第九十七話 問題解決
夕食の時も、由紀の話はこれ一色でした。私も両親も、全く口を挟む隙のないマシンガントーク。その対象が私だと知っているお父さんとお母さんは苦笑い。
そんな夜があけて翌日。待ち合わせ場所の友子はニヤニヤ顔で私を待っていました。
「おはよう、遊。ああいう事だったのね」
「学校の皆がどうするかしらね」
私と友子は、少々意地の悪い笑みを浮かべながら学校に向かいます。私だって聖人君子ではありません。理不尽な理由で苛めを受ければ憤るし、少々の意趣返しもしたくなります。
クラスでは、来ていた人達がラジオの内容で騒いでいました。
「とんでもないわね!」
「ユウリちゃんをいじめるなんて、許さないわ!」
ヒートアップしていて、私や友子は全く眼中にないようです。まあ、無視されているという点では昨日と同じなのですが。
「大体、いじめなんて陰湿よね!」
「本当に!そんな事する奴の顔が見たいぜ!」
頷く教室の面々。私と友子は思わず顔を見合わせました。鞄に入っている手鏡を見せれば、彼の願いは叶いそうです。
「よく言うわね」
「遊、今ここで正体をバラしたら?」
私がユウリだと知ったら、自分達が怒ってる相手が自分だと知ったらどうするでしょう。少しやってみたいという誘惑に負けかけましたが、平穏な生活との引き換えになるのでやりません。
「友子、そんな事するはずないでしょ?」
「そうよね。さて、あの人達に現実を思い出してもらいますか」
騒ぐ生徒を眺めているうちに、全員が登校してきました。しかし、一人の例外もなく騒ぎの輪に加わりユウリ苛めの犯人を非難しています。
ガヤガヤと騒いでいるクラスメート達に近付く友子。彼女らは全く気付いていません。
「大体、そんな陰険な連中がユウリちゃんの近くに居るのが問題なのよ!」
「そうよね!ユウリちゃん、うちに来れば良いのに!」
今の発言をした生徒の携帯電話に、「私ユウリ。今、あなたの教室にいるの」と言いたくなりました。友子は今のを聞いて吹き出しそうになっています。無意識に声に出していたようです。
「それには同感だけど・・・」
ここで初めて皆は友子に気付きました。視線が友子一人に集中します。
「あなたたち、今まで遊に何をしたのかしら?」
いきなり話を振られてポカンとするクラスメート達。どうやら、自分達がやっていた事をすっかりと忘れていたようです。
「イジメなんて陰険だって言ってたけど、他人をどうこう言えるの?遊にやっていた行為が苛めではないと、ユウリちゃんに胸を張って言える人は居るかしら?」
その時、彼らはやっと思い出したようです。自分達が何を私にやったのかを。
「そうだったわ・・・」
「他人の事を言えないわね」
うつむくクラスメート達。自分達が散々非難していた行為を他ならぬ自分達がやっていたと、その行為がどれだけ卑劣な行為であったかを自覚したようです。
一人が意を決したように顔を上げ、私の所に来ました。
「北本さん、ごめんなさい。許してもらえないかもしれないけど、反省してるわ」
頭を下げて謝罪する女子生徒。それを皮切りに、次々とクラスメートが集まってきて謝罪しました。
「・・・謝罪は、受けとりましょう」
そう答えた瞬間、クラスメート達の表情に安堵の色が浮かびました。しかし、彼らは勘違いしています。私は、謝罪は受けとると言いましたが罪を許すとは言っていません。
それを言えば元の木阿弥ですし、その違いを彼らが理解できるとも思いません。なので言うことはしませんが、少し不安になります。
彼らがやった事は立派な犯罪です。学校に対しては威力業務妨害に器物破損。私に対しては器物破損という罪です。もしも学校か私が刑事告訴すれば、実行犯の人には前科か前歴という犯歴が付くでしょう。
それを未成年がやった大したことない嫌がらせだからと、犯罪だという意識すらないように思えます。
放課後、事の次第を報告するために校長室を訪れました。その際に一応その懸念も伝えておきます。
「それはわが校に限らぬ問題ですね。教育者としては、頭の痛い問題です。何か妙案はありませんか?」
「教育者なら、導く相手である生徒に頼らないで下さい。ついでに、校内で同人誌を作らないで下さい」
「「だが、断る!」」
それは頼らない事への返答でしょうか。それとも、同人誌を作らない事への返答でしょうか。
「北本さんならば、何か良いアイデアを出してくれそうな気がするのですが・・・」
「何を根拠にそう思うのですか。私は普通の女子高生です!」
教頭先生が一体どこが普通なんだと呟いたような気がしますが、気のせいだという事にしておきます。
私は、ちょっと人よりも習い事を多く体験しただけの普通の女子高生です!




