0187:霊峰に到着した
俺達は薬剤師ギルドのオーウェンからドラゴンの話を聞いている。
オーウェンの話は要約すると、このダルハイムから少し離れた霊峰と呼ばれている山の中に洞窟があり、その洞窟の中に死にそうになっているドラゴンがいるということだ。
「えっと、仮にその霊峰にドラゴンがいるとして、そのドラゴンが何で死にそうになっていると分かるんですか? ドラゴンが寝ているだけってことは無いんですか?」
『それはだね、この薬剤師ギルドの今は亡き創設者であるアンダーソン様が書き残した素材図鑑に載っているドラゴンの見極め方に書いてあるんだよ。』
「その素材図鑑の信憑性はどこまで信頼できるんですか?」
『………完璧だよ・・・そのはずだ・・・』
うん、ヤバいね。うかつに信じると危険だな。ただ、ドラゴンを見てみる良い機会であることも事実だ。う~ん、悩ましいなぁ。悩んでいるとエメリアが口を挟んできた。
『レイ殿。とりあえず、その霊峰に行ってみて実際にドラゴンを見てから判断するのはどうですか? 私もドラゴンはまだ見たことが無いし、興味があるな。』
俺もドラゴンには興味はある。折角ファンタジーな世界に転生したんだしね。しかしドラゴンが危険なのも事実だ。なんと言ってもランクSモンスターだからね。
悩み続けている俺に対して、アイリーン達も追い討ちをかけてくる。
『ご主人様、かなり遠くから確認してからでも良いのでは?』
『主様、ドラゴン見たい。』
『ねぇ、レイ。私も1度はドラゴンを見てみたいわね。』
皆が目をキラキラさせながら俺に訴えかけてくる。
「はぁ、分かったよ。倒すかどうかはドラゴンを見てから判断するよ。」
『おぉ、ありがとうございます。では早速、ドラゴンがいる霊峰に向かいましょうか?』
「え? まさかオーウェンさんも一緒に来るつもりですか?」
『もちろんだよ。じゃないとドラゴンがいる洞窟の場所が分からないだろう?』
「えっと、場所は教えてくれれば良いと思うんですけど? それにオーウェンさんは戦闘出来ないですよね?」
『もちろん、僕に戦闘は無理だ。なので君達に護衛を頼むことになる。だけど場所を教えるのは勘弁して欲しいな。まだ君達がどのような人物か分からないからね。もちろん、今までの会話で悪い人物じゃないと思っているけどね。』
確かにドラゴンの場所を聞いて、俺達だけでドラゴンを倒してしまった後にドラゴンはいなかったと報告されると真偽のほどは不明になるな。何故なら俺にはアイテムボックスがあるからね。
「………仕方が無いですね。護衛しましょう。それで報酬はどれくらいなのでしょうか?」
『それが・・・見ての通り、僕はしがない薬剤師ギルドの一員だからね。すまないけど成功報酬にさせて欲しいんだ。倒したドラゴンの素材をほとんどを渡す。僕が欲しいのはドラゴンの舌だけなんだ。』
『え? ドラゴンの素材をほとんど全部? 旦那様、凄いですよ。受けましょうよ。』
ドラゴンの素材をほぼ丸ごと貰えると一体いくら位になるんだろうな。全く想像が出来ないな。
ちなみに、アイリーン達が愛用している装備の素材である竜はドラゴンの亜種でランクAモンスターだ。ドラゴンの素材で作成された武器、防具は国宝として扱わられるらしい。
「分かりました。とりあえず、霊峰まで行きましょう。ただし、ドラゴンが死にそうになっているのが確認できない場合は引き返しますからね。」
『ありがとうございます。それでは2日後にの早朝に出発するで良いでしょうか?』
俺達はいつでも出発出来るが普通の人はそうもいかない。
「はい。それで大丈夫です。では2日後の早朝に、ここ薬剤師ギルドに来ますね。」
オーウェンに挨拶をして薬剤師ギルドを出た。
「2日間かぁ、何かするには短いけど、何もしないとなると長いね。」
『仕方無いよ。こういう時くらいは少しのんびりしようよ、レイくん。』
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あれから2日後、また薬剤師ギルドにやってきた。薬剤師ギルドの中に入りオーウェンの部屋に行くとオーウェンも出発の準備は整っているようだった。
オーウェンは自分用の馬車と御者を用意していた。御者にしては少し屈強な感じがする男性4名だ。ひょっとしたら冒険者なのかも知れないな。
『じゃあ、早速出発しましょうか。霊峰までは馬車で2日程の距離になります。』
オーウェンの馬車を先頭にダルハイムを出発した。オーウェンの提案で、お互いのプライベートを侵害しないように馬車での移動中は各自の馬車に滞在することになった。
あまり他人を俺達の馬車に入れたく無いので、オーウェンの提案は正直ありがたい。
『ご主人様。あのオーウェンの御者ですが、とても御者には見えないですよね?』
「あ、それ、俺もそう思ったよ。むしろ冒険者って言われたほうがしっくりするよね。」
『レイさん。元冒険者の御者って人も少なくは無いですよ。あの人達がどっちなのかは分かりませんが。』
「一応、警戒しておいたほうが良いのかな。」
とりあえず、あの4人が盗賊の一味である可能性を想定して常に警戒をしながら霊峰への旅路を進めた。
2日間、先頭の馬車や周囲を警戒していたが何も無かった。どうやら余計な心配だったのかも知れない。
霊峰の麓に到着した。
「これが霊峰なのか・・・」
目の前の霊峰と呼ばれている山は、普通の山に見える。それも標高数百メートルくらいかな。
霊峰と呼ばれているから、例えば標高数千メートルの山や、切り立った山を想像していたが違った。そもそも霊峰という言葉を勘違いしていたな。見た目で霊峰と呼ばれる訳じゃないよな。
「オーウェンさん、何でここが霊峰と呼ばれているのか知っていますか?」
『あぁ、そのことか。ここには龍神の魂が奉られていると言われているんだよ。そのためか、ここは以前からドラゴンの目撃例が報告されているんだよ。』
「へぇ。でも、この霊峰にある洞窟にドラゴンがいるんですよね?」
『あぁ、そうだよ。さてと、馬車はここで置いていくよ。ここからは徒歩になるからね。』
どうやらオーウェンの御者4人はここに残るようだ。なので念のため注意しておかないと。
「俺達の馬車の馬は気性が荒いんで俺達の馬車には近づかないように注意して下さいね。オークくらいなら軽く蹴り殺せる強さを持っていますから。」
『マ、マジか? 分かった。注意するよ。』
やることをやったので、いよいよ霊峰を登り始めた。麓にいる時には感じなかったが霊峰を登っていくに連れて威圧感が感じられるようになってきた。
「これはマジでドラゴンがいるのかも知れないね。」
『え? 僕はいるって言ったよね・・・』
スミマセン。半信半疑でした・・・




