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第九十八話 事後処理

 遊が校長室へと赴いた後、教室内では。


「あなた達、まさかあれで無かったことになるとは思っていないわよね?」


 友子の厳しい一言に、ビクリと体を震わせる生徒達。腕組みをして仁王立ちする友子に注目が集まった。


「だ、第七ハッチから出てきた巨大人形ロボットの真似?」


「今はふざける気にはなれないのよ」


 冷気を纏った友子を宥めようとアニメのネタを振る女子生徒。しかし、普段ならば反応する友子が乗ってこないどころか瞬時に切り捨ててみせた。その怒りの深さに、誰も言葉を紡げずに沈黙する。


「進学校内でのいじめなんて、他校からすれば格好のネタよ。上位の学校を引き摺り下ろすチャンスだもの、盛大に盛り上げて大問題にしてくれるでしょうね」


 自分達よりも優秀な者がいた場合、人間は努力して上回ろうとするよりも蹴落として自分が上位につこうとする傾向にある。

 いくら偏差値が高かろうと、苛めを行っていた生徒などどこの大学も敬遠するであろう。問題を起こす可能性が高い者を自校に迎えようなどという物好きは恐らくいない。


「報道では実名は出ないでしょうけど、ネットでは個人情報まで晒されるわね」


 過去に起こったいじめ問題でそのような事例があるため、誰もそうなる可能性を否定出来ない。また、そうなった場合に晒された者がどんな被害を受けたのかも知っている為生徒達はその恐ろしさに恐怖した。


「遊に感謝なさい。遊が穏便に済ませたから私は動かないけど、私も遊もそうなるように仕向けるなんて簡単に出来たのよ。勿論、証拠となる映像も撮ってあったからやっていないなんて言い訳は通用しないわ」


 友子さん、かなりお怒りのご様子である。遊は手出ししてこないならば放置という方針のようだが、彼女は釘を刺しておきたかったようだ。

 これでは刺したのは釘ではなくパイルバンカーのような気もするが・・・


「それにね、遊がユウリちゃんを貶める筈がないのよ。遊だってユウリちゃんを好きで、遊以上にユウリちゃんの事を知っている人はいないのだから」


 言いたい事を言って教室を出る友子を、生徒達は何も言い返せずに見送った。


「・・・北本さんと岡部さん、絶対に怒らせてはダメね」


「もしも苛めを続けていたら、どうなっていたか。ユウリちゃんのラジオに感謝だな」


 報復を免れそうな事に安堵する生徒達。しかし、まだ彼らに平穏は訪れていなかった。


「ねえ、私ネットに北本さんの事をあれこれ書き込んだんだけど・・・」


「俺もだ。もし、あれを見た奴が北本さんに何かをしたら!」


 第三者が遊にいじめに該当する行為を行えば、間違いなく罪に問う事が出来る。そして、遊にちょっかいを出した者がその切っ掛けをネットに書き込まれた悪口だと白状したら・・・


「やべっ!早く消して訂正しないと!」


「私、あちこちに書いたから全部は覚えてないわ!」


 書き込むのは簡単でも、書き込んだ内容を無かったことにするのは不可能。訂正しても、訂正したい内容を見た者がまたそれを見るという保証はないので完全な訂正も不可能。

 ネットに何かを書き込むという事の恐ろしさを、彼らは身をもって知るのであった。


 生徒が必死に携帯を弄っている頃、職員室では緊急の職員会議が開かれていた。


「全教員、三ヶ月給与を半減。夏のボーナスも半減とします」


 冒頭に校長が告げた一方的な処罰に、一瞬呆気にとられた教師達が反論する。


「何故そのような処罰を受けなくてはならないのですか!」


「横暴です!事と次第によっては教育委員会に訴えますぞ!」


 口々に文句を言う教師達。それを聞いた校長は大声で笑いだし、その不気味さに教師達は口を閉じた。


「これは面白い事を言いますね。教育委員会に訴える?大いに結構。苛めを黙認するどころか荷担し、その処罰を受けそうなので止めて下さいと訴えるのですか?」


 教師が教育委員会に訴えれば、校長は事情を聴取するために呼ばれるだろう。そうなれば、何故そのような処罰を下そうとしたのかを話す事となる。

 いじめ問題にうるさい昨今、下手をすれば減給では済まない可能性も出てきてしまう。


「わ、私はいじめがあったなど知りませんでしたし、当然荷担などしていません!」


 テンプレな言い訳をしたのは数学担当の教師であった。確かに彼は遊に対して無視をしたり罵ったりは行っていない。なので逃れる事が出来ると考えたのだろう。


「そうですか。では、これからのテストは東京大学入試の過去問題で統一します。ちなみに、赤点や落第の基準は変えません。伝統ある進学校の我が校で、留年する者が大量に出るなんて事は無いでしょうな?」


 彼が東大の入試問題を解かせていた事は、校長も既に知っていた。それどころか、証拠の動画をコピーして譲り受けていた。


「校長、それは無体では・・・」


「北本さんに東大の入試問題を解かせたのも通常の授業なのでしょう?ならば他の生徒にも同等の問題を出すのが筋でしょう。証拠の動画もありますが見ますか?」


 動かぬ証拠つきとなれば、教師達に逃げる術はない。校長の処分を甘んじて受け入れるしか道はなかった。


「今回は北本さんの意向もあり教育委員会には報告しません。今後下らない事をすれば、即懲戒免職となると覚えていて下さい」


 項垂れる教師を放置し、校長は職員室を出た。扉を閉めると同時に、深いため息をつく。


「給与半減はキツイなぁ。夏コミの予算が・・・」


 校長も教員の一員である。即ち、彼も処分の対象なのだ。自分は関与していないにも関わらず、キッチリと監督不行届の責任を取る校長。


 遊の知らぬ所に影響を及ぼしながらも、いじめの件は落着するのであった。


 

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