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第九十三話 成長

 由紀の頭を撫でながら、私は混乱していました。私は理詰めで物事を考えます。だから納得しなくて良いなんて、曖昧な事を考えた事はありませんでした。

 理をもって行動することが大事で、感情に任せて行動するなど問題外。それが私の考えだったはずです。でも、私は今感情で動く事を肯定しました。


「・・・ちゃん!」


 背中からの衝撃に意識が逸れました。由紀が何か叫んでいるようで、衝撃は由紀が叩いていることがわかりました。

 下を見ると、胸に顔を埋めた由紀が必死に私の背中を叩いています。慌てて頭を解放しました。


「お、お姉ちゃんの胸は凶器・・・ガクッ」


「ネタかます余裕があるならまだ元気ね」


 ちゃっかりとラノベのネタを入れてくる由紀。確か賢者に拾われて育てられた転生者の物語だった気がします。


「事情はわかったけど、ユウリさんのファンの攻撃には気を付けてね。過剰防衛は仕方ないとしても、殺めるのだけは・・・」


「友子も由紀も、私を何だと思っているのよ・・・」


 言いたい事を言うと由紀は自分の部屋へと上がって行きました。入れ替わりに顔を出したお母さんが私に手招きしています。お母さんに誘われるまま書斎に入りました。


「話は聞いていたわ。遊、戸惑ってるみたいね」


 何故か嬉しそうなお母さん。娘が困惑しているのに、何故嬉しそうなのでしょう。


「遊がまた成長してくれた、それが嬉しいんだよ」


 同じく嬉しそうにしていたお父さんが言いますが、私には何の事だかわかりません。


「今までの遊は理詰めで考えていて、感情のままに動く事を否定してたでしょう?」


 その通りなので、黙って頷きました。感情のままに行動するのでは、野性動物と同じです。理性で行動を制する事が出来るから人間なのです。


「確かに(ことわり)は大事だけど、感情は無視出来ないのよ。

差別は良くないけど、好き嫌いで人によって対応を変えたりするでしょう?」


「そうね、あの例えの意味がやっと分かった気がするわ」


 それは、とある小説に載っていた例えです。


 お腹を空かせた貧乏人の子供が、牛乳を買おうとしました。しかし、横から金持ちがしゃしゃり出て十倍の値段でそれを買い、連れている犬に飲ませました。

 その牛乳が最後の1本だったので、貧乏人は牛乳を飲めませんでしたというお話。


 高い値で商品を売るのは当然です。そして、買った牛乳をどうしようと買った金持ちの自由。

 理屈では金持ちに何ら非はないのですが、感情的に金持ちが悪人に見えてしまうのです。


 そんな(ことわり)と感情のバランスを取るのが政治の仕事だという話でした。


 こんな話が載ってる小説はお堅い小説と思うのが普通ですが、架空戦記の物語だったのが意外で印象的でした。(実話)


「遊はこれから沢山の人に出会って付き合うんだから、それを忘れては駄目よ」


 私は黙って頷きます。お父さんは私とお母さんを優しい目で見守っていてくれました。


 ・・・これでお父さんとお母さんが忍び装束でなければ感動的なシーンとなるのですが、二人の格好が全てを台無しにしています。


「そろそろ仕事の時間でしょ?行きなさい」


 壁にかけられた時計を見ると、時間がギリギリになっていました。


「うん、行ってきます」


 急いで桶川さんとの待ち合わせ場所へ向かいます。いつものワゴン車で待っていた桶川さんと合流し、服を変えて髪をおろします。


 用意を済ませた私は、スタジオに向かう車の中でお母さんに言われた事を思い出しました。お母さんは私が成長したと言っていました。自分では分かりませんが、私は少し大人になれたのでしょうか。


 考え事をしているうちにスタジオに到着しました。蓮田さんと今日のゲストさんは既に来ているようです。新人の私が一番最後というマズイ事態に、二人のもとに急いで向かいます。


「蓮田さん、宇宙番長さん、おはようございます!」


 最後に到着した謝罪の意味も込めて、深々と頭を下げます。


「ユウリちゃん、おはよう」


「おはよ、今日も可愛いわね!」


 頭を上げると同時に抱きつく蓮田さん。流石にもう、防ぐのも避けるのも断るのも諦めました。


「蓮田さん、ラジオの時も抱きつくんだ」


 呆れながら笑う宇宙番長さん。アニメの収録の際にも見ている筈ですが、場所が変わっても変わらないので改めて呆れたようです。


「だって、ユウリちゃん可愛いんだもん!」


 更に力を入れて抱きつく蓮田さん。宇宙番長さん、お願いだから止めて下さい!

 私の心の叫びは届かず、蓮田さんに抱かれたままラジオの打ち合わせを進めます。と言っても、かなり大雑把に流れを確認するだけなのですが。


 それも終わり、雑談をしていたら収録開始とのスタッフさんの声でようやく解放されました。


 宇宙番長さんは、蓮田さんの演じるラビーシャちゃんの兄を演じています。ラビーシャちゃんは主人公の御庭番的な役割もこなすので出番があるのですが、お兄さんに出番は結構少ないので収録で会うことは余りありません。


 いつものように収録が始まりました。まずは今日のゲストである宇宙番長さんを紹介します。


「今日のゲストは、ゲータ役の宇宙番長さんです。皆さん拍手!パチパチパチ!」


 手を叩く音まで声にする蓮田さん。ベタすぎてツッコむ気すら起きません。


「どうも、ゲータ役の宇宙番長です」


 渋い声で自己紹介する宇宙番長さん。由紀が以前、「アースI・IIのナレーションは神だわっ!」と絶賛してたのを覚えています。

 あ、アースっていうのは、有名なRPGらしいです。私はやっていないので知らないのですが、振り向く女の子の絵とかが話題になったそうです。


ナレーションを一周聞いてからゲームやってました。

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