0174:ダルハイム攻防戦休息日
『ご主人様、どうですか? 少しは落ち着きましたか?』
アイリーンが少し心配そうに声をかけてきた。
「ありがとう。もう大丈夫だよ。」
先ほどのやり取りで少しは気分が晴れた。本当にアイリーン達に感謝だ。
『あの、ご主人様・・・』
アイリーンが何か言いたげだな。普段ならストレートに言ってくるものだが、こんなアイリーンは見たことが無いな。
うん? 視界の隅にスクリーンが見える。スクリーンを良く見ると、スキル未取得リストと表示されている。そうか、ダニエル軍を倒した後、気絶をしてしまったため、スキル取得の選択が出来なかったからリスト化されたのか。
「アイリーン、ごめん。ちょっと待っててくれる?」
話しかけようとしていたアイリーンを待たせてスキル取得をすることにした。でないと、視界の隅にスクリーンがあって邪魔になるしね。
スキル未取得リストを選択すると、未取得件数が2153件と出た。もちろん1人1スキルという訳ではないが、それでも相当数の兵士を殺したことが分かる。ちょっと気持ちが落ち込むが、せっかく取得したスキルなので取得することにする。
一件一件選択するのは面倒臭いなと思っていると、リストの横に一括取得という文字が見えたので一括取得を選択した。
すると、一気に獲得したスキル情報が目の前に流れていく。が、速すぎて見えない・・・
後でゆっくりと確認することにしよう。
「ごめん。もう大丈夫だよ。それで、どうしたの? なんかあった?」
『実は、ご主人様が目を覚ましたら公爵様の馬車に来るように伝言を受けています。』
「なんだ、そんなことか。なら今から公爵の馬車に行ってくるよ。」
『レイさん、本当に大丈夫ですか?』
「大丈夫だよ。心配性だなぁ。」
本当はあまり大丈夫では無いが、あえて大丈夫な振りをした。アイリーン達にあまり心配をかけたくないからね。
公爵の馬車に到着し、馬車の中に入ると公爵以外にも、ライザー、アレックス、ソリアーノがいた。
『レイよ、もう歩き回っても大丈夫なのか?』
「とりあえず、なんとか大丈夫ですよ。」
『それは良かった。あんな凄まじい威力の魔法を放った後だからな。少しでも身体に異変を感じたらすぐに報告してくれ。』
公爵が心配そうに俺に見ながら気遣ってくる。いつもと違い過ぎて、むしろ気持ち悪いな。
『レイはあんな凄い魔法が使えるんだな。あんな魔法を武術大会の決勝で使われていたら、俺の負けだったな。』
「いやいや、あんなに溜めの長い魔法なんて放って置かないでしょ?」
『まぁ、そうだな。確かに速攻で魔法を発動させないように邪魔をするな。だとすると対個人戦には向かない魔法だということか。』
そういうことだ。圧縮ファイアボールは対多人数向けとなる。ただし、威力がありすぎて使い所が難しいけど。
………いや、俺の精神力次第というところかな。次も撃てるかどうか微妙だよな。
『さて、レイよ。率直に聞くが、お前、あの魔法はまだ撃てそうか? 魔力的にも、精神的にも、だ。』
公爵が、精神的に大丈夫なのか? と聞いてきた。どうやら、俺が精神的に参っていることを見抜いているようだ。そして、この公爵と言葉にライザー、アレックス、ソリアーノが驚きの表情で公爵を見つめている。
『初めての戦争で人を殺すと精神的に参ってしまう兵士はそんなに少なくないからな。そして、俺は今までにそういった兵士を沢山見てきているからな。』
このオッサン、本当に凄いな。俺のことを良く見ているね。
『だが、それでもレイに頼りたい。それがこちらの被害を最小にするために必要だからな。頼む、なんとか出来ないだろうか?』
と言って、公爵が俺に対して頭を下げてきた。これには俺だけでなく、ライザー達も驚きの声を上げる。
『こ、公爵様、何を・・・』
『エドワード公爵・・・』
『レイよ、俺のためじゃなく、このダルハイムの住民のためにやってくれんか?』
狡いな住民のためにと言われたら断りにくい。さて、どうしようか・・・
………
………
「ふぅ、公爵様。頭を上げて下さい。分かりました。このダルハイムの住民ためにも頑張りますので。」
この国に転生してきたのは本当にたまたまだ。ただ、この国の人達には少なからずお世話になった人達もいるし、情も湧いている。このダルハイムが落ちただけでその人達に被害が出るか分からないけど、被害が出ないとは言えない。
ならば、ここは頑張りどころだねよ。
『すまないな、レイ。では次のアグラー軍との戦闘はレイの休息も考慮して明後日とする。明日は休息として、防衛に専念することにするぞ。』
なんだか至れり尽くせりな感じだ。正直気味が悪いが、ここは素直に公爵の言葉に甘えることにした。今日の残り時間は多くないが、明日は丸1日休みとなる。戦時中のため町に繰り出すということにはならないが、馬車に籠ってゆったりしよう。
「では、今日はこれで失礼します。」
公爵達に挨拶をして自分達の馬車に戻った。馬車に戻ると、アイリーン達から質問責めにあった。公爵達との会話を一通り話した。
『そうですか。公爵様がそんなことを。公爵様はご主人様のことを大事に思っていますね。』
『それだけ、レイが凄いってことよね。』
『まぁ、旦那様程の男はそうはいないよね。スケベだけどね。』
皆が俺を褒めてくれるが、マリーナの一言だけ余計だ。
『そうね、レイさんは確かにスケベよね。』
『うん、主様はスケベだね。』
『スケベというか、鬼畜なんじゃない? レイくんは。』
次第にスケベから鬼畜となっていく。
『………レイ様は鬼畜じゃなくて変態?』
『そうね。確かに御館様は変態かもね。』
全員が変態という言葉に納得の表情で頷いている。
「ちょっと待て。スケベと鬼畜までは分かるけど、変態って何でだ?」
『あれとか、あれとか?』
『いえ、あれもそうよね?』
『いやいや、あれもそうよ。』
確かにアイリーン達が言っていることは全て心当たりがある・・・というか、やったな・・・
「………でも、誰も嫌って言わなかったじゃないか。」
『ふふふ、じゃあレイは当然として、ここにいる全員が変態ってことで良いのでは?』
えっと、全員が変態って。そんなクランでいいのかな? と考えていると、全員が一斉に
『『それ、脱がせ~!』』
アイリーン達に服を脱がされて、そのまま担がれて風呂に連れていかれた。今までは俺が皆の服を脱がしていたが、逆に脱がされる立場になると恥ずかしいな。
そして、風呂の中で皆から求められた。全てがいつもと逆だ。なんか新鮮な気分になるね。
全員として、ぐったりとなった俺にアイリーンが可愛らしい笑顔で
『ご主人様、どうですか? 少しは何も考えずに済んだのでは?』
と声をかけてきた。アイリーンだけでなく、マリーナ達も笑顔だ。このアイリーン達の笑顔に堪らず、再びアイリーン達を抱いた。今度は俺が主導権を握ってだ。
『やっぱり鬼畜ですね・・・』
『いや、変態ですよ・・・』
等と言う言葉が聞こえてきたような気がした。でも、そんなことは気にしない。
そして、アイリーン達を抱き締めてぐっすりと眠った。
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翌日の朝、公爵の使いが伝言を伝えるために俺達の馬車にやって来た。明日のことを相談するために今日の夜に公爵の馬車に来いとのことで、それまでは自由にしてて良いとのことだ。
「自由にしても良いって言われてもね。何をしようか?」
『レイ、どうせ今日1日暇するなら皆で料理でもしない? 王都で人気のスイーツというものを作ってみたいのよね。レイなら作り方を知っているんじゃないかしら?』
『『賛成! やりましょう!』』
皆もやる気のようなので反対する理由は無い。なので早速、スイーツ作りを開始する。実際に作ったことは無いが色々とレシピを読んだことはあるので見よう見まねで作ってみた。
スポンジケーキを土台にして、上にメリンゴを乗せて、その上にクリームをかけたケーキのようなものが完成した。
「形はちょっと変だけど、味はどうかな?」
全員に切り分けて、早速一口食べてみる。
『あっま~い。』
『美味しい~。』
『ちょっと形は変だけどね。』
皆が言うとおり、形は微妙だったが味は問題無かったようだ。その後も昼食、夕食を作っては食べてをしていたら、公爵の馬車に向かう時間になった。
「じゃあ、ちょっと行ってくるね。」
イザベラを連れて公爵の馬車に向かった。




