0304:飛竜の谷に到着
ギルドのカウンター横の酒場で酒を少し飲んだ翌日だ。
『なんでかなぁ? 後頭部が痛いよ・・・ちょっと飲み過ぎたのかなぁ?』
マリーナが頭を押さえているので回復スキルを使ってやった。どうやら昨日のことはまったく覚えていないようだ。
『飲み過ぎは駄目ですよ、マリーナ。』
いやいや、アイリーンよ、それは明らかに違うだろう? まぁ完全にマリーナの自業自得のはずなんだけどね。
そして、それに対して他のメンバーは何も言わない。どうやらマリーナを見捨てたらしいな。
「まぁ、そんなことよりもギルドに行って依頼でも受けようか?」
『そうだよね、それが良いよ。』
『なら早くギルドに行こうか?』
皆がギルドに行くことを急かすので、むしろマリーナが疑っている・・・
『ねぇ? 何か隠していない?』
「そんなことは無いよ。早くしないと置いていくよ?」
『う~ん、なんか怪しいんだけどなぁ・・・』
怪しんでいるマリーナを放置してギルドに向かうことにした。まぁすぐに忘れるだろう。ギルドに到着すると受付嬢がニッコリしていた。
『ちゃんと約束通り来てくれましたね。ありがとうございます。』
「約束はちゃんと守りますよ。それで受けて欲しいと言っていた依頼ってどんな内容なんですか?」
『あら、せっかちね。まぁいいわ。受けて欲しい依頼なんだけど、このサビラハンから東に行ったところにある飛竜の谷にいるワイバーンの討伐をお願いしたいのよ。出来るかしら?』
受付嬢が言うには、飛竜の谷にいるワイバーンの数が増えておりワイバーンによる被害が多くなってきていることだ。
「それって指名依頼ってことで良いんですよね?」
『そうね、受けてくれるなら指名依頼にさせてもらうわ。』
指名依頼になるなら受けてもいいかな。そのほうが報酬は多くもらえるし。
「分かりました。その依頼を受けますね。」
『本当? ありがとう。助かるわ。それで飛竜の谷の場所なんだけど・・・』
受付嬢から飛竜の谷の場所に聞いてギルドを出た。飛竜の谷までは砂上船で3日間くらいとのことだ。
「今回は少しだけゆっくりと行くことにしようか。」
『そうですね。そのほうがいいかも知れないですね。ご主人様。』
『え、なんでなの? 旦那様、アイリーン。』
「ほら、ドゥードルバグの時にみたいにあまり早く討伐から帰ってくると変に思われる可能性が出てくるからね。」
『あぁ、なるほど・・・確かにそうかも知れないね。』
なので少しのんびりと飛竜の谷に向かうことにした。折角スピードが出る砂上船を手に入れたのにという思いはあるが。
………
………
砂上船で飛竜の谷へ向かっている最中である。
「ワイバーンってそんなに数が増えるものなのかな?」
俺の知っている動物の世界では強い動物ほど子供を生む数は少ない。これがモンスターに当てはまるのか知らないが、そこまで外れていないと思う。
そのいい例がゴブリンやラージラビットだと思う。奴らは数を減らすことはまずない。
「ねぇ、サーラ。ワイバーンのランクって知ってる?」
『ワイバーンですか? ランクBモンスターのはずですよ。そもそもランクAモンスターの討伐依頼なら止めていますよ。』
なるほど。ということはサーラはランクBモンスターの討伐なら問題無いとみているわけか。
サーラの見立ては元受付嬢だけあってしっかりとしている印象がある。少しでも危険だと思ったらちゃんと注意してくれるからな。
『レイさん。でもワイバーンの数が多かったらちょっと注意ですよ。』
………それは最初に言って欲しかったな。サーラはちょっと注意が遅い時があるな。注意してくれるだけ助かるけど・・・
………
………
途中で休憩をしながらゆっくりと進み、しっかりと3日間かけて飛竜の谷に到着した。
飛竜の谷は谷と言いつつも、大きく切り立った2つの岩山の隙間のことだった。少し離れたところから見てもワイバーンが飛んでいるのが分かった。
「う~ん、少なくても10匹以上はいるよね? というか、もっとか・・・」
『岩山で隠れているワイバーンもいるでしょうから20~30匹以上はいると思ったほうがいいですよ、ご主人様。』
やっぱりそうだよね。これはサーラの悪い予想が当たったかな。
「出来れば少しずつ倒していきたいな。とりあえず、夜まで待ってから岩山に近付いてみようか?」
『レイ、夜に移動するのはかえって危険よ。あの岩山の地形はほとんど分かっていないからね。だから出来れば明るい時に移動したほうがいいわ。』
なるほどね。確かにイザベラの言う通りかも知れないな。暗闇で襲撃されたら危険だ。
「だとすると、早朝に移動するのがいいのかな。なら、一旦少し離れて早朝まで待つか。」
という事で飛竜の谷から少し離れたところに移動して砂上船でもう一泊することにした。
さすがにイチャイチャタイムは無しだ。
………
………
翌朝、再び飛竜の谷の近くに近寄ってみた。やっぱり、ワイバーン達が飛び交っている。
しかし、よく観察して見ると特に群れている感じがしない。むしろ複数のグループに別れており、それぞれのグループが牽制しあっているように見える。
「ひょっとして、これなら個別のグループを誘い出すことが出来るかな?」
『そうですね、レイさん。ワイバーンは生態が分かっていないモンスターなので何とも言えないですけど。』
試してみる価値はあるよな。ヤバそうならゲートで逃げるという手が使えるし。
〈鑑定〉
ワイバーン x4
スキル:火魔法、剛健
「持っているスキルは火魔法と剛健だけか。でも素の能力は高いんだろうな。」
1グループが他のグループと離れた瞬間を見計らってリーダーっぽいワイバーンに向かって小石を投げつけた。
小石は見事に命中し、ワイバーンの意識がこちらに向いた。
『グアァァァ!』
リーダーっぽいワイバーンが吼えると残りのワイバーンもこちらに向かってきた。
他のグループが来ないように飛竜の谷の外にワイバーン達を誘き寄せた。
「うまくいったようだね。」
誘き寄せたワイバーン達は俺達の頭上を旋回さている。おそらくは攻撃するタイミングを計っているのだろう。
『レイさん、弓矢で攻撃をしますか?』
「そうだね、ワイバーンの羽を狙ってくれるかな?」
『分かりました。やってみますね。』
サーラ、カレン、クレア、ミラージュが弓を構えて狙いを付けている。
『いきます!』
サーラが合図を送るとカレン、クレア、ミラージュも一斉に矢を放った。サーラ達4人は弓を連射している。しかも連射した矢のほとんどがワイバーンの羽に命中している。
「へぇ、凄いな・・・」
感心して眺めているとワイバーン達が地上に降りてきた。
『ガアァァァァ!』
『グアァァァ!』
『ギ、ギヤァァァ!』
ワイバーン達はかなり怒り心頭のようだ。牙を剥き出しにして俺達を威嚇してきている。
「今度は俺達が頑張る番だね。」
アイリーン、マリーナ、エリー、シシリアが盾を構えてワイバーンの前に立ちはだかった。その後ろにはレジーナ、ジャンヌ、メリッサ、イザベラ、エメリア、俺が控えている。
ワイバーン達の口から炎が噴き出し始めた。
「全員、魔法シールドを展開!」
ワイバーン達が一斉に炎を放ってきた。盾組が前面に立ち、俺達は盾組の後ろにまわった。もちろん魔法シールドは展開したままだ。
「あちち・・・」
魔法シールドのおかげで炎による直接のダメージは無かったが熱さは完全にはブロックが出来なかったようだ。
ワイバーンの炎をとりあえず防ぐことが出来、今度はこちらの攻撃だ。一気にワイバーンの懐に飛び込んだ。
『あ、レイさん! ワイバーンの尻尾には気を付けてくださいよ。毒があるはずです!』
それは先に言っておいて欲しかったな。もう懐に飛び込んだ後なので・・・
気を付けろと言われた直後にワイバーンの尻尾が目の前に迫ってきた。
「剣豪スキル、頼むよ!」
間一髪でワイバーンの尻尾を回避した。剣豪スキルはやっぱり素晴らしい!




