第五十一話 祝いに継ぐ祝い
「遅れ馳せながら、遊ちゃん卒業と高校合格おめでとう。遊ちゃんはうちのと違って真面目で優秀だから羨ましい。友子にはヒヤヒヤさせられたよ」
「友子は漫画やアニメに夢中になって・・・遊ちゃんの爪の垢でも飲ませたいわ」
叔父さんと叔母さんはああ言っているけど、友子も勉強が出来ない訳ではないのです。私達が通う夏風高校は、一応県内ではトップクラスの進学校なのですから。
校長先生と教頭先生がアレなので不安要素が山盛りですが、それでも毎年有名大学に生徒を送り込んでいる名門である事は間違いないのです。
「あ!今や日本の漫画やアニメは世界一よ?経済効果もバカにならないんだから!」
「あんたみたいにのめり込みすぎるのは問題よ!」
友子の反論は、叔母さんにより即座に斬って落とされました。しかし、それでめげる友子ではありません。
「別にいいじゃない、勉強だってやってるし。今、期待の新人声優さんがいて面白いのよ」
風向きが妙な方向に流れてきました。ニヤニヤと笑いながら私を見る友子に、両親も笑いを堪えながら私を見ています。
「私は興味ないから。それより移動しましょう。予約時間が迫っているのでしょう?」
皆はレストランの事を忘れていたようで、私が指摘すると足早に歩き出しました。
「友子が言ってた新人って、クイズ番組に出てる子か?」
「そうよ。四月に始まるアニメがデビューになるの。絶対人気声優になるから、注目してるのよ」
歩きながらも話は止まりませんでした。話題は変わらず私の事で、友子はチラチラと私の方を見ています。
「ユウリちゃんだっけ?いつも上位争いしてるわよね。可愛いし私も好きだけど、あの子タレントじゃないの?」
叔母さんはユウリをタレントだと思っていたようです。声優と言っても声を宛てているのは一本だけで、まだ放送されていないので間違われても仕方ありません。
友子がユウリについて熱く語り、友子の両親がそれを聞き、私の両親がそれを生温い目で見守るという居心地の悪い空気に耐え、レストランまで歩きました。
予約していたのはちょっと高級なレストランで、個室を押さえてありました。コース料理オンリーのようで、各々メインを肉か魚かを選ぶと料理が運ばれてきました。
料理の話に話題が移り、居たたまれない空気から解放された私は気が抜けていました。なので、デザートを出してウェイトレスさんが退室した後でかかってきた電話に何気なく出てしまいました。
「おめでとう!『脳力試験』、5月からレギュラーよ!」
「脳力試験、レギュラーですか。ありがとうございます」
ディレクターさんからはレギュラーにならないかと言われていましたが、私はぽっと出の新人声優です。司会である朝霞さんと悪なりで一緒なのを考慮しての社交辞令だろうと思っていました。
「で、夕方に来れるかしら?これからのスケジュールも確認したいの」
「わかりました。夕方に伺います」
電話を切って、鞄にしまいます。脳力試験は好きな番組なので、レギュラーになれたのは素直に嬉しいです。
「遊、もしかして脳力試験レギュラー入りするの?」
漏れ聞こえた声で内容を察したのか、友子が席を立って詰め寄ってきました。
「脳力試験、5月からレギュラーだって」
ユウリの正体を知っている友子の問いに、ついそのまま答えてしまいました。
「いつも上位にいて盛り上げたものね。遊、おめでとう!」
「ありがとう、友子」
友子の祝福に素直に答えた私を、叔父さんと叔母さんが不思議そうに見ていました。この二人は私がユウリだと知りません。それを忘れて友子に答えていた私は、嬉しさで浮わついていたのでしょう。
「話の内容からすると、話に出ていた新人声優の子がレギュラー化するようだが。それで何故声優に興味がない遊ちゃんにおめでとうなんだ?」
「まだ言っていなかったわね。遊、髪をほどきなさい」
お母さんに促されて席を立ちました。三つ編みを解いて軽く解すと、眼鏡を外します。スカートを摘まんでカーテシーを披露しました。
「改めまして、新人声優のユウリです」
ユウリの声で挨拶しましたが、叔父さんと叔母さんは硬直して言葉を発しませんでした。
「実はスカウトされて、新人声優のユウリとして芸能活動やっています」
「だからユウリちゃんを応援するのは当然なのよ。と言うより、これは使命であり義務だわ!」
便乗してアニメ狂いを正当化しようとした友子の後頭部を叩くと、叔父さんと叔母さんはその音で正気に返りました。
「驚いた・・・」
「まさか遊ちゃんがねぇ・・・」
半分放心状態の二人。私がアニメに興味ないのは知っていたはずなので、驚きも大きいでしょう。その気持ちはよくわかります。何せ、私自身ですら声優になるとは夢にも思っていなかったのですから。
その後、衝撃から復帰した二人からもお祝いの言葉をいただきました。別れ際に、ユウリの正体に関してはくれぐれも内緒にとお願いしておきました。
ユウリとしての私は順風満帆ですが、遊としての私はどうなるのでしょうか。トップがアレな高校生活。何事も無ければよいのですが。




