ミス・ジェーンよ。いい加減に覚えてくれないかしら」
「これは失礼。どうしてもストームの方が君にしっくり来るのでね」
黒猫はイタズラっぽく舌を出した。ミス・ジェーンは呆れ気味にダニーに視線を向けた。
「改めてはじめまして。ミス・ジェーンよ」
(よろしく、ミス・ジェーン。俺は… )
「彼はサイクロップス君だ」
(違う、ダニーだ。ダニー・マードックだ)
ダニーは黒猫のいうことを即座に否定した。
「あなたの勝手な解釈で人を呼ぶの辞めてもらえないかしら、Mr.ウルヴァリン」
ウルヴァリンと呼ばれた黒猫は器用に前足で頭を掻いた。
(あんた、確かATX-…とかいってなかったか?)
「長い名前だし、センスがないのでね。好きなアメコミのヒーローから名前を拝借したんだよ。ま、私も中々いい線いってると思っているのだが、さすがにヒュー・ジャックマンには負けるな」
(いやいやいや、そもそもあんた人間じゃないだろ。それにウルヴァリンとあんたの共通点は爪くらいじゃないか?)
「ああそうそう、君らのことも呼びやすいようにアメコミから取ってるんだよ」
「余計な御世話よ」
ミス・ジェーンはMr.ウルヴァリンの言葉を即座にぶったぎった。
「さて、と話は変わるがこのサイクロップス君は我々の仲間になってくれるそうだよ、ストーム。心強い味方が増えたじゃないか」
(だから俺はサイクロップスじゃないっていってるだろ。ミュータントでもなければ、目からビームも出さない)
ダニーはMr.ウルヴァリンに完全に調子を狂わされしまった。
「彼のことは気にしないで。こちらこそよろしく、ダニー」
握手の代わりにミス・ジェーンはダニーの鼻先を指でつついた。