0107:何かを間違えた
ウッド・エンシェントと遭遇した翌日からは別荘作りに没頭することになった。木こり達が夕方に頑張って板を大量に作りおきし、日中は俺達が一生懸命組み立てを行っている。
「木こり達って、ちゃんと睡眠を取っているのかな?」
『『う~ん、どうでしょうかね?』』
木こり達の健康は心配ではあるが、今は心配しても仕方無いし、ベテランが多そうだから、きっと大丈夫だろう。
やっと別荘の一階部分がほぼ完成した。受付カウンターがあり、受付カウンターの前には広い空間があり、カウンターの横には酒場もある。そうなのだ、一階はギルドの受付カウンターになっている。実は、これはグレン男爵からの要望らしい。
グレン男爵の言葉としては、いつもいる場所では無いから場所を有効活用するために一階部分はギルドのための場所にして欲しい、だったらしい。
「へぇ、グレン男爵って普通の貴族とは違うようだね。もちろん良い意味で言っているんだけどね。」
ひょっとすると、俺が貴族に対して偏見を持ちすぎているのかも知れないな。ちょっと考えを変えた方が良いのかな?
『そうなんですよ。グレン男爵は他の貴族とは比べものにならないくらいにマトモな人ですよ。普通の貴族は自分が儲けることしか考えていないのに。』
アマンダさんの言葉を聞いて、やっぱり駄目な貴族が多いんだろうということを把握した。考え方を変える必要は無かったな。
『そうですね。普通の貴族なら滅多に使わない別荘でも、一般人が使うことを拒絶する人が多いと思いますよ、レイさん。』
そうだろうね。それを考えるとグレン男爵は合理的な考え方が出来る人なんだろうな。やっぱり良い貴族のようだね。
二階部分が半分くらい出来上がった時点で本日の作業は完了とした。するとアマンダさんから
『また、明日もよろしくねぇ。今日の作業詳細は私からガテンに報告しておくからね。』
この調子なら、明日か明後日くらいで別荘が完成するかな。そうだ。再度ガテンには念を押しておかないといけないな。別荘が完了したら村を出てダンジョン都市に戻ることを。
ガテンを探していると、木こり達と何やら会話しているガテンを見つけた。
『そうだなぁ、通りとしては門から真っ直ぐ、一本道があれば十分だろ。』
『あぁ、それで別荘のところで十字路にすれば良いよな?』
大通りは別荘を中心に十字路だけにして、あとは細い路地だけにするのかな。半径500mだけど、ちゃんと区画整理すれば、それなりの人数の人間が暮らせそうだな。
木こり達との話が終わったのを見計らってガテンに話かけた。
『よう、レイ達じゃないか。どうしたんだ?』
「今、建てている別荘が、あと2・3日で終わると思うんです。そうしたら、俺達はダンジョン都市に戻ろうと思います。」
『そうか。寂しくなるけど、それが当初からの依頼内容だから仕方が無いよな。出来れば、このまま木こりになってくれれば良かったんだけどな。』
これでガテンにもちゃんと認識してもらえただろう。別荘が完成したらダンジョン都市に戻り、暫くは普通の冒険者をしよう。
『よし! 最終日は派手な送別会をやるぞ! きっと盛り上がるな。』
え? このオッサン、突然何を言い出すんだ? そんなものは誰も望んでいないぞ。そんな恥ずかしい事はしないで欲しい。
とりあえず、ガテンと別れて馬車に戻った。
「マジで送別会なんかするのかな? ちょっと勘弁して欲しいね。」
『嫌なんですか? 旦那様。どうして?』
「嫌に決まってるじゃない。何か恥ずかしいじゃん? 絶対に弄られまくるに決まっているじゃん。」
『え~、凄く盛り上がりそうで楽しみなんですけど? それに、旦那様の役回りは弄られてなんぼですよ。』
いや、それはおかしいだろう・・・そんな役割は要らない。
それとマリーナは祭り好きなのが分かった。それはさておき、さっさと寝て明日に備えよう。
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翌日も朝起きたら別荘作りに向かう。別荘に着くと大量の板が山積みになっていた。この世界の建物は木組みと呼ばれる釘を使わない工法で建てられている。
「ここの木こり達の熟練度は凄いよね。大工の経験が無い俺だけど、凄さはなんとなく分かるよ。」
朝になって出来上がった板は寸分の狂いも無く、簡単に組み立てられる。まるでプラモデルを組み立てるようだ。
『そうだよねぇ、小さいときから木こりを仕事にしているからね。』
とアマンダさんが言う。アマンダさん曰く、ここにいる木こり達は職歴数十年のベテラン達の集まりらしい。
へぇ、と感心しながら、どんどん組み立てていく。二階部分がほぼ完成した。この建物は三階建てになるらしく、柱もしっかりした木を使って頑丈に作られている。
別荘の構造は、一階がギルドの受付カウンターで、二階がギルドの事務所、三階がグレン男爵の別荘部屋となるらしい。部屋と言っているが、この建物は敷地面積はかなり広い。20mX20mくらいはある。
夕方頃までに三階部分の一部分まで完成した。これなら明日の午前中には完成するだろう。
『ようやく、完成しますね。ご主人様。』
『ここ数日は、ずっと建物を作っていましたからね。疲れましたね、旦那様。』
『モンスターを倒しているほうが楽です、主様。』
『レイさん、ようやく終わりですかね。』
『結構、大変でしたよね、レイくん。』
『………レイ様、ご苦労様です。』
アイリーン達も結構ストレスが溜まっているようだ。この仕事は本当に大変だ。モンスターを倒しているほうがずっと楽だ。俺達の日当は銀貨1枚だが、ここの木こり達の日当も銀貨1枚なのだろうか? 割に合わない気がする。
アマンダさんにさりげなく聞いてみた。
「ここの仕事ってかなり大変じゃないですか? となると仕事が終わったら、仕事を休む期間が必要ですよね? どれくらい休むもんなんですか?」
『う~ん、そうねぇ。今回の仕事が終わったら、大体3ヶ月くらいは休むかなぁ?』
アマンダさん曰く、1ヶ月くらい仕事して、3ヶ月くらい休むという感じらしい。ということは日当で銀貨4~5枚くらいは貰っているのかな?
あれ? 俺達、凄く安くないか? 俺達の日当は銀貨1枚だったよな?
あ、そうか。元々、護衛が依頼だったはずだ。そういえば、なんで木こりとか大工とかをし始めたんだっけ? う~ん・・・なんでだっけかな?
『これなら、明日には完成するね。レイさん達には感謝だね。』
アマンダさんと別れて馬車に戻る途中でも、なんで木こりの作業をし始めたのか考えていた。
『レイさん、何を考えているんですか?』
「え、いや。なんで俺達は木こりとか大工とかしてるんだっけ? と考えているんだけど。なんでか分かる?」
『そりゃあ、旦那様が安請け合いしたからでしょ?』
あ、やっぱり? アイリーン達もしっかり頷いている。




