第四十八話 ありきたり?な一日
無事?に収録を終えた翌日、学校で果てていると友子が心配そうにやって来ました。
「遊、風邪ひいたって?大丈夫?」
昨日休む理由を、お母さんは風邪と学校に伝えたようです。友子はそれを真に受けて、心配してくれたのでした。
「大丈夫、一日休んだから大分良くなったわ」
と言いつつ、手元の携帯に文字を打ち込みます。本当の理由を教室で言うわけにはいきません。これならば他の人には知られないでしょう。
昨日は朝から取材が入って、1日仕事してたのよ
「それなら良かったわ。あまり無理はしないでね」
「ありがとう」
表向き私を気遣っていますが、その目は詳しく話を聞かせなさいと語っています。
「昨日、例のラジオがかなり話題になってたわよ。みんな面白かったって言ってたわ」
「教えてくれてありがとう。安心したわ」
「今後が楽しみね」
楽しみにしてくれるのは嬉しいのですが、そうプレッシャーをかけられると胃が痛くなってきます。
「友子、プレッシャーかけるような事を言わないでくれる?」
「その位でプレッシャー感じてどうするのよ。もっと沢山の人の期待を背負ってるのよ?」
それはそうなのですが、面と向かって言われるとまたプレッシャーのかかり具合が違います。
「ねえねえ、何の話?」
少し離れていた所で談笑していた女子が話しかけてきました。友子は誰とでも打ち解けるので、私だけだと話しかけてこない子も友子が一緒だと話しかけてきたりします。
「一昨日のラジオの話よ。遊は昨日休んでたから」
「あ、やっぱり!ラジオって聞こえたからそうかと思った。北本さんも聞いたの?」
この話題は避けたいのですが、そうもいかないようです。無難な話で終わるように努力しましょう。
「一応聞いたんだけど、調子悪かったからあまり覚えてないのよ。少し熱があったから」
「そっか。北本さん、風邪ひいてたんだもんね。もう一回聞く事をお勧めするわ。すごい面白かったから!」
友子はニヤニヤと笑いながら私を見ています。事情を知っているのですから、少しは助けてくれてもバチは当たらないと思います。
「そうね。帰ったら聞いてみるわ」
友子は堪えきれず吹き出しました。今度、四十八の殺人技の練習台になって貰いましょう。
「友子、どうしたの?」
「何でもないわ。遊も病み上がりだし、あまり話さない方が良いわね」
私の殺気を感知したのか、話を切り上げるように言って自分の席に戻って行きました。
「そうね。北本さん、お大事に」
話しかけてきた女子も席に戻り、授業が始まりました。この頃になると殆どの人の進路は決まっているので、教える教師も教わる生徒もだらけぎみです。
「人工で合成出来る燃料でありますが、触媒による腐蝕が激しいことと過酸化水素の爆発性が高い事からワルター機関は廃れていくのです」
この授業、ジャンルで言えば化学なのでしょうけど、ワルター機関のあれこれを覚えて社会で役にたつのでしょうか。
それを言ったら、化学や歴史、高等数学なんて役に立たないと反論されそうですけど。
授業が終わり、友子を探します。是非ともこの本に載っている技の練習台になってもらいたい。帰る準備を終えた友子は、友人と談笑していました。
「友子、ちょっとお願いがあるのだけど」
「遊がお願いって珍しいわね。私で出来るなら力になるわよ」
言質をいただいたので、教本を取り出します。それを見た友子は慌てて逃げ出しました。
「北本さん、それって?」
「妹が貸してくれたハウトゥー本よ。これの技を今練習中なのよ」
聞かれた問に正直に答えると、何とも言えない変な顔をされました。
「修得出来る物なの?」
「ハウトゥー本の中身を修得出来なかったら、本の存在意義がないと思うけど」
そう答えると、友子の友人はブツブツと何かを呟きながら去っていきました。この本、そんなに変な本なのでしょうか。
スグルという格闘家の方が書いた本で「君にも出来る四十八の必殺技~これで君も超人だっ!」という本なのですが。出版元は、民明○房というあまり聞いたことのない出版社です。
友子に逃げられたので、真っ直ぐに家に帰ります。リビングを覗くと、由紀がビデオを見ていました。
「お姉ちゃん、お帰りなさい!」
「ただいま。由紀、今日は早いのね」
「これを一緒に見ようと思って」
由紀とアニメを見るのは少々ストレスが溜まりますが、心配をかけてしまったしあのラジオを聞くよりは遥かにましです。
その日は両親が書斎から出てくるまで由紀の解説付きでアニメ鑑賞となったのでした。
毎回最後に流れるコンサートのシーンがよく出来ていて、その声優さんがリアルでコンサートを開いているそうです。
それを見ながら由紀が「そのうちユウリさんも・・・」とか恐ろしい事を言っていましたが。それはない、ですよね?




