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第八十八話 身バレ?

 車は走り、見覚えのある店の駐車場で止まりました。予想した通り、深谷さんのおみせです。


「さ、町子が待ってるわ」


 桶川さんに背中を押されて店に入ります。自動ドアをくぐり店内に入った瞬間、私の視界はブラック・アウトしました。


「ユウリちゃん、待っていたわよ!」


 待ち構えていた深谷さんに抱きしめられたようです。抱き締める力が強くて息ができません。背中に回った手でタップしましたが気付いてもらえませんでした。


「脳力試験の司会やるんだって、おめでとう!」


「町子、多分聞こえてないわよ?」


 桶川さんの言葉に下を見る深谷さん。私は息が出来ず、意識を手放していました。


 朧気に何か聞こえます。人の声、女性の話声のようです。聞き覚えがある声だと思いますが、意識がはっきりしないので判別出来ません。


「だから、早く人工呼吸を!」


「それはダメ!それだけはダメよ!」


「女同士だし、問題ないわよ!」


 意識が浮上するにつれ、声が明瞭に聞こえるようになりました。桶川さんと深谷さんが言い争っています。人工呼吸?誰にでしょうか。


「町子がするくらいなら、私がやるわよ!」


「ならば、どちらがするかジャンケンで勝負よ!」


 論点がすりかわっています。人工呼吸するかしないかから、どちらがするかになってるわ。私は起き上がり、二人の側へ。


「何を、してるの?」


 感情を圧し殺したつもりですが、声が低くなっています。私もまだ修行が足りないようです。


「そりゃあ、もちろん」


「どちらがユウリちゃんにキスをするかでジャンケンするのよ」


 互いの顔を睨み、私の方を見ようともしません。この二人、ちょっとOHANASHIする必要がありますね。


「人工呼吸の必要は無いと思うわよ」


 ここでやっと私を見る二人。鏡の前に出されたガマガエルのように汗を流しています。


「あ、あら、ユウリちゃん。気付いたのね?」


「そ、それは何よりね」


 私は満面の笑顔を浮かべ、二人は反射的に逃げようとしました。しかし、それを許すような私ではありません。


「正座、しましょうか」


「「はい」」


 素直に正座した二人。喉の調子は絶好調です。二時間でも三時間でも続けてOHANASHIする程度では仕事に響かない自信があります。


「・・・で、連れてきた理由を聞いてませんが?」


 昼過ぎに着いたのに、もう夕方になっています。未来のロボットが持つ、時間を貯金出来る未来道具を使われたのでしょうか。


「ユウリちゃんに、司会就任のお祝いを言いたかったのよ。あと、プレゼントも渡したかったし」


 深谷さんは司会交代の事を知っていました。桶川さんが言ったのでしょうか。桶川さんを見ると、「言ってない」と言うように手を振っています。


「ああ、京子に聞いた訳じゃないわよ。ユウリちゃんの事はお見通しよ」


 胸を張る深谷さん。お金持ちのようですし、独自の情報網でも持っているのでしょう。


「まだ公になってないのに、何処から聞き付けて来たのよ」


 呆れる桶川さんを軽く無視して、深谷さんは白い箱を私に渡しました。


「これ、着てみてくれる?」


「あ、はい」


 不意を突かれた私は、思わず箱を手に取ります。そのまま試着室へ入り、箱を開けました。


「・・・女だけなんだから、ここで着替えても良いのに」


 深谷さんのため息混じりの呟きが聞こえましたが、無視します。危機察知のスキルが、大音量で警戒を促しているのです。

 ここは店の裏の従業員スペースみたいな場所で、他の人が来ることは多分ありません。だけど、深谷さんの前で着替えるのは危ない気がします。


「うわぁ、綺麗!」


 箱の中に入っていたのは、水色のワンピースでした。淡い水色がグラデーションを描き、下にいくにつれ段々と色を濃くしていきます。

 着てみると、あつらえたようにピッタリでした。と言うか、深谷さんの事だからあつらえたのだと思います。


「ユウリちゃん、似合ってるわ!」


「想像以上ね!」


 試着室から出て姿を見せると、手放しで誉めてくれる二人。


「天は二物を与えずと言うけど、あれは嘘よね。ユウリちゃんは可愛いのに頭良いもの」


「頭良いと、何故思うの?」


 桶川さんが訝しげに問います。脳力試験で優勝は何度かしましたが、やらせの可能性もあるのでそれは根拠になりません。


「脳力試験であれだけ活躍してるしね。それに、進学校の夏風高校よね?」


 深谷さんは私が通う高校を特定していました。固まる私と桶川さん。様子から見るに、桶川さんが話した訳ではなさそうです。


「制服見れば判るわよ。服飾の仕事してるのよ、有名校の制服位判るわ」


 言われれば納得の理由です。深谷さんに高校がバレたのは、私がノコノコと制服で来たからでした。


「町子、それ・・・」


「もちろん、誰にも言わないわよ」


 桶川さんの問いに、先回りして答える深谷さん。


「私は可愛いユウリちゃんを堪能したいだけよ。ユウリちゃんや京子に不利になるような真似はしないわ」


 キッパリ言い切る深谷さんに、私も桶川さんも安堵のため息をつきました。私生活の平穏は、破られずに済みそうです。


「さて、安心してくれた所で、次はこれね」


 店の片隅に山積みになっている箱の一つを差し出されました。まさかとは思いますが、あの箱全部私に用意した服なのでしょうか。

 だとすると、その山全てを試着するとか・・・


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