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第九十一話 通じぬ正論

 翌朝。身支度をして顔を洗い、リビングへ向かいます。リビングではお父さんが待ち構えていて、私を見るなり満面の笑みを浮かべました。



「遊、おはよう。昨夜お母さんから聞いたよ」


 そう上機嫌で話すお父さんに、顔が赤くなるのは仕方ないと思います。


「お姉ちゃんおはよう。あれ?どうしたの?」


「何でもないわ」


 顔が赤い事に不審がる由紀に適当に答え、食卓につきコーヒーを飲みます。


「遊、由紀、おはよう。早く食べなさい」


 食事の準備を終えたお母さんもテーブルにつきました。食事中もお父さんとお母さんはニヤニヤしていて、居づらい事この上ありません。手早く食べて、リビングから脱出しました。


 いつもより早い時間でしたが、家を出ます。ゆっくりと歩いて友子との待ち合わせ場所に。


「あ、遊。おはよう!」


 すでに友子は来ていました。かなり早い時間なのですが、何かあったのでしょうか。


「おはよう、早いわね」


「昨日の反応をネットで見るのが面白くて。みんなと早く話したくてね」


 待ち合わせしているのだから、友子だけ早く来ても意味ないと思うのは私だけでしょうか?


「早速学校に行くわよ。皆の反応が楽しみだわ!」


 学校に行くのは当然なので、大人しく付いていきます。教室に着くと、いつもより早いにも関わらず何人か来ていました。


「あ、おはよう。友子、昨日の放送見たわよ!」


「七里さんが結婚引退なんてビックリね!」


 すぐに友子を中心に、七里さんの話題で盛り上がります。私は参加する気はないので、自分の席に突っ伏して睡眠をとることにしました。


「でも、ユウリちゃん凄いわよね!」


「デビューして半年よね。それでバラエティーの司会に抜擢だもの」


 半ば眠った状態で耳に話題が、いつの間にか代わっています。七里さんの結婚話はどこに行ってしまったのでしょうか。


「ユウリちゃんは万能だもの。すぐに引っ張り凧になるわよ!」


 何故か得意気な友子。何故そこで貴女がドヤ顔をするのでしょう。


「美人で笑いもとれる声優かぁ」


「私も声優になりたいなぁ」


 声優談義で盛り上がる友子達。しかし、感心するツボがずれていませんか?声優にお笑い要素は必要ないと思います。声優が売るのは声です。


「HR始めるぞ、静かにしろっ!」


 いつの間にか担任の先生が来ていました。友子と話していた友人達は慌てて席につき、HRが始まりました。


「全く、憧れの七里さんが結婚してイライラしてるのに!」


 思い切り私事の理由で生徒に八つ当たりする担任の先生。そんな理由で八つ当たりなんてしないでください。


「でも、次の司会のユウリちゃんも可愛いよな」


「ユウリちゃんは俺が狙ってるんだからダメ!」


「ファンクラブにも入ってない先生に、その資格は無し!」


 七里さんから私に標的を変えた先生。その途端に反論する男子達と一部の女子の連合軍。


 ちょっと待って、いつの間にファンクラブなんて出来たのでしょうか。公式にしろ非公式にしろ、そんな存在を耳にしたことはありません。


「ユウリちゃんは典子御姉様とお似合いなの!」


「汚い男子なんかに近付いて欲しくないわ!」


 更に反論する女子。友子まで参加していますが、内容に聞き捨てならない物が含まれています。蓮田さんはどうだか知りませんが、私はノーマルです!


 言い争いは収まる所を知らず、先生対生徒の争いから先生対男子生徒対女子生徒の様相と化していました。

 堪忍袋の緒が切れた私は、力任せに机を叩きました。いきなりの音に、皆が静まり私を見ます。


「先生、HRはどうしたんですか?下らない言い合いするなら私、帰りますよ?」


 この一言に、男子・女子共に標的を私に変えてきました。


「下らないって何よ!」


「ユウリちゃんファンを敵に回す恐ろしさ、味わいたいか?」


 私はもう一度机を叩いて黙らせます。


「私はユウリちゃんを貶めるつもりは無いわよ?でもね、仮にも進学校と呼ばれる高校の授業時間を潰して論議するに値する内容だとは思わないわ」


 友子以外の皆は私を睨んできます。友子は笑いを堪えているのか、下を向いていました。


「好き勝手に『ユウリちゃんは俺のだ』とか『蓮田さんとくっつく』だの言っているけど、ユウリ本人の意思を完全に無視しているわよね。誰か本人に聞いたの?」


 蓮田さんは先輩声優として尊敬していますが、恋愛相手としてはノーサンキューです。同級生の男子なんて、言うまでもありません。


「良いじゃないか!妄想くらい!」


「そうよ!思うだけなら勝手でしょ!」


「本人に聞けなんて言われても、会える筈がないじゃないか!」


 男女共に声を荒らげて反論してきました。確かに、思うだけならば文句はありません。しかし、それを口に出し授業を妨害しているのです。


「放課後とか、授業時間以外にやればね。もう一時間目始まってるわよ?」


 前の扉を指差します。そこには、一時間目の担当教師が中に入れず突っ立っていました。


「授業潰してるあなたたちと、それを注意してる私、正しいのはどちら?」


 常識的に考えれば、私が正しいと思います。しかし、明らかに自分が悪いと指摘されてもそれを認めない人というのは確実に存在するのです。


「チッ、覚えてろよ!この根暗が!」


「一人良い子ぶって!生意気よ!」


 文句を言い続ける生徒を無視して、教壇に担任と入れ替わった数学の先生が立ちます。結局HRはやりませんでした。


「数学の授業を始めます。教科書を出して!」


 皆が慌てて教科書を出します。とりあえず授業は始まりましたが、少々面倒な事になりそうです。


 もしも一年前に戻れるのならば。夏風高校だけは止めろと過去の私に説教したいと痛切に思いました。


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