第七十八話 イベントへGO!
GWも終わり、5月半ばの日曜日。今日は仕事もオフで、空は快晴。実に絶好の引きこもり日和。
という訳で私は、習慣でいつもの時間に起きてしまったけど2度寝に入ることに決定です。
「お姉ちゃん!支度できた?!」
ドアを壊す勢いで部屋に乱入してきたのは、オタク街道爆進中の妹様。鍵をかけていた筈なのですが、鍵はストライキでも決行したのでしょうか。
「本日は定休日となっております。またのご来店をお待ちしております」
由紀に背を向けて寝る体勢に入ります。土日にも仕事が入る私にとって、完全なお休みは金よりも貴重なのです。
「何 寝言 言ってる のよ? 今日は 蓮田 さん の イベント が ある のよ! 」
セリフが途切れているのは、私の腕を掴んで揺すっているからです。女子中学生がベッドの上で女子高生に乗っている図。こんなの需要があるのでしょうか。
「由紀、ゆすりは良くないわよ?」
「ゆす りが 違う で しょ? 早く 着替え てよ! 」
由紀の手を振り払い、上半身を起こします。素早く跳ね上がると、体重をかけて押し倒し逆海老をきめます。
「由紀、買い物には付き合わないわよ?折角の休みなんだから、ゆっくりさせてよ」
「買い物じゃなくてイベントよ。だから付き合ってね?」
にっこりと笑う由紀。黒いオーラが漂っているように見えるのは、気のせいだと思いたい。
「今度付き合うから、今日は寝かせてよ」
イベントも行きたくないし、秋葉原という場所も行きたくありません。声優である事を隠している私がアニメファンの巣窟と言える秋葉原に行くなんて、言語道断です。
「お姉ちゃん、最近付き合ってくれないじゃない。今日はお姉ちゃんの仕事がないと聞いて、練習お休みにしてもらったのよ」
この所忙しくて、遊ぶどころか会話すらあまりしていませんでした。買い物でないならあちこち振り回される事もないでしょうし、蓮田さんのイベントを見るのは私がやるときの参考になります。
「着替えるから、リビングで待っていなさい」
逆海老を解き、頭を撫でると破顔するという言葉がピッタリな笑顔で喜ぶ由紀。両親は家にいても忙しいし、私も仕事で不在が続いたので寂しかったのでしょう。
「リビングで待ってるね」
弾んだ声で答え、部屋を出た由紀。身支度を整えてリビングに行くと、由紀が雑誌を見ながら待っていました。
「はぁ・・・ユウリさんのドレス姿最高!」
どうましょう。回れ右してベッドに潜り込みたくなりました。由紀が見ているのは、私がコスプレした写真が乗っている雑誌でした。
「由紀、準備終わったわよ?」
「あ、すぐ行く!」
雑誌を置いて駆け寄ってくる由紀。玄関に行く途中、書斎に顔を出して出かける事を伝えました。
「由紀と出掛けて来ます」
「気を付けて行ってらっしゃい」
笑顔で手を振るお母さん。背後に魔法使いのローブを付けて、杖を持ったお父さんを見たのは気のせいと思っておきます。
「お姉ちゃんとお出かけなんて、久し振り」
「ちょっ、歩き辛いわよ」
腕に抱きついて、上機嫌で歩く由紀。結構抱きつく力が強いので、歩きにくくなっています。
「大丈夫、イベントまで時間あるし、ゆっくり歩くの!」
無邪気な笑顔で言われると振りほどけません。歩けない事はないので、そのまま駅へ歩きました。
駅につき、東京方面に行く電車に乗ります。休日の車内は空いていて、並んで座る事が出来ました。
「蓮田さんも大変ね。土曜日はラジオの収録、今日はイベントなんて。いつ休んでるのかしら?」
「イベントはいつもじゃないしね。でも、蓮田さん位になると休みって少ないんじゃないかな」
まさか、私が由紀と声優さんの話を電車の中でする日が来ることになるとは思いませんでした。途中一度乗り換えて秋葉原に到着します。
「聖地秋葉原!テンション上がるわ!」
やけに張り切る由紀。反対に私のテンションは急落しています。オタク丸出しの叫びを放った由紀が、奇異の目で見られる事もなく当然のように受け入れられているからです。
「ほら、お姉ちゃん行くわよ!」
腕を引っ張り、私を連行する由紀。歩行者天国の道路に特設ステージを作って、トークショーをやるようです。
ステージの前には黒山の人だかりが出来ていました。しかし、ステージの上には誰もいません。
「まだステージは始まってないのね」
「うん。後一時間くらいかかるかな?」
一時間もこのまま立って待つのでしょうか。そんなに時間があるのなら、もう少しゆっくりと出てきても良かったと思います。
「始まる時間に来れば良かったんじゃないの?」
「直前になんて来たら、ステージが見えないわよ?」
こういうイベントは全てこうなのでしょうか。それとも、蓮田さんのイベントだからそうなのでしょうか。後者なら良いなと思いつつ始まる時間を待つのでした。




