0281:戦争の予兆
1匹目のオーガを倒したことで調子に乗ったマリーナが、もう少しオーガを倒してみたいと言い始めた。なのでマリーナの希望通りにその後も数匹のオーガを倒した。
どうやらマリーナは前衛とやっていけそうだ。もちろん、もう少し鍛える必要はあるが。
鍛えるのはアイリーンかイザベラに頼むか。
浮かれているマリーナは俺がそんな事を考えているとは知らずにいる。とりあえずダルハイムに戻ってきた。
オーガの魔石や素材を買い取りしてもらうためにギルドに向かった。ギルドに入って受付カウンターに行こうとしたところでギルドの中が騒がしいことに気が付いた。
「何だろうね、何か騒がしいよね。」
冒険者達が話し合ってあるのを盗み聞きしてみる。
『おい、聞いたか! アレストが宣戦布告してきたらしいな!』
『あぁ、聞いたぞ。しかしアレストは気が狂ったのか?』
『今回も返り討ちにしてやるぜ!』
冒険者達の話を聞いた限りではアレストが宣戦布告をしてきたらしい。しかし俺の知っている限りアレストはここ最近は連敗続きのはずなんだが。
「どう思う? 本当にアレストが宣戦布告してきたのかな?」
『う~ん、ちょっと信じられないわね。もし本当に宣戦布告したのなら気が触れたのかも知れないわね。』
イザベラも呆れたといった感じだ。まぁ少なくても俺もそう思うな。
そして冒険者達の話はまだ続いている。
『だが最近、アレストに加担している連中がいるって噂があるぞ?』
『それって、どんな連中なんだ?』
『それは分からない。だけど恐ろしく強い連中らしい。』
冒険者達の話を盗み聞きした話の内容を整理するとアレストに救世主が現れて強気になっているということか。面倒臭そうな話だ。
『旦那様、どうするつもりですか?』
「うん? それって戦争に参加するか、参加しないかってこと?」
『もちろんです。』
「出来れば、あまり戦争に参加する気は無いんだけどね。」
正直、人を相手に殺し合いはしたくない。もちろん盗賊等は仕方が無いんだが・・・
『ご主人様、ならば今のうちに遠くに出かけますか?』
アイリーンは強制的に参加させられることを懸念しているんだろうな。確かにその可能性は非常に高いと思っているし、カレンがいなければそれも考えるんだけどね。
『我が君、ひょっとしたら私の父のことを考えていますか?』
「まぁ、そうだね。きっと公爵は戦争に参加するだろう?」
『それは貴族として当然の勤めなので参加すると思います。』
「だとすると放っておけないよね。さすがにねぇ・・・」
カレンを含めて全員を嫁だと思っている。なので気持ち的には公爵は義理の父みたいなものだからね。
『我が君、ありがとうございます。』
「ただし参加要請が無い限りは自分達から参加するつもりは無いからね。」
『はい! それは承知しています。』
「じゃあ、とりあえず本来の目的であるオーガの魔石や素材を買い取りをしてもらおうか。」
受付カウンターに向かおうとすると、カウンターに笑顔で手招きしている受付嬢がいた。
「………あの顔は嫌な依頼を押し付ける時の顔だよね?」
『そうだね、レイくん。あれはヤバいね。』
「う~ん、引き返すか・・・」
『ちょっ、ちょっと待ってくださいよ? レイさん達、何で帰ろうとするんですか? しかも、私の顔を見て帰ろうとしましたよね?』
お、よく分かっているね。さすがだね。
「いや、ほら、その顔を俺達に依頼を押し付ける気でしょ?」
『さっすがは高ランク冒険者ですよね、レイさん。よく分かりましたね。お察しの通りで、エドワード公爵様がお呼びですよ。』
さっさと屋敷に向かえと言わんばかりに受付嬢は俺の背中を押してギルドの外に追い出そうとしてくる。
「え、ちょっと押さないで下さいよ・・・」
『ほら、レイさん。屋敷に向かって下さい。』
受付嬢は胸を押し付けてこようとする。こうなると踏ん張るという選択肢が無くなるよな。アイリーンの視線があるからね。
結局、受付嬢にギルドから追い出されてしまった。
「ちぇっ、仕方が無いな。公爵の屋敷に行くしか無いか。」
『ふふふ、仕方が無いですよねぇ? 公爵様の屋敷に行きましょうか。ねぇレイさん。』
「え、サーラ、何で笑ってるの?」
『だって、さっきまでは要請があれば公爵の屋敷に向かうって言ってましたよね?』
あぁ、確かに言っていたな。受付嬢の強引なやり方に反発していただけか。
「さ、さてと公爵の屋敷に向かうとするか。」
『『ハイハイ、行きましょうか。』』
あ、なんか子供扱いされているぞ。
『ふふふ、レイちゃんは可愛いのう。』
『旦那様はお子様ですからね。』
マリーナとミラージュに関してはハッキリと言い切りやがったな。
とりあえず公爵の屋敷に到着し、門番がすぐに案内してくれた。門番が部屋の扉をノックするといつものように公爵の声がした。
『入っていいぞ。』
部屋の中に入ると相変わらず書類の山に埋もれているかと思ったが驚いたことに書類が無かった。そして、いつもなら事務机に座っている公爵がソファに座っていた。
「あれ? 書類が無いですね? ひょっとしたら仕事を放棄しました?」
『馬鹿か、お前は。仕事を部下に分散するようにしたんだよ。ようやく仕事を任せられるようになってな。それよりもレイも座れ。』
なるほどね。仕事を任せられる程に部下が成長したってことか。中々大変だな。
「そんなことよりも俺達を呼んでいると聞いて来ました。ひょっとしてアレストの件でしょうか?」
『そんなことって、お前は・・・まぁそっちは良いが、アレストの件はどこまで聞いている?』
「俺達が知っているのはアレストが宣戦布告をしてきたということまでです。」
『そこまで知っているなら話は早いな。こちらとしても宣戦布告を受けた以上は迎え撃たないといけない。済まないがレイ達の力を貸してくれないか?』
公爵はソファから立ち上がって俺達に頭を下げてきた。
「え、ちょっと頭を上げて下さいよ。でも、こう言っては何ですけど、俺達が参加しなくてもアレストに遅れは取らないのでは?」
『いや、最近アレストに肩入れしている連中がいるようでな。出来れば万全な体制にしておきたくてな。』
確かにギルドの冒険者達もそんな話をしていたな。その余計な事をしてくれるのは、どんな連中なんだろうな。
公爵に頭を下げられると断れないよな。
「分かりました。仕方が無いですね。でも俺達は公爵様の護衛ということでお願いします。それとこれって指名依頼ですよね?」
『分かった。それで構わないぞ。』
「ところでアレストとの戦闘はいつぐらいになりそうなんでしょうか?」
『それがな、その開戦の日付を確認するために向かった使者がまだ戻って来ていないらしくてな。』
公爵曰く、使者は王都から出したらしい。しかも何度も使者を送っているが誰も帰ってこないようだ。
つまり、アレストは一方的に宣戦布告をしておきながら、その後の交渉には一切応じていないとのことだ。これはこっちの世界ではかなり異常なことらしい。
「ひょっとしたら、こちらを疲弊させるのが目的なんですかね? いつ襲ってくるか分からない状況が続くと普通は疲弊しますよね?」
『う~む、それはそうだな・・・では、レイはどうしろと?』
「それは俺にも分かりませんよ。」
多分、こちらから戦争を仕掛けるのがベストだとは思うが、それは俺が言うことでは無いと思っている。
『………うむ、分かった。国王には儂のほうから進言しよう。アレストにはこちら侵攻すべきとな。』
さすが公爵だね。俺の考えていることをすぐに理解してくれた。
『すんなりと話が進むと10日後くらいには戦争が始まるかも知れんな。それまでは遠出は控えてくれよ。』
「それは分かりませんよ?」
俺はニヤニヤしながら回答した。
『………お前なぁ・・・とりあえず遠出はするなよ! 絶対だぞ!』




