表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/444

第五十七話 不安的中

「ユウリさん、司会をお願いしますね。あとサインも」


 いつの間にか入ってきた教頭先生。不測の事態に備えてここに詰めていてくれるそうです。この仕事を依頼した事には少し文句を言いたいところですが、この気遣いには純粋に感謝です。


「司会の件は了解です。でも、サインはお断りします」


 この世の終わりが来たかのような教頭先生を無視して、マイクのスイッチを入れます。一瞬流れたノイズ音に、ざわついていた生徒たちが静かになりました。


「それでは、入学式を始めます」


 式の開始を告げられ、ほぼ全ての生徒が壇上を見る中、一人の女子はキョロキョロと左右を見渡していて凄く目立ちます。

 一言で私の声だと気付いたのは流石親友と称賛しますが、先生に睨まれていますよ。


「校長先生の挨拶」


「皆さん、入学おめでとうございます。私が校長の神保原です。私は世界で一つしか無いものを・・・これは姉妹校でやったネタですね」


 ネタを挟みつつも、校長先生の挨拶は適度な長さで終わりました。あちこちで忍び笑いをしている生徒がいるので、評判は良いでしょう。


 そして式は進み、問題なくプログラムは進んでいきます。そんな中、生徒の中には私と気付きざわつく者もいました。


 大まかには問題なくプログラムは終了しました。友子は式の間ずっと下を向いていましたが、あれは爆笑するのを堪えていたに違いありません。


「これで入学式を終了します。新入生の皆さんは、教室に移動してください」


 退場を促すアナウンスで私の仕事は終了です。マイクのスイッチを切って、新入生に紛れ込むために立ち上がりました。

 すると、横から教頭先生が手を伸ばし再びマイクのスイッチを入れます。


「なお、本日の司会は声優のユウリさんでした。皆さん、拍手をお願いします」


 一瞬の静寂の後、割れんばかりの拍手が体育館を満たしました。教頭先生、何故に態態と名前を出したのでしょうか。まあ、言わなくても結構気付いてたようですけど。


 裏口から出た私は、生徒の列に紛れ込む為に様子を伺っていました。体育館から出ていく生徒達は、司会者の話で盛り上がっていました。


「やっぱりユウリちゃんだった!」


「聞き覚えある声だと思ったのよ!」


「会えないかなぁ~」


「可愛いよな、ユウリちゃん!」


 そんな声を聞きながら、笑いを押し殺している少女が一人。気配を消した私は、その少女の背後に回り込み首に両手を添えました。


「折角の入学式、ずっと下を向いているのはいただけないわね」


「遊、そこは髪の手入れをしているか聞かないと。やり直しを要求するわ!」


 そこで何故に髪の話題になるのかわかりませんが、友子の事ですから漫画かアニメのネタに決まっています。こういうのは無視するに限るのです。


「よくわかったわ。今後試験対策も夏休みの宿題も、全て一人でやるという決意表明ね。叔父さんと叔母さんに伝えておくわ」


「それだけは、それだけはご勘弁をっ!」


 先の中納言に印籠を見せつけられた悪代官のように平伏する友子。悪目立ちしていますが、聞こえる声が「あれは仕方ない」とか、「宿題を人質にとるとは卑劣な」など友子に同情的なものばかりなのは解せません。


 そのままには出来ないので、宥め透かして立たせると教室に向かいます。友子とも同じクラスなので、同じ教室に入りました。黒板に座る席が書いてあります。


 私は窓際の一番後ろという特等席で、友子は真ん中辺りと離れました。先程の騒ぎで目立っていたからか、友子の周囲には人垣が出来ています。

 話題が漫画やアニメ関連のようなので、近寄りたくもありません。この席順にしてくれた先生に感謝を捧げたくなりました。


「HRを始めます。着席して下さい」


 黒板側のドアが開き、見知った男性が入ってきました。先生の入室で、友子の周囲にいた生徒たちが慌てて席に戻ります。


「今日は初日なので、自己紹介をやって終わります。教科書が届いていない人は申請して下さい」


 この学校では、合格した生徒には宅配便で教科書を配布していました。入学前に予習出来るようにと、生徒が持ち帰る手間を省くためだそうです。


 教卓に立ち、出席簿を開く校長先生。まさか、校長先生が担任なのでしょうか。

 通常校長先生がクラス担任になることは無いと思うのですが、この校長先生は入学式に新人とはいえ声優を派遣させる人です。常識を期待する方が間違えています。


「では窓際から自己紹介を・・・」


 校長先生が自己紹介を促した、その時でした。再び黒板側の扉が開くと、一人の男性が飛び込んできました。


「校長先生、教師から出席簿を強奪するとは何を考えているんですか!」


 怒鳴りながら校長先生に詰め寄る、体格の良い男性。どうやら、この男性が本当の担任のようです。

 担任の先生(仮)の叫びにより校長先生の所業を知ったクラスの全員は、唖然呆然として教師二人のやり取りを眺めています。


「いいじゃん、一日くらい。何ならずっとやろうか?」


 全く悪びれた所が無い校長先生。泰然としているので常習犯のように思えますが、その割には担任(仮)の対応が不馴れなように感じます。


「あなたは校長らしく、校長室で同人誌でも書いていて下さい!」


 ・・・それは校長らしいの?仕事は?そう叫ぶのを咄嗟に止めた自分を、誰か誉めて下さい。


姉妹校は、夏ではなく春です。


校歌では京王ビルからニー・ドロップかけたりサンシャインビルにオクトパスホールドかけたりします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ