報告書
今私の直属の部下であるサンが、消防隊を必死に作ろうとしている。
もちろん私の命令で、サンなら統治家のスキルで良い組織にしてくれるだろう。
充分な【水のロッド】も作っているし、資金も渡している。
これはサンに経験を積ませる意味もあった。それでなければ統治家のスキルが伸びないからだ。
サンは、ダーク隊長から聞き取り調査をして、私にも聞き取り調査する程だ。
私自身は、自覚がなかったが自分自身を鑑定すると、肺はススだらけで危険な状態だった。
光魔法や洗浄を使い元に戻った。
その後が大変だった。
消防隊員の服の素材は、黄色の布地にスライム皮を貼り付けた物になった。
ちょっとゴワゴワしてテカテカして動きにくい。
しかし、焚き火び服を近づけても、熱をシャットアウト。
「中々良い服です。これで火傷の心配はありませんね・・・頭に被る物もできましたか」
「ああ、とりあえず作ったぞ」
頭全体から首まで隠す物を作った。
スライム帽子だ。
サンは、それを地面に置いて巨大ハンマーを振り被ってスライム帽子を叩きつけた。
「なにをする!」
ハンマーは、スライム帽子を破壊できなかった。
「領主さま、火事では頭上からの落下物が予想される事は、聞き取り調査でもハッキリしてます」
「え!そうなのか・・・」
「それで例の物は出来ましたか」
「ああ、それも試行錯誤して作ったよ。このボンベに空気を圧縮して入れてある。このバルブ制御が曲者だったよ。ガスの膨張と呼吸を維持するために開き加減や」
「あ!いいです。呼吸できる時間は」
「2時間は可能だ。なんせボンベには貴重なオリハルコンをコーティングしてるからね」
「そうですか・・・2時間ですか・・・」
そんな時だ。なにかに気付いて怒鳴った。
「ヤコブ!放水方向にばらつきがあるぞーー。水ロッドの威力に負けないように脇は締めて、しっかり持て!」
「はい、すいません!」
あああ、サンは隊員には容赦がないな~。
残念な事に消防隊が訓練してるのは、魔道具工房の試作試験場。
消防署を建築する土地が、いい場所がないのだ。
もう、こっちの事は見てないぞ。
訓練隊員にああだこうだと怒鳴ってる。
仕方ないからこっちも仕事をしよう。足元の報告書を取って読みだす。
あ!砦からの報告書だ。
「また不法投棄か・・・懲りない連中だ。そのスライムをありがたく砦の壁などの防衛強化に使っているともしらずに可哀想に」
今では砦の兵士達は、不法投棄をまだかと待っているそうだ。
私はこれを読んで、遠くの他領からもスライムを買取る商団を作ろうとも思った。
他領では、邪魔ものでしかたない存在で嫌われものだから・・・
ここでのスライム飼育も順調に進んでいるが、まだまだ謎の多いスライムの生態系はハッキリしない。
それが原因で劇的に増えたと報告は無い。今は1割程増えたらしい。
スライムが卵で増えるのか分裂して増えるのか、それさえも分かっていない。
そうだ赤いスライムもあれから何の報告もなかった。
「なになに、この報告書は面白い」
長距離用衝撃銃の試射報告だ。
1キロ先は充分に的を射る事が出来た。
1.5キロだと10発中5発命中、後の5発も的付近に当たったらしい。
個人で所有して微調整を続ければ、2キロでも充分当てられる可能性はある。
ただしスコープの倍率を大きくする必要がありそうだ。または距離別に銃を使い分ける方法も良い。
保管して移動するのに専用ケースで、銃に負担が掛からない工夫もしている。
そのような内容が書かれている。
ならば正式に狙撃部隊を作るしかない。
それにしてもこの報告書を書いた人物は、中々見込みがありそうだ。
これ位の知識があるのなら、この人物に狙撃隊の隊長として通用しそうだ。
この事も銃の量産ができてから考えよう。
魔道具工房にナルタがミランダを伴ないながらやってきた。
「緊急に知らせたい事があります」
「緊急、それは何だ」
「はい、昨日の火事は放火でした」
「何!放火だと」
「目撃した者の話では、複数の者たちが放火したようです」
「詳しく聞かせてくれないか・・・」
「はい、ここの言葉でない方言を聞いたと」
「その方言とは・・・」
「その方言は、ダーラン領の方言です。なのでダーランの者に間違いありません。そうなるとミザル・ダーランの配下かアルア教団に関わる者かもしれません」
「その放火犯の行方は探ったのか」
「探しておりますが、すでに遠くへ逃げたと思います」
「ミランダはどう思う」
「はい、わたしはローランド城の裏組織を使えば解決すると思います」
「ほう・・・裏組織か」
「はい、裏組織ですが極悪ではありません」
「ナルタはどう思う」
「そうですね、わたしは賛成しませんがそれもありだと思います」
「分かった・・・ミランダに任せる」
「はい、任せて下さい」
私にそれ程恨みがあるのか、いや過去に何か根深い恨みがあるのだろう。
そして今取り組んでいるのが、薬製造の為に作った回転魔具の改良型。
回転力のパワーアップを試みている。
電気モーターで回転させている。
歯車を使っての手回しでは、限界があった。作業する人間の限界だ。
所長や研究員の目は、電気モーターが回転するのを食い入るように見てる。
「ストップ!分離しました」
電気モーターが止まり、回転も徐々に遅くなる。
「鑑定結果は申し分ありません」
「良かった。これで重労働から開放されるぞ」
もう、嬉しそうに抱き合ってるぞ。
あれ!部屋の外が騒がしい。
部屋のドアを開けると、薬製造にたずさわっているスタッフが総出で抱き合い「やったー」と騒いでいるではないか・・・
そんなに重労働だったとは、申し訳ない。