第四十九話 この時代からの卒業
「私達卒業なのに、ピンボールのハイスコア競いあったり夜の校舎で窓ガラス壊して回ったりしなかったわね」
「友子、現実を見なさい。そんな歌の文句のような事する人なんていないわよ」
こんな会話をしているのは、卒業式のため体育館に移動しているからです。
あの後録音した二回目のラジオも好評で、何とかやっていけそうだという自信もつきました。蓮田さんの暴走を抑えるのは大変ですけどね。
「そうでもないわよ。男の娘がタレントやってる小説書いてる人の地元では、中学生が修学旅行で新幹線の非常停止ボタン押して停めたらしいわよ」
「それこそ嘘でしょう。高校で、生徒が手作りの爆発物を学校で爆発させたのは本当らしいけど」
爆発物の話も眉唾物だけど、新幹線を止めるよりは信憑性があると思います。
そんな話をしているうちに体育館に到着しました。在校生の拍手に包まれて着席。ありがちな内容を何事もなくこなし、特筆することもなく卒業式は終わりました。
校庭では、あちこちで卒業生が家族や友達と写真を撮っています。私は友子以外に親しい友達はいないので、すぐに帰ろうと思います。
因みに、両親が来るのは私が拒否し、由紀は別の中学なのでここにはいません。
両親は来たがったのですが、中学生、高校生といえばライトノベルにのめり込むお年頃。両親にとっては絶好のお客様です。
そんな年頃の男女が集団でいる学校に、売れっ子ラノベ作家と専属イラストレーターが姿を現したらどうなるでしょう。
ファンという名の猛獣に囲まれ、身動きが取れなくなるだろうと容易に想像がつきます。
「遊、一緒に帰りましょう」
帰ろうと校門に向かい歩き出すと、友子が一人で追いかけてきました。両親は一緒ではないようです。
「親はいないわよ。仕事の都合で卒業式か入学式のどちらかしか来ないと言うから、入学式に来てもらう事にしたの」
私の疑問を察したのか、問う前にその答を答えてくれました。
「もうすぐ電車で通学するのね。ラッシュってどんなんだろ?」
中学では徒歩で通学ですが、高校は電車通学になります。数駅で時間は短いとはいえ、私達には未知の体験となります。
「何も変わらないんじゃない?面倒なだけで」
「分からないわよ?『通学○車』みたいな展開も・・・」
私は呆れてため息をつきました。現実では、小説のような波瀾万丈な出来事などそうそう起こらないものです。
「そんな都合いい話がゴロゴロあるわけ無いでしょ?現実は小説じゃないんだから」
「あら、『事実は小説よりも奇なり』というわ。現に『お前の人生は小説よりも面白い』って言われた人もいるし」
確かに波乱万丈な人生送ってる人もいますが、それは本当に極僅かです。九割以上の人達は、刺激がないと言いつつ平穏な人生を送るものです。
「確かにそういう人もいるけど、私達には関係ないわよ」
「遊、面白い冗談ね。眼鏡取って髪ほぐしてあげましょうか?」
目の据わった友子が、手をワキワキさせながら近付きます。異様な雰囲気を感じた私は、思わず数歩後退りました。
「友子、一体何を?」
「声優デビューして、ヒロイン役貰って、クイズ番組に出てラジオやって・・・」
低い声で呻くように語る友子。どこぞのホラー映画の登場人物だと言われても即座に納得出来る程の迫力を醸し出しています。
「親は売れっ子小説家とイラストレーター、妹は将来を期待されたテニス選手!それのどこが平凡なの?」
「友子、わかったから落ち着こ?私が悪かったから!」
改めてそう言われると、反論のしようがありません。それを考えると、普通ではないのに普通と言い張るロザリンドちゃんは私と似てる?
「三つ編み解して眼鏡を取って、駅前に放り出してあげましょうか?」
「それだけは勘弁してくだせえ、お代官様!」
中学の制服を着たままでユウリになんて、その後が怖すぎます。中学は卒業したとはいえ、通っていた中学がバレればその学区内に住んでいると特定されてしまいます。
そうなれば、身元を特定される危険性が飛躍的に高くなってしまうでしょう。それはどんなことをしても避けなくてはなりません。
「面白いのになぁ」
未練たらたらの友子。打ち明けたの、早まったかもしれません。まぁ、冗談で言っているだけで本当に実行はしないと思いますが。
実行、しないわよね。
「じゃあ、私はこっちだから」
「うん、次は入学式で」
家に向かい歩きながら、中学の三年間を振り返る。デパートから拉致されたり、声優やる事になったり、いきなり主役をやらされたり。
おまけにクイズ番組に出演するわ、雑誌に写真付きで載るわ、ラジオのパーソナリティーをやるわ。
普通の中学生だったはずなのに、一体何故にこうなったのでしょうか。
高校は、目立たず平穏に暮らしていたいものです。
新幹線も爆発物も、実話だったりします。
授業中、いきなり爆発音が響いたのには驚きました。
会社の先輩に小説よりも面白いと言われても、否定出来ませんでしたねぇ。




