第九十四話 仕込みは上々
「ゲータさんは、悪役からルー君の側近に大抜擢ですね」
「蓮田さん、それネタバレになりますよ!」
いつものように、しれっとネタバレする蓮田さん。アニメの放送分では、まだゲータは出てきていないのです。まぁ、これのリスナーさんは殆どの人が原作読んでると思いますが。
「いたいけな子供を売り飛ばす悪役から、植物を魔改造する手伝いに転身ですから大出世ですね」
爽やかな笑顔でコタエルで宇宙番長さん。ラジオで画像がお届け出来ないのが惜しい位の笑顔です。
「ゲータさん自身は暴力を振るったりしていないのに、罪を被せられて悪役なんて酷いですよね」
「それが物語ですから。あれは架空の物なので、良い子も良い大人も真似はしないでくださいね」
子供を動けなくなるまで痛め付けた上に、雨の中裸で放り出すなんて大人は現実にはいない・・・と思いたいです。
それはそうとして、そろそろ爆弾を投下させていただきます。
「あれを現実でやる大人はいないと思いますが・・・それより軽度とはいえ苛めを受けている身としてはやらないでほしいですね」
蓮田さんと宇宙番長さんだけではなく、ブースの外にいる桶川さんやスタッフさんの動きまで止まりました。何か話さないと放送事故になるなぁと呑気に思った瞬間、蓮田さんが再起動しました。
「ええっ!ユウリちゃんをいじめる人なんているの!私が成敗するわ!」
「まあまあ、落ち着いて下さい、蓮田さん」
「そうですよ、私にとっては些末な事ですから」
息を荒らげる蓮田さんを、2人でなだめます。お願いですから、その五寸釘と藁人形をしまってください。
「しかし、ユウリちゃんを苛めるとは命知らずな高校生がいたものだ」
「高校では違う姿ですから。私、かなり地味に暮らしています」
「いくら変装しても、ユウリちゃんの可愛らしさならすぐにバレると思うけど」
話題の転換が上手くいき、蓮田さんの興味が苛めから変装にそれました。
「今までバレた事はないですし、これからもバレない自信がありますよ」
その後も変装談義で収録時間は終わり、蓮田さんの藁人形は出番がありませんでした。
帰りの車の中で桶川さんから根掘り葉掘り質問され、返答に苦慮したのは別のお話。
時間は飛んで月曜日。いつものように家を出ます。友子との待ち合わせ場所に、友子はすでに来ていました。
「おはよう、友子。ほとぼりがさめるまで私と一緒に行動しない方が良いわよ」
「大丈夫よ。いじめなんて気にしないわ」
平然と答え歩きだす友子を、私は急いで後を追いました。
「友子、あなたも巻き添えを喰うわよ」
「構わないわよ。苛めには加担しないとキッパリ言ったし」
友子は言い出したら聞かないし、宣言した以上は別行動をとっても遅いでしょう。結局、いつものように2人で学校に向かいました。
学校に近づくと、私を白い目で見る生徒がちらほらと出てきました。他学年の人もいるようです。一体、どこまで話が広まったのやら。
でも、考えてみたら由紀が知ってたのです同じ学校の人は知っていても何らおかしくはありません。
私と友子は視線を無視して下駄箱へ入ります。セオリー通りだと、画ビョウが入っていたり無くなっていたりする筈です。
「意外だわ、何もされていないみたい」
うちの下駄箱は、一つ一つに蓋が付いています。その蓋が開けられたらわかるように細工していました。それが残っていたので、開けられていないと予測出来ます。
念のため中を確認しましたが、上履きは無事でした。無事だった上履きを下駄箱に戻し、鞄から別の上履きを出して履きます。
靴は上履きを入れていた袋に入れ、鞄にしまいました。それを見た友子が怪訝そうな顔をしています。
「遊、何でわざわざ別の上履きを?」
「細工をしていないと見せかけて細工をする可能性もあるわ。薬品を塗布されていたらすぐには判別できないでしょ?」
高校生の苛めでそこまでやるとは思いたくないですが、可能性がある以上対策しておいて損はありません。
「そう言われればそうね。私も持参しようかしら」
「友子にまで危害を加えたら・・・容赦しないわ」
私だけがターゲットなら、いくらでもかわしてみせます。かわし損ねても、私が未熟だったと笑い飛ばしましょう。歪んでいるとはいえ、私を好きだからの行為だから大目にみます。
でも、私が原因で友子に危害を与えられるのは許せません。持てる力の全てを使って報復する事に躊躇はしません。
「ゆ、遊、落ち着いてね。遊が本気出したら、相手は無事じゃ済まないんだからね?」
私一人で出来る事などたかが知れています。そんなに慌てる必要はないのに、友子は私を過分に評価しているようです。




