第11話 夜の逢瀬は門のまえ
――オオオオアアアアア!!
――ズシン!
わたしは頬をぺちんと叩き、気分いっしん再起動!
「変な時間に起きちゃったから、調子狂っちゃったわね」
「……リ、リリアナ、それどころじゃないよ! ほんとにあれと、また戦うの?」
「だって、このままじゃ門が破られちゃうし」
わたしは歩廊から門を見おろす。星の明かりに照らされて、でっかい殿方が暴れてる。
ここはお城の正門の上。お城をぐるりと囲んでる、城壁のとくべつ厚くなったとこ。胸壁って言うのかしらね。その上にあるお通りの、小壁体の脇からわたしは見てる。
小壁体は、城壁のてっぺんの凸凹の、凸のぶぶんよ、弓矢避け。凸凹っていうか、凹凹凹ってなってるとこの、へっこんだところから見おろしてるわけ。漢字って面白いわね。
城壁のまわりの水堀の、その向こうには森がある。ポワーヌが誇るおおきな王城は、王都からすこし離れてて、わりとおおきな森のなかにある。もちろん、ちゃんとした路があって、それは水堀にかかった跳ね橋とおって、この正門に続いてる。
どういう理屈でこの立地なのか、わたしは知らないけれどもね。たぶん、街のなかでは狭かったからとか、そんな理屈で新築された。だって街にも、ちっちゃいけれど、お城っぽいのが――
――オオオオアアアアア!!
――ズシン! ズシン!
「まったく元気な殿方だこと。素敵な出会いを求めてるのね」
「どろどろ肉の巨人! このまえの井戸の化け物だ! あれがタンク!?」
「まぁ、ほんとのお名まえ、知らないけどね」
真打ち登場いちまいめ! あれぞまさしくお井戸のでかぶつ、そびえて立った肉だるま! いよっ、肉屋! ……お肉屋さん?
水掘にかかった跳ね橋の上、でっかい肉のかたまりが、門を破ろと大暴れ、お肉をよこせと吠えたける! ずしん、ずしんと門に体当たり、そのたび城壁が揺れまくる! パッショ!
……わりと間引いてるつもりだったけど、お外からくるとは盲点だった。跳ね橋あげとくんだった。きっと街で生まれちゃったのね。さすがに街まで手はまわらない。
このまえの井戸のタンクより、二回りほどでっかいわ。前のは四メートルくらいだったけど、門にパッショな体当たりしてるのは、五、六メートルはありそうよ。ジョニマー。
放っておいたらどんどん膨らみ、いったいどこまでおおきくなるのか、興味はあるけど知りたくはない。戦車砲はないからね!
「大丈夫? 君はずいぶん疲れてる」
「まだまだベーネよ、アレスクラー! “とっておき”を使うから」
そうでなければやつは倒せぬ。ふだんのわたしのチートのままでは、ぶあつい肉の装甲を、打ちやぶるにはパッショが足りぬ。ええと時間は――うん、だいじょうぶ。
わたしはショールを脱ぎすてた。
「踊るわ」
「がんばって!」
夜空に散らばる銀貨たち、わたしを綺麗に輝かせてね。
《星よ、星よ、星たちよ、みんなの光をちょっとずつ、わたしに分けておとしてね。ルイーテ・アロス・ブリィエ・アスティル!》
星の光をあつめて燈す。小壁体の上にわたしは昇り、スポットライトできらきら輝く。さあ、恋におちましょう?
――かつん!
わたしのブーツのかかとが鳴って、でかぶつがこっちにやっと気づいた。
「単孤ぶらいのワンマンアーミー! たった独りの愚連隊! イケメンどもをさばいてひらく、噂のアイドル塹壕系! バンビーナ! 人外魔境に独りで踊る、聖女リリアナここに参上! 土鍋をかかえて恋歌うたって、肉がほしいかフレッシュミート! でもわたしのまえでは今晩は、お肉は抜きよ、お父さん!」
夜のお城の門のまえ、やたら吠えてるお父さんと、ひとり娘がポルカを踊ろう。お祭りきぶんで手をとって、さあさ、いっしょに踊りま――うわあ!?
――ズドーンッ! ぐらぐらぐらっ
思いっきりの体当たり。思わずわたしは足をすべらせ、お城の壁からおっこちた!
「わあああ、落ちる! リリアナ、リリアナ!」
「恋のゆくえはフォーリンダゥンね」
十五メートルの高さから、まっさかさまに落ちながら、わたしはくるっと勢いつけて、前方開脚伸身宙返り! 着地たいせい準備オーケー!
――ゴアアア!
――ぶおんっ!
うるわし乙女の美麗な回転に、でっかい殿方、大興奮して、わたしに拍手を叩きこむ! 壁とお手てに挟まれて、このままじゃ見事にハエ叩き!
――どごん!
――ズドーンッ!
十二ゲージの雷鳴が、巨大なダンスのお誘いを、わずかに横へ反らした隙に、反動つかってわたしは城壁を、ブーツで踏みしめ駆けおりる!
背後で城壁に大きく振動、わたしはなんとか地上に降りて、ぐるっと駆けぬけスリーステップターン! 勢いころしてタンクと対峙。ホップしながら、すかさず呼びだす、ぎらりと光る銃剣。
「やっぱり効いちゃいないわね」
でっかい肉の殿方は、右手を壁から引きぬいて、無傷のそれをこちらに向けて、ぐいっと握って拳をつくる。そしていきなり突撃ざまに、わたしにそれを振りおろす!
――ゴゥア!
わたしは着剣しながらに、シャッセで横をすり抜けざまに、でかぶつの腕に斬りつける!
――ずばっ
――ズズーンッ!
背後であがる地面の悲鳴。わたしはそのまま振りかえる。ベイヨネットが唸りをあげて、肉には一筋きずがつくけど――
「リリアナ、あの凄い技を……」
「いいえ、あれは効かないわ。ヴォワラ、傷が治っちゃう」
ぶっとい肉のその腕の、傷の周りの肉が押しよせ、あっという間に元どおり。相変わらずね、たくましいこと。タフなあいてとタフな選択。
「癒しの力!? リリアナとそっくりだ!」
「ディドンㇰ! わたしあんなに太ってないわ!」
「ご、ごめん、きっと別の力で――」
頭の上に文句を言って、ほんのわずかに見せた隙。そいつがちょいと拙かった。
――ズドオッ!
「あうっ!」
ノーモーションのうしろ蹴り。六メートルの鈍重な殿方にしちゃ、見事な体技を見せたもの。わたしは咄嗟に受けようとして――そのまま吹きとび、水堀のなか。
――どぼーん! ぶくぶくぶく……
やってくれるわ、お父さん。親子の愛情おもすぎる。指輪を買えずにアルノ川。腕が全損、アバラも損壊、モデル九七も折れちゃって、白いドレスも布きれ同然。まっくら闇の水のなか、花の香りが満ちてゆく。
――コゥ……
暗い暗い水底で、淡い光がわたしを包む。
まったくひどい壊れ方。癒しの力がなかったら、六十人の殿方よんでも、さらに六十ふやしても、けっして元にはもどらないとこ。世界中の殿方が、おいおい涙をながすとこ。おあーって泣くのかも。
「“リリアナ、リリアナ、大丈夫!?”」
お水のなかを光めあてに、ブローが泳いでやってきた。やけにはっきり聞こえてくるのは、カエルさんだからか、翻訳の魔法だからか。わたしは微笑みうなずいて、水面めざして浮きあがる。
「ぷはっ、水もしたたるいい女!」
「でも、どうするの? 打つ手がないよ」
「言ったでしょ、“とっておき”を使うって」
わたしはブローを頭に乗せて、水堀を凄い勢いで這いあがり、前方倒立回転で、くるっと地面に降りたった。ちょうど対岸に渡っちゃったわね。
跳ね橋の上ではでかぶつが、また門に体当たりを始めてたけど、こっちに気づくと向きなおり、パッショに吠えてやってくる。
――オオオオアアアアア!!
木製の橋ぎしぎし、踏みゆらし、肉の塊がやってくる。
おなかをすかせたお父さん、腕っぷしにものを言わせて、おまえもお肉にかえてやる? でもねわたしは大和撫子、肉屋に恋する豚になるには、ちょいと頭が切れすぎるのよ。
――女は度胸! 乙女は愛嬌! そしてわたしは器量よし! 上等!
わたしはひとつ深呼吸。いざ! ウィイイイルビーアベンジド!
「籠城戦は女の得手よ、お堅い聖女の乙女の門を、破れるものなら見知りおけ! お城の聖女はここにあり! 三歩下がって三つ指ついて、家を護って亭主関白! 宣言ののち直ちに失権、哀愁だだよう島流し! 盛者ひっすい、お父さん! いまこそ見せよう禁断のわざ! 聖女ひっさつ、変身のとき!」
わたしはたからか呪文をとなえて、思いのたけを解きはなつ。
《思いは力、力は魔法、すべてを変える、わたしの魔法!》
――シュバーッ!
たちまち輝くわたしのからだ。黄金のオーラがわたしを包む。お空にきらめく黄金の星、くるくるまわって落ちてきて、わたしの額に飛びこんで、つよくつよくに輝き光る!
これがわたしのキラキラモード、全力全開、思いをこめて!
「ゆくぞ、でかぶつ!」
瞬時に再召喚したモデル九七をその手にかかげ、わたしはタンクに突撃かます。サヴォイア!
「リリアナ、君のおでこに星が光って……!」
「これがわたしの“とっておき”」
魔法の弾丸も銃剣も、わたしのいろんな技だって、言ってみれば通常モード。いっぽうこちらは特別な、わたしがきらめき輝くモード。名づけて謳うは《キラキラモード》!
額にかがやく黄金の星こそ、天下ごめんのわたしのしるし! これがわたしの梅ぼしの術。どんなでっかい化け物だって、いともたやすく、ぽぽいのぽいよ!
――ゴアアアア!
お父さんが猛りくるって、わたしを真っこう打ちたおさんと、走りくるけど、動きが遅い。わたしにはスローモーションで見えてるわ。
わたしはそのまま駆けよりざまに、恋の弾丸みだれ撃ち!
――どごんっ! しゅこっ どごんっ! しゅこっ どごんっ! しゅこっ
さっきまでは弾かれていた、肉の壁などものともせずに、星の光が弾けて飛んで、肉の巨人に穴うがつ!
たまらず、たたらを踏む巨人、驚き畏れて再びパンチ!
――ゴアアアア!
――がしいっ!
「ええっ!?」
わたしはそれを両手で止めた。ブローが頭の上で叫んでるけど、それはちょいと置いといて、ぐいと足に力こめ、今度はわたしが投げとばす!
「えいやあ!」
――グオオオオッ!?
――ずしーんっ!
六メートルの肉の巨人が、思いっきりに宙を飛び、対岸の木ぎを圧しおりながら、おっきな尻餅をついて倒れた。
そして慌てて身を起こし、きょろきょろするけど、わたしはいない。
「ふぁっかなどぅふぉーや?」
――どごんっ! しゅこっ どごんっ! しゅこっ どごんっ! しゅこっ
背に聞こえた声に驚き、慌てて振りむくでかぶつに、わたしは恋を畳みこむ。
肉が弾けて大穴あけて、たくさんお花が舞いちって、ぶるんぶるんとお肉がゆれる。おなかで太鼓が叩けそう!
いったいなにを紡いだら、そんなおなかになるのかしらね。王子さまとの結婚式にも、そのまんまじゃあ呼べないわ。わたしがダイエットさせたげる!
お父さんの周りをくるくる、ダブルサークルでまわりながらに、わたしはなんども撃ちこんでゆく。ちょうどからだが濡れていたとこ、椅子とりあそびにゃちょうどいい。
よろめく巨人は花まみれ。わたしはそのまま巨人の肩まで、腕をつたって駆けのぼり、眉間に銃を突きつけた。
驚き目をむく肉の顔。わたしはがちりと撃鉄おこす。
額に輝く黄金の星、光って唸って轟いて、わたしのからだを星の光が、まわりにまわって煌めいて、ショットガンが黄金に輝く!
――キュオオオ……
「夢でたくさんお肉を食べてね。ボヌニュィ、パパ」
――ずどおおんっ!!
特大の星の光の銃弾たちが、タンクの頭を消しとばす。ゼァーズルゥフォーユゥ、アンドヒァズサムフォーミィ。
ゆっくり倒れる巨人を背にして、わたしはくるりと降りたって、星の燈りのカーテシー。今宵はここまで、ボンヴトゥーㇵ。
どろどろ肉の塊は、そのまま溶けてほどけてく。よく見りゃゾンビがたくさん重なり、くっついてたのが離れてく。数十人の組み体操、倒れりゃみんな共倒れ。
井戸のときとおんなじね。これでしばらくはダマになるまい。
「すごいよリリアナ、こんな力があるなんて! どんどん行こうよ、この調子!」
「今日は疲れたからもう店仕舞い」
「えぇ……」
ブローが頭の上でなにか言ってるけど、細かいことは――
「……あっ」
そうか、そうだ、忘れてた。こいつよ、タンク! この肉のでっかいの! 時の魔法でゾンビのループ? でも、巨人の要素がないじゃない。
うあー、考察しなおしかぁ! おのれタンクめ、ゆるすまじ!




