第六十九話 一悶着
授業が終わり、終業のHR。先生が大きな箱を持って教室に来ました。
「くじ作ったから、適当に引きに来い。同じ番号同士が相部屋で、研修中はペアで行動してもらうぞ」
箱を揺らして説明する先生。箱が一つという事は、男女一緒なのでしょうか。
「先生、箱が一つですが、男女で分けてありますか?」
「ん?クラスメート同士仲良くする事が目的なんだから、男女を分ける必要無いだろ?」
その言葉に男子から拍手と歓声が飛びました。同時に、女子全員からはブーイングの嵐が巻き起こります。
「先生、部屋も同室になるんですよ?年頃の異性同士を一つの部屋に泊まらせるのはどうかと思いますが。何か問題が起きた時、先生は責任を取れるのですか?」
今度は女子から同意する声援があがりました。逆に男子からは非難の声が上がります。
「そんなにクラスメートが信用出来ないのかよ!」
「クラスメートと言っても、一月ちょいでしょう。男子全員の人格なんてわかるわけないわ!」
「それにあの子が可愛いだの、あの子のスタイルが良いだの散々やらしい目で見ておいて、どの口で信用なんて言うのかしら?」
一つ言われたら倍返しする女子の勢いに、男子は沈黙し勝負は決しました。
「しかし・・・くじ作っちまったし、作り直すの面倒だし」
うつむいて、ブツブツと下らない言い訳をする先生。それにより男子の勢いが復活しました。
「今から別の手段準備するのも大変だろう。大体、どうやって決めるつもりだよ」
「そうだよ。くじ引きを否定するなら代案を出せよ」
男子は変な期待を込めて、くじ引きを強行しようとしています。確かに、代案なき否定は感心できません。しかし、これは認められるものではないのです。
「なら、私は参加しません。理不尽な行事に参加する必要はありませんから」
くじ引きを変えないのなら、元の行事である研修旅行に参加しない。それが最善です。理不尽な男女同室という不参加に足る正当な理由があり、ユウリの正体がバレる危ない橋を渡らずに済む名案です。
「ならば私も」
「私も参加しません」
次々と女子は不参加を訴え、不参加を表明しないのは男子だけとなりました。
「学校行事に不参加とか、出来ないに決まってるだろ!」
「あら、学校行事への参加は義務ではないわ。内申に響くかもしれないけど、どちらを選ぶかは個人の自由よ」
高校は中学と違い義務教育ではありません。学校行事や授業に参加するもしないも自由です。ただ、参加しなければ払った授業料が無駄になるだけです。
その後も男子と女子は言い争いを続け、先生はオロオロするばかりで収拾がつきません。なので、妥協案を出すことにしました。強く手を打って言い合いを止めさせ、私に注目を集めます。
「とりあえずくじ引きして、男女のペアになった人は後で引き直しにしない?そうすれば男女同室にならないわ」
女子全員ボイコットというのも後々面倒な事になりそうなので、解決策を提示しました。不参加の理由を自分で潰すことになりますが、これは仕方ありません。
「そうね。そうしましょう」
「チッ、余計な事を!」
男子が恨みがましい目線で睨みますが、そんなの無視します。一々取り合っていられません。
「それじゃ、とっとと引いていけ」
ようやくくじ引きが始まり、次々と引いていきます。八つの組が混合になったので、男女に別れて引き直しました。
「よし、終わったな。じゃあ今日は終わり!」
先生が出ていき、長かったHRが漸く終わりました。友子とペアになるくじは先に引かれてしまい、友子とペアにはなれませんでした。
「北本さん、よろしくね」
前に座っている女子が手を差し出して来たので応じます。彼女は鴻巣里美。私はペアになったのは彼女でした。
「よろしくね、鴻巣さん」
「里美でいいわよ。私も遊って呼ぶから」
気さくで良い娘なのですが、この子もオタクなのです。なのであまり関わりたくなかったのですが、こればかりは諦めるしかありません。
「そう言えば、宿泊学習って何をやるの?」
説明の日に休んでいたので、具体的な内容を何一つ知りません。ついでに聞いておきましょう。
「朝から移動して、昼過ぎに到着。その日は自由行動だって。二日目はオリエンテーリングだって。で、三日目の朝から戻りで終わりだそうよ」
「ありがとう。オリエンテーリングとは面倒ね」
「それと、行き先は秩父だって」
秩父ならそんなに遠くないし、自然豊かでそういうイベントにはもってこいの場所です。ドジな看護婦さんやエッチなカエルの研修医がいそうな地名ですが、居ないと信じましょう。
「秩父駅まで電車で、そこからバスだって。何で学校からバスで行かないのかな」
「多分、渋滞するからじゃない?」
ここから秩父までは、関越自動車道で花園インターまで行き、そこから国道を使います。曜日によっては大渋滞するので、それを嫌ったのでしょう。私は電車の方が時間計算成り立つから有り難いです。
・・・まさか、それで電車とバスの併用になったのでしょうか。それを平気でやる人の顔が浮かぶので、否定出来ません。
「ちょっと、大丈夫?」
考え込んだ私を心配するように、里美が見つめていました。
「あ、大丈夫よ。ちょっと考え事しただけ。HRも終わってるし、帰りましょう」
この宿泊研修、何事もなく終わるとは思えません。後の事など考えずに、不参加にするべきだったのでしょうか。




