第六十三話 クリスタニア放送局
それから数日、校長先生や教頭先生の乱入以外は平穏な学校生活を送っています。
それにより注目されてしまっていますが教頭先生や校長先生の被害者という立ち位置で認識され、クラスメートや先生方からは同情タップリの生暖かい目で見守られています。
そんな数日を過ごし、今日はラジオ収録のため学校を休みました。
スタジオ入りして早々挨拶もしないうちに視界は黒く染まり、体を強い力で拘束されました。
「ユウリちゃんおはよう。暫く会えなかったから、禁断症状が酷かったのよ」
「おはようございます、蓮田さん。離れませんか?」
私は中毒性のある薬物ではありません。禁断症状など出る筈がないのです。
何が楽しいのか、アニメやラジオの収録の度にくっついてくる蓮田さん。しかも、その度に度合いが深くなっていくような気がします。
「収録始めます」
「この状態無視して、あっさり始めます?誰か蓮田さんを引き剥がしてくれてもバチは当たらないと思いますよ?」
現役女子高生に二十代後半の女性が抱きついて離れないという異常事態にも関わらず、スタッフさん達は冷静過ぎます。
「アニメのアフレコでもそうだって聞いてますよ。もう今更ではないですか。蓮田さん、そろそろ始めましょう」
「仕方ないわね。続きは収録終わったらにしましょう」
渋々離れた蓮田さんと共にブースに入ります。向かい合わせに座り、ヘッドセットを着けてマイクの位置を調整すれば準備完了です。
「ロザリンドと・・・」
「ラビーシャの・・・」
「「クリスタニア放送局~!」」
何度か収録し、このタイトルコールもすっかり慣れました。リスナーさんからの手紙やFAXも定着し、今のところ順調です。
「とうとう始まりましたね、蓮田さん」
「ええ、始まりました入学シーズン。ユウリちゃん、高校入学おめでとう!」
「あ、ありがとうございます」
反射的にお礼を言ってしまいましたが、私が言いたいのはそれではありません。
「・・・ではなくて!」
「あ、花粉のシーズン?ユウリちゃんは大丈夫?」
「私は大丈夫です。花粉症の人は大変ですね。・・・って、それも違います!」
スタッフさんがクスクスと笑っています。この掛け合い漫才にも、かなり慣れました。と言うよりも慣らされました。
「はいはい、アニメよね。ユウリちゃんが可愛いから、ついやっちゃうのよ」
「それは置いておいて、皆は放送されたアニメ見てくれましたか?」
応じるとまた泥沼のボケ攻撃が始まるので、スルーして話を進めます。日曜日の朝9時から30分間の放送のアニメを宣伝しないといけません。
もっとも、今日はまだ放送されていなくて明日の朝第一回が放送されるのですが。
「ユウリちゃん、まだ放送してないんだから見てないわよ」
「蓮田さん、このラジオの更新の時にはやってるのだし、台本に書いてあるのですから言わないと」
「大丈夫。リスナーの皆は、『もう放送したからwww』って、草生やしてツッコミ入れてくれてるから」
このラジオを聞いてくれている人達は、恐らく程度の差はあれど由紀や友子の同類です。なので蓮田さんの言う通りなのでしょうけど、それはそれでこれはこれと言う奴です。
「それ、わからない人には何が何やら分からないですね」
「大丈夫。これが分からないような人はこれ聞いてないから」
それもその通りだとは思いますが、突っ込んで歯止めを効かさないと延々と暴走しそうで怖いのです。
「もう、そんなこと言ってる間にCMの時間になりますよ!」
「まだ続けたいのに・・・この『クリスタニア放送局』は、何時でも何処でもロッザリンドォォォ!でお馴染みの、ロザリンド教の提供でお送りします」
蓮田さんのセリフが終わると、CMが流れます。録音なので実際には時間を空ける必要はないのですが、私達の休憩とダメ出し等の打ち合わせの為に区切ります。
「面白かったよ。後半もこの調子で行こうね!」
今まで、ダメ出しが出たことは一度もありません。今日も問題なしということで、後半の収録に入ります。
「はい、後半は悪なりの裏話を暴露する『そうなんでっか?』のコーナーです」
グダグダな私達が言うのもなんですが、このネーミングはどうにかしてほしいと思います。
「蓮田さん、このネーミング、誰が決めてるんですか?もう少しどうにかなりませんかね?」
「コーナーの名前は、ロザリンド教代表取締役の方が決定してます。今日の暴露は、原作者さんのお話ですね。悪なりが書籍化した際、出版社との契約には原作者さんのお母さんが同行したそうです」
出版社との契約に、母親同伴ですか。私は出版業界の常識は知りませんが、それは当然の事なのでしょうか?
原作者の明。様には、許可を得て掲載しております。
それを打ち明けられた時、慰めの言葉に悩みました。




