その1
「これより本作戦の説明をする。諸君らが向かう先はかつて野戦病院があった跡地である。現在は廃墟となっているはずだが、先のAIによるドローン爆破テロで多数の犠牲を出した「ウロボロスの終末」のメンバーが潜伏しているとの情報が入った。
本作戦は夜半過ぎにヘリで野戦病院跡地まで約一キロ離れた地点まで移動し、上空2000米よりHALO降下して潜入する。
連中は銃火器のみならず、多数のドローン兵器を隠し持っていると見られる。そこで今回の作戦には最新鋭となるパワードスーツ「3DS-2020」を導入した。
本スーツは従来のスーツに比べ、軽量化に成功し耐久性も申し分ないものになっている。また武器や各種装備に関して自由にカスタマイズできるように設計されている。実戦投入は初めてだが、相手にとって不足はないはずである。少数精鋭ではあるが、諸君らの実力を見せてほしい」
真っ白な壁に囲まれた会議室にてスクリーンに本作戦の概要が写し出され、スピーカーより無機質な命令が流れる。
集められたメンバーは皆緊張した面持ちで作戦概要に聞き入っている。一人以外は…
「ダニー、ダニー」
一人の兵士が机に頬杖をついてうつらうつらしている目元に漆黒のバイザーを着けた男に肘で突っついた。この間にも作戦概要は訥々流されている。
「ダニー、起きろ。少佐がこっちを向いているぞ」
「…あん、ああ、もう飯の時間か。」
「何を寝惚けているんだ。作戦会議中だろ」
「おい!そこの二人!」
ダニーと呼ばれた男と彼を起こそうとしていた兵士が筋骨隆々の褐色の兵士に呼ばれた。先ほど彼等に睨みを利かせていた少佐である。
「「サー!イエス、サー!」」
二人は反射的に立ち上がって敬礼した。
「この作戦は我が国の未来にとって極めて重要なのだ。成功にはチーム全体の輪が肝となる。それを乱すのであれば、今すぐ去れ!」
「「サー!ノー、サー!」」
「貴様らはミッチリしごく必要がある。がしかし、貴様らのこれまで成績を見る限り、極めて優秀であることは分かる。本作戦に外されたくなければ、その甘ったれた態度を改めることだな!」
「「サー!イエス、サー!」」
二人は条件反射で返答していた。
………
「全くお前のせいで俺までひどい目に遭ったよ」
「作戦概要とかいうが、ほとんどパワードスーツの説明で要はヘリからHALO降下してからの正面突破ってことじゃないか。オモチャの取説はいいから、もう少し実りのある話にしてもらいたいもんだね」
「お前、よくそんな余裕でいられるな。昇進のチャンスだろうが。」
「AIとドローンとパワードスーツが幅を利かせた海兵隊で昇進しても将来的にお払い箱になるだろ。お先真っ暗だろうよ。」
「じゃあ何のために海兵隊に入ったんだ?」
ダニーと先ほどの兵士が作戦会議が終わった会議室に残って雑談していた。ダニーはバイザーを右手の中指でクイッと持ち上げ、椅子の背もたれに左肘をついた。
「親孝行よ」
「はあ?」
「親父も海兵隊に入っていてな。昔から散々英雄譚のごとく自慢話を聞かされたよ。確かに親父は英雄だったかもしれん。でもそれはAIもドローンもパワードスーツさえなかった時代さ。
今更海兵隊に入る意味なんてないと思ってはいたんだが、それでも英雄の息子と周囲から言われる以上、抗うことができなくてね。ズルズルと来ちまったわけだ」
「でもその割には成績優秀だろ」
「さすがに親父の顔に泥を塗るわけにもいかんからな」
ダニーは再びバイザーを右手の中指で持ち上げで深くため息をついた。兵士は頭を抱えてダニーを見据えた。その表情には呆れも混じっている。
「とにかく作戦から外されなかっただけでも感謝しろよ。もう明朝にはヘリで出発する。パワードスーツの使い方を少しはおさらいしとけよ」
「わかったよ、ライナス。あんたにゃ、感謝する。それより式はいつなんだ?」
「はあ?」
「そろそろ結婚するんだろ?ここんとこ噂でも持ちきりだぞ」
「ああ、彼女にはこの作戦が終わったらプロポーズするつもりだ。結婚式とかまだ早すぎる。ったく誰だ、そんな噂流したのは」
ライナスは深くため息をつき、再び頭を抱えた。
「とにかく作戦開始まで大人しくしててくれよ」
ダニーは返事の代わりにライナスへ手をヒラヒラと降った。
………
「ダニー・マードック。中々に喰えない男だ」
先ほどの会議中に態度を注意した少佐はこれまでのダニーの戦歴と成績をみながらぼやいた。
「だが、この作戦の要は奴になるかもしれん。
いずれにせよパワードスーツの戦歴如何によっては世界のパワーバランスさえも左右しかねんな」
テーブルのパソコンのマウスをクリックしながら少佐はコーヒーカップを取り、一気に飲み干した。
「少佐、お客様より電話が繋がっております」
パソコンのWeb会議室より通話許可の通知が届いた。
「お客様?誰だ」
「パワードスーツメンテナンスのキングスカンパニーCEOのフランク・フリーマン様です。今回の作戦において貴社のパワードスーツを利用するにあたり緊急で確認したいことがあるそうです」
「全くどいつもこいつもめんどくさい…わかった、繋げてくれ」
少佐は愚痴を溢しながらスピーカーとマイクを繋げた。