0179:ランクAの依頼
エメリアをメンバーに加えた翌日、ギルドに顔を出してみた。もちろん良さそうな依頼があれば受けるつもりだけど、それ以外に情報収集も目的の1つだ。
ギルドのカウンター横は酒場のようになっており、よく冒険者が色々な会話をしているので、それを盗み聞きするのだ。特にイベント前後には色んな噂話が聞けるのだ。
まずはギルドの依頼ボードを見てみる。見ている依頼ランクはランクAの依頼だ。イザベラとエメリアの加入で俺達のクランはランクAになっていた。
ちなみにパーティーでもクランでもランクの算定方法は同じだと昨日受付嬢に聞いていた。
「さすがにランクAの依頼だね。強そうなモンスターの討伐依頼が多いね。」
張り出されている依頼書は
・雷獣ヌエの討伐
・ワイバーンの討伐
・サイクロプスの討伐
等だ。ゲームの世界で定番のモンスターではあるがゲームのイベントで出てくるようなモンスターの気がするんだけど。こんなのが普通に出てくるのか?
「これって普通にランクAパーティーが討伐するモンスターなの?」
『そんなことあるわけ無いじゃないですか、ご主人様。これらのモンスターは普通、複数のランクAパーティーが共同で討伐するもんですよ。』
良かったよ。そうだよな。それなら別の依頼を探そうかと思ったら、うちの武闘派達が
『………レイ様。ヌエを倒しに行きましょう。』
『御館様、ワイバーンがいいですよね?』
『いや、レイはやっぱりサイクロプスよね?』
ねぇ、君達は何を言っているのかな? さっき、ランクAパーティーが複数で倒すって言ってたでしょ? 自慢じゃないけどランクAの知り合いってアレックスとソリアーノだけだよ。ライザーは帰ったし。
『いやいや、レイ殿なら3匹全部、まとめて討伐できますよ。』
「はぁ? なんでそうなるの??」
『『それもそうね。』』
アイリーン、マリーナ、サーラ、エリーは唖然としており、レジーナはひたすら、うんうんと頷いているだけだ。
そして、目を離していたら、武闘派達が依頼書3枚を依頼ボードから剥がして受付カウンターに向かおうとしている。
「ちょっと待ったぁ~、とりあえず、最初は1つに絞ろうよ。下手して全部失敗したら大変だよ?」
『『それもそうね。』』
そして、最初の獲物はどれにするか? で色々と議論した結果、最初の獲物はサイクロプスに決まった。
「つ、疲れた・・・依頼を受けるだけでこんなに疲れたのは初めてだよ・・・」
このドタバタ劇に受付嬢も、周囲いた冒険者達も呆れ顔をしていた。俺も当事者じゃなければ呆れ顔で見ていただろうな。
とりあえず、サイクロプスの討伐依頼書を受付嬢に渡した。
『あの~、噂のレイさんですよね?』
「噂? え? どんな噂があるんですか?」
受付から突然、俺が噂になっていることを教えてもらった。どんな噂があるのか?
『えっとですねぇ、まず女たらしで、女に尻を敷かれていて、ハーレム好きなスケベという噂です。』
「………え、………そ、………あ、………」
『あぁ、それって全部本当のことだよ。ねぇ、旦那様。』
「そ、そんなことは無い、はず・・・」
受付嬢はドン引きだ。まるで汚い物を見るような目付きになっている。
「あ、あの~・・・」
『ご用件は何でしょうか?』
受付嬢は営業スマイルも無く、淡々と仕事をこなすだけのモードになってしまった。
「あ、すみません・・・この、依頼を受けたいんですけど・・・」
受付嬢は、俺から依頼書を掴み取ると機械的に事務作業をしている。無言で・・・
『はい。受付が完了しました。』
だけを言い残して奥に行ってしまった・・・
『あちゃー、受付嬢に嫌われちゃいましたかねぇ? 旦那様。』
こやつは誰のせいだと思っているのか。とりあえず、誤解(?)はいずれ晴らすとしてサイクロプスの討伐を目指すことにしようか。
「ところでサイクロプスって、何処にいるのか分かる?」
『もう、レイさん。ちゃんと依頼書に書いてありましたよ? ちゃんと見ておいて下さいよね。で、場所ですけど、巨大樹の森ってところらしいですよ。馬車で2日くらいかかるようですね。』
相変わらず、サーラはその辺はしっかりとしているな。行き当たりばったりの俺とは違って・・・
「じゃあ、早速、その巨大樹の森ってところに行ってみるか。」
食糧を買い足し、馬車で城外に出た。御者席にはイザベラと俺が座っている。
城外ではダルハイムの兵士達が総出で戦争の後片付けをしていた。特に敵兵士の死体の片付けが大変らしく、ちゃんと火葬しないとゾンビ化してしまうとのことだ。
仕方がなかったといえ、改めて多くの死体を見ると気持ちが滅入ってくる。
すると馬車の運転中にも関わらず、イザベラが無言で俺を抱き寄せてきた。まぁ、この馬車はあまり操作する必要は無いけど。
イザベラの胸が柔らかい・・・
凄く嬉しいのだが、凄く目立つので堪能出来なかったのは残念だった。
『あら? もういいのかしら?』
「いや、ほら、あっちのほうから兵士達の視線が・・・」
明らかに嫉妬と殺意が入り交じった視線が送られている。このままイザベラの胸を堪能していたら、さらに不名誉な噂が広がるに違いない。
『………仕方が無いわね。じゃあ夜までお預けね。』
これが余裕のある大人のお姉さんなのかな?
ーーーーーーーーーー
2日後、無事に巨大樹の森に到着した。
「これが巨大樹か。巨大樹というだけあってデカいね。」
『『はぁぁ、凄いですねぇ。』』
アイリーン達も驚いている様子だ。
樹の高さは10~20mは優に超えてるだろうし、幹の太さも直径4~5mはあるだろう。あまりにも巨大なためか、樹の1本と1本の間は広い。これなら巨大なモンスターも普通に生活が出来そうだ。
馬車をアイテムボックスにしまい、森の中に入っていく。樹の1本1本の間隔は広いのだが、遥か上には葉が覆い繁っているため昼前にも関わらず薄暗い。そのためにか地面にはあまり草が生えておらず、その代わりに巨大樹の幹には蔓のような植物が多く繁っている。
森の奥に進んでいくと、巨大な足跡があった。
『これってサイクロプスの足跡かな?』
足跡だけで80cmくらいはありそうだ。もちろん、足だけが大きいモンスターの可能性もあるわけだが。すると、レジーナが足跡の匂いを確認している。
『主様、この匂いと同じモンスターがあっちにいる。』
お前は犬か? と、突っ込みを入れようかと思ったが、よく考えてみると狼も犬科だったよな。
そうなると、同じ狼人属のエメリアも同じことが出来るのかなと、エメリアのほうを見る。
『ちょっと、何でこっちを見てるのよ。私にはあんなこと出来ないわよ。あれは完全に個人の能力よ。』
そっかぁ、エメリアには無理か。同じ狼人属でも個性があるんだな。そうこうしているうちに、レジーナがどんどん先行していく。
レジーナの後ろにはアイリーンとエリーが張り付いている。そして、アイリーンの後ろにはイザベラとジャンヌが、エリーの後ろにはエメリアとメリッサが付いている。俺とマリーナとサーラはさらに後ろにいる。
「そういえば、サイクロプスってどんなモンスターなの?」
『サイクロプスは身長3~4mくらいで1つ目のモンスターですよ、レイさん。ただ、魔力が高いと聞いたことがあります。』
『………レイ様、サイクロプスには魔眼という衝撃波を放つスキルがあるはずなので気を付けて。』
「えっと、ジャンヌはサイクロプスと戦ったことがあるの?」
『………はい。かなり強いです。』
ジャンヌが強いって言うからには相当強いのだろうな。
『主様、この先に匂いの持ち主がいる!』
レジーナがモンスターを発見したようだ。俺達全員が戦闘態勢に入った。




