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第六話 声優「ユウリ」

「桶川さん・・・あなた、前世でカボチャを馬車にしませんでした?」


 突っ込みを期待したのに、何も返ってきません。硬直したままなので、軽く桶川さんの右手をつねります。


「痛っ!な、何?何があったの?」


「桶川さん、呼んでもトリップして帰って来ないから!」


「ごめんなさいね。しかし、とんでもない美人ね・・・見惚れちゃうわ」


 まあ、自分でも信じられないのだから無理ないかもしれません。化粧の威力って、凄いのね。


「これ、本当に私なんですか?桶川さん、ハリウッドで特殊メイクの勉強とかしてませんでした?」


「そんなの勉強したことないわよ。まぁ、嬉しい誤算だわ。極上のダイヤの原石だったわけね。あっ、少しでも原作読んでおいてね」


 そうでした。この後収録が控えているので、台本と違うとはいえ原作を読んでおいた方がいいに決まっています。

 私は手にしたラノベに目を通します。初めの方はデパートで読み聞かせたので、その続きから読んでいきました。


「読み終わりました」


「えっ、もう?いくらラノベでも速すぎるでしょ?」


「途中までデパートで読んでいましたし、速読術を使えばそんなに時間もかからずに読めますよ」


 速読術と記憶術は「何をやるにも役に立つから」と、小さい頃に覚えさせられました。色々な場面で役に立つので、両親には感謝しています。


「凄いわね。それなら台本も早く読めるわ。絶対に声優が天職ね」


「誉めてもらえるのは嬉しいですが、とりあえずやるのはこの一回だけですよ?」


 釘を打っておかないと、まずい気がします。いくら誉められても、ずっと声優をやるつもりはありません。


「あ!そろそろ行かなくちゃ!さ、行くわよ!」


 私の腕をとり走り出す桶川さん。・・・誤魔化したわね。

 地下駐車場から車に乗り、録音するというスタジオに移動します。結構スピードを出しているので緊張してしまいます。


「そう言えば、名前を聞いてなかったわね」


 あ、まだ名乗っていませんでした。これだけ一緒にいて、今さら自己紹介ってのも間抜けです。


「私は北本 遊といいます。父は小説家、母はイラストレーターです」


「えっ!あの北本さんの娘さん?」


 桶川さんは、こちらを見て呆然としています。気持ちは分からなくはないけれども、貴方は今車を運転している最中ですよっ!


「わぁーっ!桶川さん、前見て前!」


「ご、御免ね。ビックリしちゃって」


「私まで道連れにしないで下さいね?」


 洒落になりません。拉致された挙げ句によそ見運転で事故死とか冗談じゃないです。


「あはは、気を付けるわ。しかし、驚きの連続ね。確か妹さんもテニスで有名よね?」


「はい。私だけ取り柄が無くて、肩身が狭いんですよ」


「なら、声優になれば良いのよ。それで解決ね!」


 桶川さん、どうあっても私を声優にしたいみたいです。そんな事になったら、アニメ好きな妹や親友がどうなることやら。考えたくもないですね。


 そうこうしている内に、車はスタジオ最寄りの駐車場に到着しました。雑居ビルの中なので専用の駐車場がなく、コインパーキングに停めるそうです。


「さて、行くわよ!」


「私の名前は伏せてもらえますか?」


「何故?北本さんの名前は武器になるわよ?」


 ピンチヒッターの今回はやりますが、その後やるつもりはありません。でも、両親の名前を出してしまうとそうはいかなくなる可能性が高いのです。


「上手くやれるか分からないのに、両親の名前を出したくありません。なので、本名はちょっと・・・」


「分かったわ。じゃあ、芸名はユウリでどう?」


 こうして、この時私は「声優 ユウリ」となりました。

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