第八十九話 手の平返し
予感は的中し、その後二時間も一人でファッションショーをやる事に。終わった時には真っ白に燃え尽きました。
「やっぱりユウリちゃんは何を着ても似合うわ」
「町子の見立てが良いからよ」
そんな私を他所に、満足そうな観客2人。燃え尽きて、椅子から立つ気力もない私に言うセリフがそれですか。
「ユウリちゃん、遅くなったしそろそろ帰らないと」
「・・・はい」
ボケる気力もツッコむ気力も無い私は、素直に従います。大量の服を車に載せ、帰る準備を済ませます。
「深谷さん、ありがとうございました」
またもや無料で大量の服をいただいてしまいました。お礼はきちんと言わないと。
「いいのよ、これはお祝いなんだから。ユウリちゃんの活躍に期待してるわよ」
「期待は裏切らないわよ。じゃあね、町子」
手を振りながら車を発進させる桶川さん。プレッシャーかける発言にツッコむ気力が無い私は、黙って座っていました。
「この洋服、半分ユウリちゃんの家に置いて、残りは事務所に置くわね」
家から直接仕事に行くときと、事務所で着替えて行くときがあるのでその方が助かります。
「それでお願いします」
荷物が大量な為、家に電話しておきました。家に着くとお父さんが待っていて、服の山を運び入れます。
「いつもお世話になりまして。お礼の言葉もありません」
「いえいえ、遊さんにはそれをしたくなる魅力がありますから、町子も好きでやっているのですよ」
のんびりと談笑するお母さんと桶川さん。私は、部活でまだ帰っていない由紀が来ないか見張り中です。こんな所に帰ってきたら、根掘り葉掘り聞かれてしまいます。
「ゼエ・・・ゼエ、お、終わったよ」
息絶え絶えのお父さん。一箱はそんなに重くなくとも、それが何十とあれば体力も尽きるというものです。
「では、私はこれで」
「今度ゆっくりといらして下さい、深谷さんも連れて」
笑顔で手を振り合うお母さんと桶川さん。それだけは勘弁してもらいたい。何時間着せ替え人形になるのか考えたくも、ありません。
桶川さんの車が見えなくなり、家に入ります。少しして由紀が帰ってきました。間に合って良かったと胸を撫で下ろします。
「この前の収録で何かあったって、学校でも話題になってた!」
楽しそうに話す由紀。中学校でも話題になっていたようです。
「放送の日が楽しみよね!」
由紀は学校で、それを知ってると言わなかったようです。素知らぬ振りをして話に加わっていたとか。越後屋、そちも悪よのぅと言うべきでしょうか。
そうして時は過ぎ、放送の時を迎えました。家族全員集まり、リビングで鑑賞することに。
「これからやる番組の内容知ってるって、何だか変な気分ね」
由紀の言葉にうなずく両親。私もその気持ちは良く分かります。私は毎週そう思っていますから。
「由紀、何でノートパソコンなんて持ってるの?」
由紀はノートパソコンをテーブルに乗せています。テレビと同時に見る気でしょうか。
「ネットで大変な事になると思うから、リアルタイムでチェックしようと思って」
「さあ、始まるわよ」
お母さんに促され、テレビを見ます。タイトルコールから、出演者の紹介に移りました。
「そろそろね」
次々と解答者が紹介されていき、とうとう私が紹介される番になりました。
「そして、強力な優勝候補、ユウリちゃん!」
「今週も頑張ります」
「ユウリちゃんは、解答者出演最後の週になります!」
テレビの中の私が、一瞬ギョッとした顔になりました。自分の事ながら、驚くのは当然です。この時初めて知ったのですから。
「あ、ユウリちゃんのファンクラブ掲示板が大変な事になってるわ。大炎上よ」
由紀は愉快そうに言いますが、笑える事ではないと思うのは私だけでしょうか。とりあえずパソコンの画面を覗き込みました。
「最後?降ろすって事か?」
「局にカチコミかけるぞ!」
「あ、参加希望!」
「ちょっと待て!俺も行きたいが、今ハムツールに居るんだよ!」
「根性で飛んでこい!」
テレビ局に抗議に行くって話で纏まっていました。ハムツールって、ナイル川の上流だと記憶していますが、そんな所でもネットは繋がるのですね。
「何だか、過激な話になってない?」
「そんなこと無いわ!私も結末知らなかったら参加表明しているもの!」
私のために憤ってくれるのはありがたいのですが、もう少し穏便に考えて欲しいと思うのは贅沢でしょうか?
「最後なら頑張ります!って、聞いてませんけど?!」
「はい、ここで発表します。私、今週をもって寿退社することとなりました!」
「「「ええ~っ!」」」
「と言うわけで、来週からユウリちゃんには僕と司会をやってもらいます」
結婚発言&私の司会就任宣言が出たとき、唐突に由紀が笑い出しました。
「アハハハ、こうなると思ってたけど、やっぱり180度変わったわね!」
再度パソコンを見ると、書き込みは見事な手のひら返しをしていました。
「ナイス判断!」
「祝福しに行くぞ!」
「ちょっと待て、俺は今ベルホヤンクスに居るんだ!」
テレビ局を非難する論調だったのが、称賛する論調に変わっていました。




