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第五十三話 深谷さんのプレゼント

「ユウリちゃん!お久しぶり!」


 外堀を埋められ、車で連行された私は店に入ると同時に抱きしめられました。またもや顔が胸部装甲に埋まって息が出来ません。


「町子、ユウリちゃんが窒息するわよ」


「あ、ゴメンね。抱き心地良いからつい」


 桶川さんが力尽くで引き剥がし、やっと解放されました。水泳をかじった時に肺活量アップの訓練を受けて良かったと、染々思います。


「ふう・・・お久しぶりです。その節は沢山の服をありがとうございました」


「いいのよ。この店は道楽だし」


「町子はね、かなりの金持ちなの。この店は趣味でやってるだけなのよ」


 にこにこと微笑みながらメジャーを取り出す深谷さん。危機察知のスキルが、危険だと警鐘を鳴らしています。


「一番の楽しみは、可愛い子に相応しい衣装を作って着て貰う事ね。ユウリちゃん、テレビ見てるわよ」


「あ、ありがとうございます」


 会話しながらも間合いを詰める深谷さんに対し、静かに間合いを開けようとする私。


「毎週テレビに出るのなら、衣装を沢山用意しないとね」


 深谷さんが言っている事は正論です。脳力試験のレギュラーになった以上、ユウリ用の衣装は大量に用意する必要があります。テレビに出て姿が残るのですから、同じ服装で出よう物ならばすぐにバレるでしょう。


「試着、しましょうね」


 桶川さんが背後をとり、私の肩を掴みました。捕らえられた私は、為す術もなく二人の着せ替え人形となったのです。一体何十着の服を着せられたのか、記憶が飛んでいます。


 椅子に座り、試合後のボクサーのように真っ白になった私。精魂尽き果てるとは、正にこの状態の事を言うのでしょう。


「やっぱり、可愛い娘はいいわ。京子、本当にいい子を見つけたわね!」


「フフフ、100年に一人の逸材よ。これからが楽しみだわ~!」


 その後も二人はなにやら話していましたが、解放されて半ば放心している私には聞く余裕はありませんでした。


 そして帰りの車の中。後部座席には、先程試着した服が山のように積んであります。


「こんなに沢山いただいて、良かったのかしら」


「いいのよ。ユウリちゃんに作った服なんだから、他に着る人はいないわ」


 私の呟きに答える桶川さん。桶川さんにとっては親友なのでしょうけど、私にとってはまだ数回しか会っていない人なのです。


「でも、タダっていうのは・・・」


「なら、ちょくちょく顔を出してあげて。町子はそれが一番喜ぶわ」


 深谷さんは子供はおろか親族すら居ないそうです。なので、財産を残しても仕方ないので気に入った娘に服を作って贈る事にしているそうです。


 家が近くなってきたので、お母さんの携帯に電話します。こんな大量の服を由紀に見られたら、盛大に疑われてしまうでしょう。


「お母さん、もうすぐ家につくんだけど、由紀はいる?」


「まだ帰っていないわよ」


 不在ならば見られる心配はありません。素早く運び込んで、何処かに隠してしまいましょう。


「今日は荷物があるから、助かったわ」


「じゃあ、お父さんに待っていてもらうわ」


 玄関に着くと、お父さんとお母さんが待っていました。助手席のドアを開けて降りると、桶川さんも降りてきました。


「お帰り、遊」


「ただいま。今日は服を沢山いただいたのよ」


 後部座席のドアを開けて服が入った大量の服を指します。電話で伝えてはありましたが、予想よりも量が多かったのでしょう。お父さんもお母さんも驚きを露にしていました。


「桶川社長、ありがとうございます」


「あ、私じゃないんです。私の知り合いが遊ちゃんを気に入りまして。遊ちゃんに色々な服を着てもらうのは楽しいですから」


 服を貰えたのは有難いのですが、私はまた二人の着せ替え人形となるのでしょうか。


「そうなのですか。では、いずれその方にもお礼を言わせてください」


 お父さんは箱を受け取り、家に運びます。しかし半分は車に積んだままにしました。事務所でユウリになる時のために、事務所に置くようです。


「では、今日はこれで。お休みなさい」


 桶川さんは帰って行きました。それを見送った後、家に入ります。


 家に入ると、リビングでは、お母さんが大量の服に喜んでいました。先制して釘を刺しておきましょう。


「家では着ないわよ?」


「たまには良いじゃない、由紀が居ない時ならば」


 何としても私を着せ替え人形にしようとするお母さん。しかし、私も譲るつもりはこれっぽっちもありません。


「お母さんは時間を忘れるから駄目。どうしてもっていうなら、由紀に着せれば良いじゃない」


「とっくの昔にやり尽くしたわ」


 既に由紀は犠牲になった後でした。それでお父さんまでやらされてるのね。この間見た平安時代の衣装を思いだし、お父さんに同情しました。

 私や由紀は学校やテニス、声優業と逃げ場がありますが、お父さんは仕事でもお母さんと一緒だから逃れる術がありません。


「由紀が帰る前に、この服をしまわないと」


 お父さんに指摘され、我に返りました。これを由紀に見られたら大変です。お父さんは箱を抱え、書斎に運んでくれました。


「一旦書斎にしまっておく。そうすれば由紀には見られないからな。遊、今のうちに着替えてきなさい」


 いただいた服の方に気をとられ、私自身がまだユウリのままでした。今由紀が帰ってきたら、誤魔化す余地など何処にもありません。

 洗面所で化粧を落とし、自室に戻ります。服を部屋着に着替えて、髪を結った所で由紀が帰ってきました。


 今日はお父さんのファインプレーに助けられてばかりです。父の日のプレゼントは、少し豪華にしましょうか。

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