0070:見張りの順番
昨晩はマリーナにたっぷりとお仕置きをした。決して普段の仕返しをしたわけでは無い。多分だけど。
「さて、今日は誰かさんのお陰でやりたくない仕事に行くよ~。」
『うぅぅ、旦那様は性格が悪いですね・・・』
「何を人聞きの悪いことを。お仕置きが足りなかったようだね。」
『え、そ、それだけは勘弁して下さいよ~。』
とりあえず、朝食を食べてギルドに向かった。
ギルドにたどり着いたが、ギルドの入り口は多くの冒険者達で溢れ帰っている。ざっと見ても200~300人くらいはいそうだ。
「これ全部が討伐隊の志願者なのか。凄い人の数だね。人に酔いそうだよ。」
『旦那様、くれぐれも吐かないようにして下さいね、頼みますよ。』
以前の討伐戦の時は100人くらいだったのと、初めての討伐戦だったから緊張して周りを気にする余裕が無かったので大丈夫だったが。
『ご主人様、大丈夫ですか?』
「今のところは大丈夫かな・・・」
いざ戦闘となれば大丈夫だと思うが、それまでの間は辛いな。まぁ、この人混みにも慣れないといけないんだけどね。
暫くすると、ごっついオッサンがギルドの中から出て来て、演説台の上に登った。演説台なんていつの間に準備したのか。
「誰だ? あのゴリマッチョは。」
『レ、レイさん。ちょっと失礼ですよ・・・』
ごっついオッサンは演説台の上から、集まった冒険者達を睨み付けるように一通り周囲を眺めると話し始めた。思っていたよりも普通の声をしている。
『諸君、よく集まってくれた! まずは諸君らの勇気に感謝する。知っている者も多いと思うが、まずは自己紹介をしよう。俺の名は副ギルド長のゴメスだ。』
このごっついオッサンは副ギルド長だったようだ。そういえば、オークシンの副ギルド長もごっついオッサンだったな。ひょっとしたらギルドという組織はごっつくならないと偉くなれないのかな?
『既に諸君らも知っての通り、この都市の近くにオークの巣が見つかった。少なくとも100匹以上のオークがいることが想定される。』
ここで一旦、言葉を切った。100匹以上のオークと聞いて怖じ気付く冒険者がいないか確認しているようだ。周りを見ても、誰も怖じ気付いている様子は無い。
『しかし、ここにいる勇敢な冒険者300人がいればオークの100匹程度は、なんら障害にならないと信じている!!』
『おぉ、そうだ。オークなんか屁でもねぇ。』
『オークごときに遅れをとる俺らじゃねぇ。』
『オークなんか皆殺しにしてやるぞぉ。』
副ギルド長の言葉に冒険者達も声をあげた。みんな、簡単に乗るんだね。
『そして、今回の討伐隊の指揮は、この俺が直接取る。そして活躍した者には特別報酬を出すことを俺が約束しよう!』
冒険者達から、『おぉぉ』と言う声があがる。思っていたよりも気前がいいね。むしろ裏があるんじゃないかと疑ってしまうよ。
『移動用の馬車はギルドで用意してある。馬車広場に移動してくれ。』
冒険者達はギルドの入り口から馬車広場へぞろぞろと移動し始めた。馬車広場に着くとギルドが用意した馬車は全部で15台だ。もちろん空間拡張された馬車だ。
ひょっとしたら、バラバラの部屋になるかもと心配したが5人部屋だった。どうやらギルドが用意した馬車は5人部屋が6部屋ある馬車のようで、5人パーティーまでは1部屋、それ以上なら2部屋のようだ。ちなみにソロは相部屋とのことだ。こんなところでもソロは厳しいようだ。
馬車に乗る前にギルド職員から説明があった。まず、オークの巣までは馬車で丸1日かかること、途中で野営するので各馬車で見張りを決めるようにとのことだった。
全ての冒険者達が馬車に乗ったところで出発となった。ちなみに、俺達が乗った馬車には、4人パーティーが3組、5人パーティーが2組がいる。
馬車が出発したところで各パーティーのリーダーが集まって見張りに関して相談することになった。集まった各パーティーのリーダー陣を見ると、俺を含めて男が4人、女が1人だ。
「 (へぇ、女性のリーダーもいるんだな。しかも結構な美人だよな) 」
すると、茶髪美人の女性リーダーが最初に発言した。
『見張りに関しては、パーティー毎で担当するで良いわよね?』
ここに関しては、誰も異論は無いようだ。
『どうやら、パーティー毎で見張りを担当するのは問題無しね。じゃあ、次は見張りの順番だけど、各自で希望はあるかしら?』
見張りは真ん中が一番辛いよな。何故ならモンスターが一番出てくる時間帯になりそうなのと、睡眠時間が中途半端になるからだ。なので普通は一番最初か一番最後がベストだが。
今は全員が沈黙している。真ん中はやりたくないが、率先して一番最初や一番最後をやりたいとは言い出し難いといった感じだ。
「俺達が真ん中でいいよ。」
このまま沈黙が続きそうだったので、あえて真ん中をやると言った。そうすると、『じゃあ、俺達は2番目でいい』、『なら、俺達は4番目でいいぞ』と決まっていった。そして女性リーダーは『私達が最初に見張りをするわね』と言い、全ての順番が決定したようだ。
各パーティーのリーダー達は自分たちの部屋に戻っていく。女性リーダーが帰り際に一言。
『ありがとね。貴方のお陰で揉めること無く決まったわ。私はパーティー春風のリーダーをしている、エリーよ。よろしくね。』
「俺達はまだパーティー名が無いけど、リーダーをしているレイと言います。よろしくお願いします。」
お互いに簡単な挨拶をして自分たちの部屋に戻った。アイリーン達に見張りの件を言っておかないとな。
「………という事で、すまないけど、見張りの順番は真ん中になっちゃった。」
『ご主人様、別に問題無いですよ、それくらい。』
『旦那様のことだから、もっと面倒事を押し付けられてくると思ったのに。』
『主様、私も問題無いです。』
『レイさん、大したことじゃ無いですよ。』
良かった、特に問題は無いようだった。と思っていたが、アイリーン達の次の言葉が
『どうせ綺麗な女性がいたんですよね、ご主人様?』
『まぁ、旦那様のことだから良いところを見せようとしたんでしょう?』
『主様だしね。』
『レイさん? 本当ですか?』
問題はあったようだ・・・問題の方向性は違うようだが。ただ女性リーダーは確かに美人だったけど、それで真ん中と言ったわけでは無いことを説明した。ちゃんと説明をしたはずなんだが、
『『はいはい。分かりましたよ。』』
と軽くあしらわれた。本当のことなのに・・・何かがおかしい・・・
俺は腑に落ちない表情をしてたのだろう、アイリーン達が
『『もう、気にしていないですからね。』』
あくまでも俺がやらかしたことになっているようだ・・・
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