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第七十一話 秩父よいとこ?

 指定された列車の所に行くと、男の先生が待機していました。説明によると、車両はクラス別になっていて、席はペア同士で座るとの事です。

 席に指定はなくて、どこに座るかは早い者勝ち。ペア同士ならば制約はないそうです。


 車両の扉に貼ってあるクラス表示を見て、自分のクラスの車両に乗り込みます。デッキを通り客室内に入ると、中程の座席で里美が手を振っていました。

 私は網棚に荷物を上げ、里美の隣に座ります。友子は少し離れた席にペアの子と座ったようです。


「私、秩父初めてなのよ。楽しみね!」


「私も初めてよ。詳しくは知らないけれど、秩父夜祭りに三峰神社。長瀞の石畳にお手製ロケットを打ち上げる竜祭り、砂で作られた巨大な和同開珎が有名かしら」


「それだけ知っていれば、充分に詳しいわよ」


 そんな雑談をしていると、列車は動き出しました。窓の外の景色が、飛ぶように後ろへと流れていきます。

 里美は飽きもせず景色を眺めていましたが、私はすぐに寝てしまいました。


 目が覚めた時、列車はすでに車庫の中で、私は一人置いてきぼり・・・な訳はなく、山の合間を縫うように走っています。


「あ、起きた?外は山だらけよ!」


 埼玉に行くのに風景が海だったら大変です。埼玉は海無し県なのですから。


「おはよう。あとどれくらい?」


「後十分くらいで着くみたいよ。降りる準備しましょう」


 私と里美は網棚から荷物を下ろし、足下に置きます。すぐに列車はホームに滑り込み、無事に秩父駅に到着しました。


 荷物を持ち、席を立とうとした私達は先生に止められました。


「一気に降りてもホームが埋まってしまうから、クラス別に降りるぞ。うちはまだだからな!」


 考えてみればもっともです。乗るときは皆まちまちに来ましたが、降りる時は皆一斉になってしまいます。そうなれば、ホームはうちの生徒で埋まってしまうでしょう。


「ここまで来てお預けはないわよね。早く夜祭り会館を見たいわ!」


 ぶつぶつと文句をたれる里美。多くの提灯を下げた山車が市内を回る光景は、ニュースで何度か見たことがあります。私も少し楽しみだったりしているのです。


「あ~、駅を出たらすぐにバスに乗って移動だからな。ウロチョロして迷惑かけるなよ」


「そんな・・・夜祭り会館を見れないなんて!」


 両の手足を床につき、うちひしがれる里美。私もちょっと残念ですが仕方ありません。学校行事なので、勝手に見学に行くなんて言語道断です。


 ふと窓の外を見ると、ホームで他のクラスの担任の先生が手旗信号を送っていました。


 ツ・ギ・ハ・オ・マ・エ・ノ・ク・ラ・ス・ハ・ヨ・オ・リ・ロ・ヤ


 どうやら、中々降りてこない私達のクラスに降りるよう催促しているようです。手旗信号を使わなくても、入ってきて口で伝えるか携帯を使えば良いと思うのは私だけ?


「うちの番だぞ!素早く降りるように!」


 素早くと言われても、出入り口は前と後ろの2ヵ所しかありません。急かされても時間がかかってしまいます。急いでも仕方ないので、一度席に座りました。


「遊、降りないの?」


 友子が降りる列に並びながら聞いてきました。


「どうせまだ降りれないわよ。人が少なくなってから降りる方が楽だわ」


 殺到する生徒で混雑する出入り口を見て、友子は荷物を降ろして手近な席に座りました。


「それもそうね。今並んで降りても、空いてから降りても大差無さそうだわ。それで、里美は何を落ち込んでるの?」


「夜祭り会館を見たかったのに、見学出来ないと知ってショックを受けたのよ」


「それは御愁傷様。あ、そろそろ行くわよ!」


 友子は御座なりに励ますと、出入り口を指差しました。かなり空いてきていたので、荷物を持って降りる準備をします。


「里美、友子に置いていかれるわよ!」


 ノロノロと荷物を持つ里美の腕を引き列車を降ります。駅を出ると、4台の観光バスが停まっていました。


「クラス別になっているから間違えるなよ。と言っても、うちが最後だから間違えようがないがな」


 念のためバスの窓に貼ってあるクラス表示を見て確認します。

 里美を引っ張りバスに乗り込みました。


 バスは緑の山と線路に挟まれた道を進みます。三十分程山道を走り、宿泊先となるホテルに到着しました。


「外に出たらクラス別に整列だぞ!」


 先生の注意を聞きながら外に出ます。駐車場はかなり広く、一年全員が並んでも平気でした。整列が終わった生徒の前に先生とホテルの人が並びます。


「皆様、ようこそお越しくださいました」


「この後は自由時間だが、羽目を外すなよ。あくまでも学校行事の一環だからな」


 ホテルの人の挨拶の後、先生が注意をしました。とは言いますが、先生も何だか浮かれているようです。


「期間中はうちの貸しきりだから、食事と入浴は自由だ。しかし、節度というものを心掛けるように。以上!」


 食事時間と入浴時間が自由なのは珍しいです。時間を決めて順番に入るのが普通です。


「あ、一つ注意があります。露天風呂は深夜は危ないので、夜十時以降はなるべく使用しないでください。鹿や熊、グリズリーが出没します」


 ざわめく生徒逹。普通ならば動物園でしか見られない動物が出没すると聞き、逆に好奇心を刺激されたようです。


「鹿は見てみたいわね」


「熊って、マジか!」


「グリズリーも熊だろ!それに、何で日本に居るんだよ!」


 最後のツッコミには激しく同感です。秩父とは、想像以上の魔境だったようです。



グリズリーは出ません。・・・多分。

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