0291:王都攻略戦
その後も2つの都市を制圧した。明日にはアレストの王都に到着する予定だ。途中で制圧した都市もゾンビだらけで結局、生存者はゼロだった。
アレストの王都へ向かう途中の馬車での会話だ。
「この分だと王都も駄目かな?」
『そうね・・・正直、かなり厳しい状況だと思うわよ、レイ。』
普通に考えるとそうなるだろうな。アレストの王族や貴族に対しては気にしていないが、一般の住民が犠牲になっているのが・・・
すると突然、前方から大声で止まれの合図が。
『全軍、止まれー!』
前方からの指示が後続へと伝えられていった。何があったのか分からないが、俺達も馬車を停止させて次の指示を待っていた。
すると伝令の1人が俺達の馬車にやって来た。どうやら公爵が俺達をお呼びとのことだ。なので公爵の馬車に向かうと既にアレックスとソリアーノがいた。
『お、レイも来たか。全員揃ったな。単刀直入に言うぞ。先ほど斥候から王都の様子が伝えられたのだが、王都は今、ゾンビの集団に襲われているようなのだ。』
「それって・・・ひょっとして・・・」
『そうだ。王都はまだ陥落していないと思われる、ということだ。』
『………もしかして、公爵様はアレストの連中を助けるつもりなんですか? 宣戦布告してきた連中ですよ?』
そうだった・・・あまりにも想定外の流れですっかりと忘れてたな・・・
『………確かにそうだが、宣戦布告をしてきた相手がゾンビに襲われているというのも変だと思わないか?』
『う・・・そ、それはそうですが・・・』
『それにだ、我々の敵はアレストの王族、貴族であって民衆では無いはずだ。』
これに関しては公爵の言う通りだよな。民衆を見殺しにはしたくないよな。
………
………
『………分かりました。確かにその通りだと思います。公爵様の決定に従います。』
どうやら、アレックスも納得したようだ。
『公爵様、それで僕達はこれからどうすれば良いですか?』
『斥候の話では王都の城門にゾンビが群がっているということだ。そのゾンビ達を蹴散らして欲しい。これからすぐに貴族達と会議をするが全軍にはならんかも知れないな・・・』
………まぁ、放置しようと言ってくる貴族もいるだろうな。そうすれば、楽して王都を手に入れることが出来そうだしね。
とりあえず、公爵とソリアーノが会議に出掛けて行った。今日のお供はソリアーノだ。
そして公爵達が戻ってくるまで公爵の馬車で待機することになった。アレックスは足を組んで貧乏揺すりをしていた。
「そんなにイラついても仕方が無いと思うよ。」
『分かってる! 分かってるんだけどな・・・』
………
………
う~ん、早く公爵達が帰ってこないかなぁ。この気まずい雰囲気は辛いぞ・・・
………
………
『おぅ、アレックス、レイ。今、戻ったぞ。』
おぉ、やっと戻ってきてくれたよ。こんなに公爵を待ちわびたことは無かったな。
「会議の結果はどうなりましたか?」
『結局、意見が割れてしまったな。なので有志だけでアレストを攻めているゾンビを蹴散らすことになったよ。』
『ふん、やる気の無い連中がいたら邪魔になるだけだ。なら少数精鋭のほうがずっとマシってもんだな。』
「あれ? アレックスは反対じゃなかったの?」
『やると決まったらやるに決まってるだろう? 当たり前の事を聞くなよ。』
公爵とソリアーノがニタニタしており、アレックスがそっぽを向いている。いい年をしたゴッツイ男が拗ねても気色悪いだけなんだが。
『それで、俺達はいつ出発すればいいんですか?』
『2時間後に出発するぞ。』
「え、そんなにすぐですか?」
『何を言っているんだ、レイよ。別に問題は無いだろう? 元々進軍していた訳だしな。』
まぁ、そうなんだけどね。
「分かりました。それじゃあ、すぐに出発出来るように準備してきます。」
公爵の馬車を出て俺達の馬車に戻りアイリーン達にすぐに出発することを伝えた。
『ご主人様、私達はいつでも大丈夫ですよ。』
他のメンバーも頷いている。確かにいつでも出発出来そうだな。
………
………
2時間後、全軍の半分が急ぎアレストの王都に向かうことになった。
「思ったよりも人数が多いね。もっと少なくなると思ったんだけどな。」
『我が君、貴族の全員が領地持ちという訳じゃないですからね。ここで戦果を上げたいと思っている貴族も多いと思いますよ。』
御者席にいるカレンが教えてくれた。戦功を焦っている貴族もそれなりに多いということらしい。貴族も中々大変だな。
王都まであと少しのところで停止した。
『ここで夜営とする。明日はここから徒歩で王都に向かうことになるから各自準備してくれ。くれぐれも抜け駆けをしないように。』
あちこちで夜営の準備をしている。俺達は特に準備することは無いが。
公爵からの伝令が来たが、すぐに馬車へ来いというものでは無かった。その代わりに明日の朝早くに来いだったが。
………
………
翌朝、言われた通りに少しだけ早く公爵の馬車に向かった。
『遅いぞ、レイ。今から城門に集まっているゾンビ共を蹴散らしに行くぞ!』
公爵の馬車に到着すると既にアレックス達はもちろんのことゾンビ討伐隊の面々が勢揃いしていた。
どうやら、公爵が討伐隊の指揮を執るようだ。
『我々の目標は王都を囲んでいるゾンビ共を倒して王都にいる民衆を救うことだ。全軍、出陣するぞ!』
『『おぉぉぉぉ!!』』
全軍が城門の向かって走り始めた。ほどなくして城門に終結しているゾンビ共が見えてきた。かなりの数のゾンビ共がいるようだ。少なくとも数千体はいそうだな。
「よし、圧縮ファイアボールで蹴散らすか。」
『ちょっと、駄目よレイ。そんなことをしたら城門まで吹き飛んでしまうでしょ?』
「え、駄目なの? 仕方が無いな。それならファイアランスか。」
『まぁ、それならね。というか走りながら魔法が使えるの?』
「まぁね。ちょっとだけ苦労するけどね。」
そう言って走りながらファイアランスの準備をした。しかし走りながらの魔法は半分程度の威力しか出せない。どうしても走りながらでは足元にも注意がいってしまう。
「よし、ファイアランスを放つよ! ちょっとだけ注意してね!」
『『え? なんで?』』
密集しているゾンビ共に向かってファイアランスを撃ち放った。ファイアランスがゾンビを蹴散らして地面に突き刺さり、その後ファイアランスが爆発した。
「よし、成功した! ファイアランスの先っぽにファイアボールを付与してみたんだよね。上手く出来たね。」
ふふふ、褒めてくれるかな?
『あなたは馬鹿ですか?』
『危ないじゃないですか?』
『やる前にちゃんと説明して下さい!』
『あははは、やっぱり馬鹿ですね。』
あれ? 誰も褒めてくれないな・・・むしろ怒られてしまった・・・
「えっと、駄目だった?」
『………もう、いいです。さっさとゾンビ達を蹴散らしますよ。』
おかしいな、褒めてもらえる予定だったんだけどな。でもファイアランスのおかげでゾンビ達の数が大分減った。
『すげぇな、さすがはレイだな。これで少しは楽になるな。』
『そうだね。レイ君のおかげでやりやすくなったよ。』
アレックスとソリアーノは褒めてくれた。でも野郎共に褒めてもらってもあまり嬉しくない。
背後から攻撃を受けたゾンビ達がこちらに気付き向かってきた。こちらは魔法が使えるメンバー全員が魔法で迎え撃とうをしている。
そして次々と魔法が放たれていった。数百人による一斉魔法攻撃は中々迫力のある光景だ。まるで次々と打ち上げられる花火のようだった。
「これは中々見れない光景だよね。」
『『………そうですね、確かに凄い光景ですよね。』』
そして魔法攻撃が終わり肉弾戦に移った。
『おっしゃー、野郎共! 突っ込むぞぉ!』
『『おぉぉぉぉ!!』』
『『私達は野郎共じゃない!』』
兵士や冒険者達がゾンビの群れに突っ込みゾンビ達を蹴散らしていった。俺達も兵士や冒険者の後に続いてゾンビ達の群れに突入した。
幸いなことに高ランク冒険者のゾンビはいないようだ。なので、戦況はこちらが優勢だ。
しかし、何か変な感じがするな。何かを忘れているような気がする・・・




