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第五十六話 入学式に出席?

「ねえ、それってユウリちゃんの事よね?」


「勿論よ。新進気鋭の美少女声優と言えば、彼女の事に決まっているわ!」


 近くにいた女生徒が話しかけると、友子は嬉しそうに答えました。それに周囲の生徒が反応していきます。


「ユウリちゃん、美人だし頭いいし、機転利くし最高だよな!」


「おっ、お前とは美味い酒が飲めそうだ」


「俺もだ。早くとも四年後だがな」


 あっという間に友子を中心として人の輪が生まれました。話題が声優ユウリについてなので、私は入る事が出来ません。


 所在なさげにそれを見ていると、携帯が震えました。画面を見ると、桶川さんからの着信です。今日は入学式だと桶川さんも知っているので、緊急時以外は電話しないと言っていたのですが。

 友子達から離れ、人のいない場所で電話に出ました。


「どうしたんですか、桶川さん。今日は入学式だって言ったじゃないですか!」


「あはは、ゴメンなさいね。仕事が一件入ってるのよ」


 仕事の連絡ならば、昼過ぎにでも電話するかメールで伝えてくれれば済む話です。今電話してくる必要はない筈です。


「別に今それを言わなくても・・・詳細はメールしてください。これから入学式なんです」


「仕事は今からなのよ。だから、後回しにはできないわ」


 今からとは、どういう事でしょう。入学式に出席出来るように調整してくれると桶川さん自身が言っていたのですが。


「今からって、私に入学式をサボれと言うことですか?それに、今から準備して行ったら、完全に遅刻じゃないですか!」


 どこでやる仕事か知りませんが、一旦家に帰るか事務所に行ってユウリになる必要があります。それを考えると、現場には遅刻して入る事になるでしょう。


「大丈夫よ。行事の司会だけだから、声だけで姿は晒さないから。声だけユウリちゃんになってくれれば問題ないわ」


 そうだとしても、移動の時間もいるし、この姿でユウリを名乗る訳にもいきません。


「とりあえず夏風高校近くのコンビニにいるから来て」


 指定されてコンビニに行くと、黒いワンボックスの脇に桶川さんが立っていました。


「後ろに乗って。余り時間がないわよ。これが仕事の内容よ。入学式のアナウンスで、放送ブースからの放送だから姿は見られないわ」


「入学式に声優呼ぶ学校があるのですか。どこの大学ですか?」


 大学は生徒を集めにくくなっているとニュースで聞きました。なので、新人でも声優に司会をやらせて話題を作ろうとしていると予想しました。


「大学ではなく高校よ。これ、目を通してね」


「高校ですか。では、始まるまで時間がないのでは?急がないと遅れますよ」


 返答しつつ渡された紙に目を落とします。内容は入学式の司会。先程聞いた通りです。肝心な依頼者は・・・


「桶川さん、依頼した高校の名称が夏風高校と読めるのですけど、私目が悪くなりましたか?」


「これなら入学式に参加できるし、仕事もこなせるでしょ?」


 大爆笑する桶川さん。確かにこれならば仕事をこなしつつ入学式にも参加できます。しかし、どこの世界に入学式に司会進行という主催サイドで参加する新入生がいるというのでしょう。


「校長先生、面白いわね。依頼を聞いたとき、目が点になったわよ!」


「とりあえずお仕事してきます。どこに向かえばよいですか?」


 痛くなる頭を抑えながら指示を仰ぎます。ああ、友子の爆笑する様子が目に浮かぶようです。絶対にネタにされてからかわれます。


「体育館の裏口から入って、舞台裏で校長先生が待機してるらしいわ。時間がないから急いでね!」


「もっと早くに言ってくれれば良かったと思うのは私だけ?」


「それじゃ面白くないわ。それを伝えなくても現場に来ることは分かっていたのだから支障はないわよね。私も見てるから頑張ってね!」


 こんな仕事を依頼する校長先生も大概ですが、それを受ける桶川さんも桶川さんです。双方共に自重してほしいと思うのは、私の我儘でしょうか。


 体育館の裏口から入ると、舞台袖に校長先生が待っていました。満面の笑みを浮かべていますが、私はその笑顔にアイアンクローをお見舞いしたくてたまりません。


「ユウリさん、待ってましたよ。お願いしますね」


「よろしくお願いします。しかし、とんでもない事を考えますね。毎年恒例ではないですよね?」


 もしも恒例ならば、由紀や友子が知らない訳がありません。友子も由紀もそんな事は一言も言っていませんでしたし、由紀が知っていれば万難を排して入学式に来ていたでしょう。


「名案でしょう?現役の声優さんに司会してもらうなんて、滅多にないことですよ!」


 新入生の声優に司会させるなんて、滅多にどころか普通は考えもしないわよ!そう叫びたい所ですが、内心を隠して仕事に入ります。


「とりあえず、仕事に入ります。台本を頂けますか」


 式の次第とセリフを書いた紙を受け取りました。ざっと目を通しましたが、私が司会をする事以外はありふれた入学式です。


 校長先生に放送ブースに案内されました。体育館内を見渡せる高い位置にあるので生徒からは私を見る事は出来ないでしょう。これならば放送しているユウリが遊だとはわからない筈です。


 さあ、新人声優の新入生が司会を行う、前代未聞の入学式が始まります。



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