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第九十話 教育方針

遅くなりました

 それ以降は、掲示板には私の司会就任に関するお祝いなどが乱れ飛びました。


「・・・何だか、ユウリちゃん随分と期待されてるわね」


 画面を覗き込んだ私は、息を飲みました。書き込みが、来週からの放送への期待で埋まっていたからです。


「お姉ちゃん、当たり前よ。ユウリさんは声優だけじゃなく、ラジオのパーソナリティーとしても人気高いのよ?」


 あれは新人の私を引っ張ってくれてる蓮田さんの力です。私は脱線する蓮田さんを抑えつつ伝えるべき内容を言っているだけです。それは言えないですけれどね。


「そのユウリさんが司会をするのよ?面白くならない訳がないじゃない!」


 満面の笑顔ではしゃぐ由紀。それに対して、私は渋い顔をしています。


「あれ、お姉ちゃんどうしたの?」


 顔色が悪い私に気付き、狼狽する由紀。心配させないよう笑顔を作ろうとしますが、上手くいきません。


「由紀、遊には色々あるんだよ」


「さ、私が付き添うから部屋で休みなさい」


 お母さんに付き添ってもらい、部屋に戻りました。部屋に入り、ベッドに腰かけると頭を優しく撫でてくれます。


「遊、プレッシャー感じてるんでしょ?」


「うん。掲示板見て由紀の話聞いて、今更だけど怖くなった」


 自分に降りかかる期待。それに答える義務と責任が、私にはあります。


「遊は本当に真面目ね。それ自体は良いことよ?でもね、少し楽しみなさい」


「楽しむ?」


「ええ、仕事を真面目にやるのは大事なことよ。でもね、それを楽しんだ方が良い仕事を出来るわよ」


 微笑みながらゆっくりと語られた言葉には、不思議な説得力がありました。


「遊と由紀に色々やらせたのは、楽しんでやれる仕事を見つけてほしかったから。遊は今の仕事好きでしょ?」


 声をあて、先輩声優の人達とアニメを作る。蓮田さんとの、掛け合い漫才のようなラジオ。ボケを入れながらも、真剣に成績を競うクイズ番組。


 確かに、やっている時責任だとか義務だとか考えていませんでした。

 ラジオは最低限伝える内容があるのでそれを頭に置きながらやっていますが、始めの時のよりは楽しんでいると思います。


「うん。私、この仕事が好き。すごく楽しいと思う」


 それを聞いたお母さんは、嬉しそうでした。


「ならば大丈夫よ、司会のお仕事も楽しみなさい。ファンの人だってそれを望んでいるわ。もちろん、私とお父さんもね」


 この時、やっとわかりました。他の家とは違う、うちの教育方針。煩く思う時もありましたが。その全てが私と由紀の為だったと確信出来ました。


 由紀にはテニス。私には声優。心からやりたいと思うことを探すために。それに全てを掛けれるように。お父さんとお母さんは導いてくれたのです。


「お母さん・・・ありがとう」


「ん、わかってるわ」


 お母さんは気付いてくれました。「ありがとう」の一言に込めた思いに。今だけではなく、今までの全てに対して込めた思いに。


「由紀に心配かけちゃった。下に降りるわ」


「そうね。今頃お父さんが必死で足止めしてるはずね」


 お母さんと二人で一階に降りると、由紀とお父さんの声が聞こえてきました。


「お姉ちゃん、大丈夫なの?私も行きたい!」


「いや、お母さんが付いて行ったし大丈夫だよ。由紀、落ち着きなさい!」


 二階に上がろうとする由紀と、それを宥めるお父さん。理由を話せない為、お父さんの説得はしどろもどろになっています。


「お父さん、ありがとう。由紀、もう大丈夫だから」


 私がリビングに姿を現すと、二人はほっとした顔をしました。お父さんはこれ以上由紀を抑えずに済むという解放感から。由紀は私が元気そうな事に対する安堵からでしょう。


「心配かけてごめんね、大丈夫だから」


 ソファーに座り、由紀の頭を撫でます。


「良かった。でも、いきなりどうしたの?」


 心配してくれるのは嬉しいのですが、まだその原因は言いたくありません。私の司会就任でテンションが上がっていた所なので、この場で言おう物ならおねだり攻撃が果てしなく続きそうです。


「ちょっと気分が悪くなっただけだから、もう大丈夫よ。それより、ネットはどうなったの?」


 あまり追及されたくないので、ちょっと強引ですが話題を変えました。ネットの反応がどうなったのか気になるのも本当ですよ。


「あ、見てないわ」


 ノートパソコンを操作する由紀。すぐにお目当ての掲示板を開いて見せてくれました。


「ファンクラブの方はお祝い一辺倒ね。一般の掲示板は結婚の話でもちきりよ」


 新人の声優が司会をする事より、ベテランアナウンサーが寿退社する事の方が話題になるのは当然です。


「そっか。由紀、ありがとうね」


 由紀はパソコンを片付け、自分の部屋に持って上がって行きました。


「お父さん、ありがとう」


「ん?由紀に聞かれたくなかったんだろう」


 お父さんはお礼の理由を、由紀の足止めだけだと思ったようです。お母さんとのやり取りを知らないので当然です。


「後でお母さんに聞いてね。私、お風呂入って寝るわ」


 お礼の本当の意味を知られるのが恥ずかしくなり、バタバタとリビングを後にしました。


 翌朝、感激したお父さんが私に抱きつこうとしたのをお母さんが背後からジャーマンスープレックスで阻止し、上四方固めで沈めたのは別のお話。

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