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第五十二話 選り好み

 夕方、桶川プロの社長室に行くと満面の笑みを浮かべた桶川さんに出迎えられました。


「急に呼び出してご免なさいね。大丈夫だった?」


「はい。丁度卒業式が終わった所でしたから」


 応接セットのソファーに座り答えると、桶川さんの表情がさらに明るくなりました。


「じゃあ、明日から春休みね。仕事入れ放題じゃない!」


「あの、お手柔らかにお願いします」


 何だか嫌な予感がします。仕事が入るのは悪い事ではありませんが、声優業とは直接関係のない仕事のような気がするのです。例えば取材とか取材とか。


「心配しなくても大丈夫よ、見境なく受けるつもりは無いから。実際、断った仕事もあるしね」


 受ける仕事は桶川さんに一任していますが、断った仕事があったとは初耳です。何故断ったのか、少し興味が湧きました。


「どんな仕事だったんですか?」


「18才未満お断りのゲームの仕事が数件来たのよ、未成年のユウリちゃんにはまだ早いわ。受けるとでも思っていたのかしら」


 内容を聞かされて納得しました。まぁ、女子高生がエロゲーの声優やるという漫画もあるようですが、現実でそんな事をすればスキャンダルとなり仕事が出来なくなるでしょう。


「確かにそれはちょっと・・・」


「そうよね。ちゃんと仕事は選りすぐってあるから、安心して仕事浸けになってね」


 笑顔でそう宣言する桶川さん。きちんと受ける仕事を厳選してくれているようです。流石は社長さんです。



「はい!それなら安心です。・・・って、春休みは仕事浸けになるんですか!」


 つい勢いで返事をしてしまいました。まあ、どうせ他に用事は無いし、やることも無いので構わないのですが。


「声優の仕事ですよね?」


「もちろん、声優としてインタビューも受けてね」


 宣伝にもなるのでインタビューも大事なお仕事だというのはわかります。でも、理性で納得していても感情が納得しないというのが正直な所です。


「インタビューは嫌いなんですけど・・・」


「好き嫌い言わないの、仕事があるのはありがたい事なのよ。ユウリちゃん、何でそこまでインタビューを嫌がるのよ」


「元々マスコミは余り好きではなかったんです。両親や妹が、傍若無人な取材攻勢かけられているのを見ていましたから。止めはとあるコメンテーターの発言ですね」


 それは、とある皇族がお亡くなりになった時の報道でした。

 故人の経歴を紹介した時に中学から喫煙していたというエピソードがあり、これに対するコメントが「○○様はチャレンジ精神に溢れたお方でした」というものでした。

 それを見た時、相手が皇族ならば違法行為も推奨されるのか。この番組は未成年の喫煙行為を推奨するのかと呆れました。


 それが決定打となって、私はマスコミが嫌いになったのです。それを言うと桶川さんも呆れ顔になり、その事に関して言わなくなりました。


「とりあえず、レギュラーの仕事は悪なりと脳力試験、ラジオの三本。他はその都度入れていくから、いつでも来れるようにしていてね」


「分かりました。出来るだけ早めに教えて下さいね」


 家からユウリで出るには、由紀が居ないことが条件になります。いきなり呼び出されても、ユウリのままで出られない時が多いと思うのです。


「そうするわ。さしあたって、明日と明後日は朝イチでここに来てね」


 既に仕事が入っていました。もし私の都合が悪かったらどうするつもりだったのでしょうか。


「了解です。今日はこれで終わりですか?」


「ダメ。お店に一緒に行って貰うわよ」


 お店の名前は言われませんでしたが、一度連れていかれたブティックが思い出されて体は無意識に逃げ出しました。しかし、回り込まれた桶川さんに襟首を捕まえられ、逃走は失敗に終わったのです。


「桶川さん、今日はもう遅いですし、帰りが遅くなると両親も心配しますから・・・」


「その点は抜かりないわ。もうご両親には遅くなると連絡済みよ。帰りも家の前まで送ると言って了承を貰ってるわ」


 事前の根回しと手続きを滞りなくこなしておく桶川さんの才覚が今は憎く思います。


 外堀を埋められた私に深谷さんのお店に行くことを回避する術はなく、車に乗せられてお出掛けとなりました。


 せめて早く終わって欲しいと願うばかりですが、それは叶わぬ夢というものでしょう。地味で目立たない中学生だった私が、どうしてこうなったのでしょうか?



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