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第六十二話 逃げるが勝ち

 なんてやりとりをしていると、昼休みの残り二十分を切ってしまいました。


「昼休みも残り少ないし、お弁当食べたら失礼しますね」


 自分が出ている番組を親友と教師と共に見るなんて、精神削られる行為したくはありません。

 しかし、校長先生は口元に小さなマイクのような物をあてると、胸元をいじりだしました。


「こちら校長。一年の岡部君と北本君にお話があるので、二人は授業出席扱いとします」


「こちら教務主任、報酬は等身大サボさん抱き枕でお願いします」


「こちら校長、了解した」


 通信を終えた校長先生は、悪びれる事なくビデオを再生させました。呆れている私をよそに、三人はテレビに集中しています。


 私に注意が向いていない今ならば、抜け出してもバレないでしょう。お弁当を持ち、そっと立ち上がります。


「遊、どこに行くの?」


 テレビを見ている友子が、私のスカートを掴みます。諦めた私は着席し、テレビを見ないようにしてお弁当を食べました。


「ユウリちゃんは今週も強いし可愛いですな、教頭!」


「毎週見たいですね、校長!」


 もう、このコンビにツッコム気力がありません。無視して食べ終わった弁当箱を片します。


「あら、5月からレギュラー入りしますよ」


 友子がさりげなく暴露しました。いくら相手が私の事を知っている二人だとしても、誉められた行為ではありません。

 元々それを友子が知っているのは私が言ったからですが、昔の偉い人は言いました。「心に棚を作れ」と。


「友子、ちょっと口が軽いようね。飛掛拳で飛び込んで、山突きから託槍掌に繋げるわよ。止めは腕ひしぎ逆十字で良いかしら?」


「腕ひしぎ・・・この手が遊の胸に挟まれるのね!」


 脅したつもりが、何故か自分の世界にトリップしだした友子。私の知る限り、M属性はなかった筈なのだけど。


「私的にはコブラツイストで密着を・・・」


「校長!それなら上四方固めの方が!」


 どの技が一番密着するかを議論する3人に、私はドン引きです。入学時に感じたのと別の意味で、この人達に高校の運営を任せてはいけないと危機感が走りました。


 もう一緒の部屋に居るのも嫌になった私は、空になった弁当の包みを持って廊下に出ました。

 友子は論議に夢中みたいで、追ってきません。念のため気配を殺しながら教室に帰りました。


 教室では授業が始まっていましたが、教務主任からの連絡がいっていたようで何も言われず席につきました。


 放課後、机に突っ伏していると、クラスの女子が数人話しかけてきました。


「北本さん、岡部さんと仲がいいの?」


「なんで校長室に呼ばれたの?」


「北本さんもユウリちゃんのファンよね?」


 バラバラに質問されても答えられません。聞き分けは出来ても、同時に答える事が・・・出来ますが相手が聞けるかが問題です。


「順番に答えるからちょっと待って。一度に質問しないでよ」


 極軽く威圧して言葉を封じた後、一度黙るように言いました。言葉に詰まるけど畏怖しない程度に加減した威圧は上手くいき、主導権を握る事が出来ました。


「友子とは幼馴染みなのよ。校長室に呼ばれたのは、友子と校長先生が同じ趣味を持ってるから」


「同じ趣味って・・・もしかして、オタク?」


 友子の自己紹介は、世界的に人気になったアニメの台詞から引用しています。有名なくだりのようなので、気付いた人もいたようです。


「ええ。でも、私はそんなに興味ないのよ。なのに巻き込まないで欲しいわ」


 無理なのでしょうけどね。仕事が仕事ですから。それでも、プライベートでは普通の女子高生として生活したいのです。


「意外ね。どっちかって言うと、北本さんの方がオタクのような印象を受けるけど」


 その意見に一斉に頷く女子達。偏見だと咎めはしません。分厚い眼鏡をかけた、化粧もしない女子高生。典型的な暗くて漫画やアニメ好きな女子像です。


「そうよね。でも、北本さんがまともなら、案外あいつもまともかもね」


 一人の女子が窓際の半ば辺りの席を指差します。そこには一人の男の子が座っていました。

 肩口までかかる髪、分厚い眼鏡、ボサボサの前髪。本人が聞いたら私が言うなと言いそうですが、まるで絵に書いたようなオタク像の男子です。


「あいつがまともって事は無いわよ」


「オタクのお手本って感じよね。北本さんはどう思う?」


 私に振られても困ります。肯定も否定もしたくないので、第三の選択肢の興味なしでいこうかと思います。


「彼がオタクでも違っても、私は別に興味ないから」


「北本さん、素っ気無いわね」


 呆れた様子の女子達。帰ろうと支度をしていると、そこに友子が帰ってきました。


「遊!何で先に帰っちゃうのよ!」


 凄い剣幕で詰め寄る友子。しかし、正義は我にあります。負ける気は全くしません。


「私なんてそっちのけだったのは誰かしら?いなくなっても気付かなかったのは誰でしたっけ?」


「あははは、何の事かしら?」


 頬をかきながら席に戻る友子。私が教室から出るべく歩き出すと、急いで荷物を鞄に放り込み追いかけて来ました。

 あんな適当な入れ方をしたら、鞄に入りきらない筈です。やはりあの鞄、中は四次元になっているとしか考えられません。


 私は普通の公爵令嬢・・・ではなく女子高生なので、知らなかった事にしましょう。

サボさんは、ユウリちゃんが声をあてる「悪役令嬢になんかなりません~私は普通の公爵令嬢です」のキャラクターです。


原作小説一巻の表紙にも出ています。

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