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第六十六話 コスプレ父娘

「では続きを撮りますよ」


 休憩時間が終了し、撮影が再開されました。私が寛いでいるのは変わりませんが、背後や横に忍者姿の蓮田さんが佇んでいます。


「忍びなのに、全然忍んでないですよね」


「だって、忍んでいたら私が写らないわよ。天井とか椅子の影に僅かに顔が写るとか、心霊写真みたいじゃない」


 言われてみればその通りなのですが、元々蓮田さんの参加は予定されていなかったのですからそれを言われても困ります。


「蓮田さん、衣装を変えましょう!」


 私の着付けを手伝ってくれたスタッフさんが何か思い付いたようで、蓮田さんを連れて行きました。待つこと数分、蓮田さんはウサミミ忍者からウサミミメイドにジョブチェンジを果たしていました。


「何でメイド服なんてあるのよ」


 普通の撮影スタジオにコスプレ衣装なんて置いていない筈です。備品担当者の趣味でしょうか。


「クライアントからどんな無茶を言われるか分かりませんからね。大概の事には対応出来るようにしないと、生き残れないのですよ。こんな事もあろうかと、と言う奴です」


 携帯電話にカメラ機能や動画機能が付いた事により、誰でも手軽に写真や動画を撮る事が出来るようになりました。

 そのため、写真スタジオで写真を撮るというお客さんは年々減少しているそうです。

 そのため、企業の宣伝や雑誌の撮影でスタジオを利用する客は買い手市場となり、我が儘を言う者も増えたとのこと。


「だからこういうスタッフも楽しめる仕事は貴重なのです。蓮田さん、もう少しくっついて」


「そういう指示なら喜んで!」


 古式ゆかしい、露出の少ないメイド服を着た蓮田さんが体を寄せてきます。

 そこの羨ましいと呟いたスタッフさん、羨ましいのは私にくっついた蓮田さんですか?それとも、蓮田さんにくっつかれた私ですか?


「付いてきて正解だったわ。雑誌、発売されたら絶対に買うわ」


 撮影終了後、満足げな蓮田さんに対して、憔悴した私。蓮田さんの密着は少し慣れましたが、それを撮影されて全国に出回ると思うと精神的なダメージを受けます。


 別れ際、蓮田さんが何やら桶川さんと話していたようですが、スケジュールを合わせてるなんて事はないと思いたいです。


「ただいま」


「遊、お帰り。ちょっと手伝ってくれないか?」


 リビングからお父さんの声がします。少々くぐもって聞こえたのですが、具合でも悪いのでしょうか。


 リビングに入った私は、荷物を床に落とすと足を肩幅に開き腰を落とします。顔は正面に向けて右腕を引き、臨戦態勢に入りました。


「ちょっ、遊、何で戦闘準備してるんだ!鎧徹しなんて使われたら、お父さん身も心も大ダメージ受けるからね」


 リビングに立っていた正体不明の全身鎧から、お父さんの声がしました。しかし、中身がお父さんだと確認した訳ではありません。構えを解きつつも、警戒だけはしておきます。


「お父さんなの?いきなり鎧の騎士がいたからビックリしたわ」


「これ、自分では脱げないのだよ。とりあえず兜を外してくれないか」


 菱形の兜を取れば、中からお父さんの顔が出てきました。腕や足も固定用のベルトを外し、パーツ毎に外していきます。


「こんな鎧あったのね。初めて見たわ」


「普段はしまっているからね。今日は手入れをしたのだけど、久し振りに着けて欲しいとお母さんに言われてな。インスピレーションを刺激したのか、お母さんは仕事場に籠ってしまったんだよ。それで脱げなくなって困っていたんだ」


 どこか中空を見ながら説明してくれるお父さん。一体、何時から脱げずに居たのでしょう。

 仕事に集中したお母さんには何を言っても聞こえず、一人で脱ぐことは出来ません。

 他の誰かに手を借りようにも、この格好で外に出れば間違いなくお巡りさんを呼ばれて包囲されるでしょう。


「ありがとうな、助かったよ。お父さん、これをしまってくるから」


 円形の緩いドーム型をした盾を持って書斎に向かうお父さん。私も荷物を持って部屋に上がります。


 外出着を脱いで、部屋着に着替えます。ベッドに座り、ふと思いました。

 私がコスプレさせられるのは、お父さんから何らかの遺伝を受けたからではないでしょうかと。


 これについては、一度じっくりとお父さんと話し合う必要があるかもしれません。


 




サブタイに悩み、投稿が遅れました

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