甘い果実
我が城に戻った私は、スライムの皮で覆われたハウスへやって来た。
前から建てるように頼んでいたハウスで、スライムの皮が日光を通して雨風や植物を狙う動物や虫からも守ってくれる。
その代わりに水やりは自分でやるしかない。
「中々いい感じにできてるよ」
「それは良かったです。相談された時はどのような物か分かりませんでしたが、絵に描いた物に忠実に再現をできて良かったです」
そんなナルタの前でエルフの森で見つけた苗を優しく植えやる。
かたわらに置いていたジョウロで水をかけてやった。
「カルエルさま、それは何の苗でしょうか・・・」
「これか・・・アルアだよ。この苗自体も甘い味がする珍しい木なんだ。なんでも軍隊アリに美味しい実を与える見返りに、外敵から身を守らせていたようだ。しかし、軍隊アリが病気にかかってしまい死に絶えたらしい。それから食べ尽くされて絶滅したって書かれてたのに大発見だよ」
「そんな貴重な苗を栽培するのですか」
「そうだよ・・・ビックリする甘い菓子が作れるかも・・・」
「菓子をですか・・・そんな苗で・・・」
そして、地面に手を触れて植物魔法の成長を発動させる。
淡く光る地面から苗も淡く光だす。するとあれよあれよと成長して3メートルまで成長。
大きな実が20個も垂れ下がっていた。
私は1つをもぎ取ってナルタに手渡す。
「食べても良いのでしょうか」
「うん、食べてみて」
ひとかじりすると「なんとジューシな・・・そしてこの甘みは、食べた事もない甘さです」
え!そんなに甘いの・・・私も食べてみた。
信じられないぐらいに甘い。あの蜂蜜より甘いなんて・・・
18個の実を地面に埋めてゆく。そしてジョウロで水をかけてやる。
魔法を発動して実がつくまで成長させる。もう倍々に増やしハウス中がアルアだらけになってた。
収穫された実は、1000個。
「今後は担当者に水やりから肥料も月1で与えてやってね。3ヶ月で次の実がなるから、このハウスなら1年中、実がなる環境だから頼むよ」
厨房にやって来た私は「コック長、厨房を借りていいかな」
「はい、どうぞ使って下さい。領主さまには、魔道コンロなる大変に便利な物を設置していただき感謝してます」と低姿勢なコック長。
「サクッ、サクッ、サクッ」と果実を輪切りする。
魔道コンロのスイッチを入れると、パッと火がついた。
ツマミを回して中火にする。そしてバターを入れるとジューと溶けだす。
いい温度だ。輪切りの実をやさしくおいてゆく。
厨房に甘い匂いがただよう。
「いい焼き加減だ。これをひっくり返して・・・」
「あの・・・これは何ですか?」
「大昔に流行ったお菓子だよ。今の人は食べた事はないと思うよ」
「そうですか・・・それにしても甘い香りです」
「焼く事で香りが引き立つらしいね」
そして焼き上がった物を「熱々」と言いながら食べた。
「生の時より数倍も美味しい・・・これが絶滅寸前の味とは」
「カルエルさま、このナルタも試食してもよろしいでしょうか?」
「うん、食べて感想を聞かせてくれるかな」
「サクッ、サクサク・・・あのジュウーシな味と断然違いますな~。これは大人の味と表現した方がよろしいかと」
ああ、そうかもしれない。あれ!厨房の面々が・・・
フライパンの菓子は、2人して食べてしまった後だった。
「調理方法は見てたよね。10個だけ好きに使っていいよ」
「ありがとう御座います」
もうあっちこっちでフライパンを熱し始める。
生のまま食べて「美味過ぎーー」と叫ぶ者もいるぞ。
それは叔父上にも夕食のデザートとして出された。
「これは、わたしが食べた中で1番の味・・・そうだ菓子に名はないからわたしの名を与えよう。【ダルタ】と呼ぶように」
え!本にはアールって名前が書いてあったのに・・・まあ良いや・・・
叔父上の命令でスライムハウスが倍々に増えて、領内に【ダルタ】ブームが巻き起こった。
叔父上の領民思いを反映させる形で安い値段での販売となった。