その10
今回も会話メインです
(「ウロボロスの終末」が存在しないだと?)
黒猫の大胆な仮説にダニーは言葉を(実際は喋れないので脳内で)失った。
(どういうことだ?もし本当に奴等が存在しないなら証明できるというのか!?)
「いやできない」
黒猫のそっけない回答にダニーは脳内でずっこけそうになった。
(おいおいおいおい、訳のわからん推論で人を振り回すんじゃない)
「まあ、待ちたまえ。確かに奴等の存在の有無は証明はできない。今のところは、ね」
(というと、根拠はあるのか?)
「ひとえに私が気になったのは、「ウロボロスの終末」があれほど大胆なテロを起こしておきながら何一つ連中に繋がるような証拠を一切残さなかったことだ。結果的に軍もCIAも、それどころか他国の諜報機関だって正体すら掴めていない。
もしかしたらどこかの国がパトロンとなっていて連中を匿っているのかもしれないが、それにしたって情報がなさすぎる。しかもその後数年間、何も動きを見せていないことだ。」
(確かに「ウロボロスの終末」のメンバーと思われる連中が潜伏している情報が出たのはつい最近のことだ。軍としても血眼になって調査していたんだろうが、結局潜伏先が国内で目と鼻の先とは何とも皮肉なもんだ)
「それに加え、もう一つ気になるのはテロにも使われたドローンたちだ。確かにドローンたちの制御は我々AIが行っていたが、軍用は兎も角、民間の警備用までもが自爆機能を持っているのは何ともおかしな話だ。そんな危険性がある以上、商品として認められないからね」
(自爆機能は存在しない、警備用ドローン…しかし実際にはテロによる同時爆破で多くの犠牲者を出している…)
ダニーの脳裏にはライナスや隊員たちの命を奪ったドローン兵器の自爆攻撃が浮かんでいた。
「テロに使用された警備用ドローンは水素エンジンで動くモデルだった。環境に配慮しただかで水の供給だけで稼働する優れものだったんだよ。
もしこの水素エンジンを弄って自爆攻撃に転用できたとしたら…AIのハッキングも含め並みのテロリストの腕前とは到底思えない。ひょっとしたらドローンの販売時点で自爆に転用できるよう仕込まれていたのかもしれない」
(おいおい、もしテロリストたちの仕業じゃないとしたら誰がそんな行為を起こしたというんだ?)
「このテロが起きて得をする人間だ」
(バカな…テロリストはでっち上げられたというのか!?俺たちが戦ったのはなんだったんだ?)
「私が君らの極秘作戦についてハッキングしていたのは他でもない「ウロボロスの終末」が活動再開したという情報を得たからだ。
しかし結果は的外れ、君らが戦ったのは何者かによって金で雇われた傭兵たちだった。彼らの雇い主はまだ調査中だが、少なくとも彼らはテロリストでも何でもなかった」
(そんな…俺たちは茶番劇に付き合わされたのか)
「では話を少し戻すとしよう。テロを起こすことで得をする人間がいるといったね。私も気になって独自で「ウロボロスの終末」事件についてもう一度情報を洗い直すことにした。すると面白いことが見えてきたんだよ」
黒猫がダニーの胸元から立ち上がり、軽く体を伸ばした。