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第七話 スタジオ入り

「おはようございます!」


 スタジオに入り挨拶をすると、中に居た人達が全員こちらを向きました。皆さん、私をガン見してますが、急遽代役になった私が気に食わないのでしょうか。

 主役を勝ち取った子が勝手に役を投げ出して逃走。その代わりが声優ですらない私。


 これは睨まれて当然です。無理矢理連れて来られた私からすればこれっぽっちも責任がないのだから理不尽だけれど、彼らの立場では至極当然の反応。


 どう反応しようか悩んでいると、桶川さんはお偉いさんらしき人の所に行って何かを話しだしました。多分代役である私の事を話に行ったのでしょう。


 私も挨拶くらいした方が良いかしら?引き受けたからには半端はしたくありません。今回限りとはいえ、共に働く人達の心証を良くする事に越したことはないのです。


「おはようございます。代役でロザリンド役をやるユウリです」


「ああ、あの子の代役かぁ。同時に三役なんて無理難題、よく了承したね」


 二十代と思われる男性が、聞き捨てならない事を教えてくれました。主役のロザリンドちゃんをやるとは聞いていますが、三役なんて聞いていません。


「逃げ出したくなるのはわかるけど、本当に逃げたら不味いよなぁ。とばっちりを食った君は可哀想だけど、頑張ってね」


 先程の視線は、怒りや妬みではなく哀れみや同情からの視線だったようです。桶川社長、大人なんですから説明責任くらい果たして下さいよ。


「そう言うけど、朝霞君なら三役くらい余裕でこなせるでしょう」


 戻って来た桶川さんが突っ込みを入れてます。この男の人、見覚えがあると思ったら人気声優の朝霞さんでした。妹のアニメ雑誌に写真が載っていました。


「僕はディルク役に決まってましたから、ロザリンド役はやれませんよ。自己紹介がまだでしたね。『何役やってもギャラは同じ』、声優の朝霞です」


「よ、よろしくお願いします。新人のユウリです」


 それを皮切りに、声優さん達から自己紹介をしてもらいました。全員、妹の雑誌で見たことがある声優さんでした。

 アニメが好きではない私ですら知っている人達ばかりです。そんな人達を差し置いて、私が主役なんて畏れ多い所業です。


 ひきつりそうな表情筋を根性で制御し笑顔を浮かべる私を、桶川さんは先ほど話していた人の所に連れて行きます。


「お待たせしました。この子が代役のユウリです」


「初めまして、新人のユウリです。よろしくお願いします」


「早速だけど、声を聞かせてね。初めからロザリンドのセリフだけやってみて」


 桶川さんから台本を受け取り、ロザリンドちゃんのセリフを読みます。読んだ原作から私なりに思い描いたロザリンド像を意識して声を作り感情を込めました。


「オッケーだ!前の子よりも上手いんじゃないか?ロザリオはロザリンドから少しだけ変える感じでやってみてくれ。リンは完全に別で、年上って事を意識してな」


 ちょっと複雑なんだけど、この物語は乙女ゲーム転生もの。日本人のリンが悪役令嬢のロザリオになるんだけど、ロザリオの意識も同じ体に宿っているのです。

 心を壊し閉じこもったロザリオを救ったリンは、ロザリンドと名を変えて生きていきます。


 だから、三役だけどキャラクターは一人という状況となります。とりあえず、迷子の子にやったようにリンとロザリオを演じました。


「素晴らしい、前の子よりも余程良い。桶川さん、こんな子居たなら初めから出してよ」


 曖昧な笑みを浮かべて誤魔化そうとする桶川さん。まさか、数時間前に拉致して連れてきた子ですなんて言えないわよね。


「ユウリちゃん凄いわ!あの監督、妥協しないから大変なのよ」


 母親役の声優さんからお褒めの言葉を頂きました。アフレコのスケジュールを崩さずに済むそうで、声優の皆さんからお褒めと感謝のお言葉を貰いました。


「ではモノローグからいきます!」


 私が認められたので、早速アフレコの開始です。さっきまで和気藹々としていた声優さん達の表情が変わります。


「さ、頑張って来てね」


 桶川さんに送り出され、履き物を変えて録音用のブースに入ります。いよいよアフレコの始まりです。

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