第八十六話 有頂天な友子
サブタイトルの話数が間違えているもの御指摘を受け、修正しました。
翌朝、いつもの時間に起きます。身支度を整えると、タイミングを計ったように由紀がドアをノックしました。
「お姉ちゃん、起きてる?」
「今着替えた所よ。下に行きましょう」
由紀と一緒にリビングへ降ります。テーブルにつくと、お父さんとお母さんがニュースを見ていました。
「あら、遊。おはよう」
「遊、おはよう。七里さんのニュース、どこもやってないぞ」
お父さんとお母さんは、七里さんのニュースをやっていないかチェックしていたようです。
「ネットにも出てないよ。最大級の掲示板、『1.41421356チャンネル』に無かったもの」
由紀が更に補足しました。しかし、随分中途半端な名前の掲示板ですね。何を考えてそんな名前にしたのでしょう。
「あの掲示板に無いんじゃネットにも出回ってないわね」
「皆黙ってるみたいだな」
あの収録に携わったスタッフや見学者、全員が沈黙を守っているようです。呑気に話していたら、登校する時間になりました。慌てて自室に戻ると制服に着替え鞄を持って家を出ます。
友子と会うと、すぐに昨日の話を切り出してきました。
「遊、司会就任おめでとう!それと、七里さんの件まだ知られていないわね」
「ええ。由紀がネットにも出てないって言ってたわ」
電車の中で他の学生の話に耳を傾けてみましたが、やはりあの事を話している人は居ません。
学校に着き教室で耳を澄ませても、七里アナの話題は出る様子がありませんでした。
「これだけ秘密が守られてるなんて、珍しいわね」
「今の世の中、簡単に情報発信出来るものね」
ブログやSNSを使えば、誰でも不特定多数の人に情報を発信できます。まだネットなどに出てないということは、誰もそれをやっていないのでしょう。
「これは、放送の日が楽しみね」
何だかドラマに出てくる悪役のような笑いかたをする友子。正直、ちょっと引いてしまいます。
「友子、何を笑ってるのよ?」
「面白いことでもあったの?」
友子と仲の良い数人の女子が友子を囲みます。更に笑みを深めた友子は、優越感を隠そうともしません。
「内緒よ、内緒!」
「何よ、気になるわね!」
「白状しなさい!」
女子は問い詰めますが、友子ははぐらかして口を割りません。結局言わないうちに授業が始まりました。
件の女子が休み時間毎に迫ってきましたが、友子は笑いながらのらりくらりとはぐらかします。あの流し方は見事な物です。私も身に付けると役に立ちそうなのでお手本にしましょう。
そして昼休みになりました。友子と二人、女子達を撒いて屋上で弁当を食べます。
「面白かったわ。自分だけが知っている優越感、悪くないわね」
ニマニマと笑いながら言う友子。すっかり悪役笑いが板についています。この子、転生したら来世は絶対に悪役令嬢です。
「友子・・・性格変わってない?」
「一般人の私が、世間に知られていない芸能情報を持ったのよ。少しばかり有効に使ってもばちは当たらないわ。良子なんて食いつく食いつく。今週の『脳力試験』見れば分かると教えたら、更に食いついたし」
二時間目の休み時間以降、友子に質問する人が増えたので不思議に思っていましたが、そういう事だったのですね。
「内容は言っては駄目よ?」
「大丈夫よ、それは絶対言わないわ」
言ってしまうと優越性が無くなるので、言わないとは思います。しかし、念には念を押しておきました。
昼休み終了間際、教室に戻ります。友子はすぐにクラスメートに囲まれました。それを横目に次の教科の準備をしていると、良子がやってきました。
「良子、友子の所に行かないの?」
「友子に聞いても、多分教えてくれないから。遊なら友子に聞いてるんじゃないかと思って」
教えてくれない友子に見切りを付けて、知っているかもしれない私に目をつけたようです。目の付け所は悪くないのですが、私も話すつもりはありません。
「私は聞いてないわ。別に興味無いし」
友子からは収録の内容は聞いていないので、嘘ではありません。その現場に私も居たので内容を知っているだけです。
「『興味無い』って事は、内容をある程度知ってるのね?」
内容をある程度知らないと、それに興味有るか無いか判断出来ません。ちゃんとそれに気付いてくれたので、少し情報をあげましょう。
「友子は『脳力試験』の収録を見学に行ったみたいなの。その時何かあったのは知ってるわ。でも私は見学に行かなかったのよ」
「やっぱり友子に聞くしかないのね」
右手親指の爪を噛んで悔しがる良子。友子が有頂天になっていられるのは脳力試験の放送までなので、そこまで悔しがらなくともと思ってしまいます。
「放送を見れば分かるらしいし、木曜まで待てば?」
「気になるじゃない!それに、友子のドヤ顔を三日も見るのシャクなのよ」
そう言うと、友子を囲む人の輪に入っていってしまいました。
確かに、あの友子のドヤ顔はどうかと思います。呆れてため息をついた時、校内放送が流れました。
「北本遊さん、北本遊さん。校長室まで至急お越し下さい」
校長先生からの呼び出しです。どうせロクな用事ではないと思いますが、行かないわけにはいきません。
扉を開け、廊下に出ると先生に鉢合わせしました。
「お、北本。校長からの呼び出しか、何をやったんだ?」
「何もやってませんよ。あの校長先生がまともな事をやると思いますか?」
先生は初日の事を思い出したのか、渋い顔をしました。
「この前の呼び出しなんて、『一緒に脳力試験の録画を見るため』だったんですよ?どうせロクな内容じゃありませんよ」
確かになぁと小声で呟く先生を放置して、校長室へと歩きます。まともな用事ならば良いのですけど。




