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第四十七話 移動と取材

 桶川さんと連れ立って駅へと歩くと、通りにいる人がチラチラとこちらを見ていました。


「サングラスと帽子くらいじゃダメかな?ユウリちゃんの綺麗な髪は目立つから」


 確かに、腰まである長い髪は目立ちます。かと言って、三つ編みにして誤魔化すとユウリが遊とバレる可能性が高くなるのでそれも出来ません。

 すぐに出来る対処も無いので、視線に晒されながら歩きます。駅につき、改札機に渡されたカードを投入しました。


「裏面に乗車駅と初乗り運賃が印字されるんですね」


「降りる時には降車駅と残額が出るわよ。一々切符を買わなくてもいいから便利だわ」


 イヨカードについて話していると電車が来たので、二人並んで戸袋に立ちます。すると、近くに乗っていた女子高生が話しかけてきました。



「あの、ユウリさんですか?」


 桶川さんをチラッと見ましたが、何も言いません。バレておるようですし、肯定しても構わないという事でしょう。


「はい、ユウリです」


「キャー、やっぱり!」


「ラジオ聞きました!握手してください!」


 営業スマイルを浮かべて答えると、大声で騒ぎながら手を出して来ました。声に気付いた他の乗客が、何事かとこちらに注目しています。


 握手に応じると、遠慮が無くなったのか矢継ぎ早に質問してきました。


「これから仕事ですか?」


「髪はいつ頃から伸ばしてるんですか?」


「高校は何処に行くんですか?」


 矢継ぎ早に質問され、答える隙がありません。おまけに答えられない質問まで混ざっています。質問が途切れるのを待っていると、タイミング良く降りる駅へ到着しました。


「ごめんなさいね。私達はここで降りるから」


 桶川さんが私の手を引っ張って降ります。女子高生は追いかけて来ようとしましたが、閉まった扉に阻まれて残念そうな顔をしていました。


「あれじゃ答える暇がないわ」


「まるで芸能記者ね」


 これから本職の芸能記者を相手にしなければならないのに、その前哨戦みたいな真似をやりたくなかったです。


「大丈夫だとは思うけど、プライベートに関わることは言わないようにね」


「はい、日常がああなる事は避けたいですから」


 応援してくれるのは嬉しいけど、いつもああじゃ身が保たない。常に誰かに見られていて、言動に気を使わなくてはならないなんて真っ平御免です。

 両親は引き込もって仕事をすれば回避出来ますが、小説家と違って声優では引き込もりにはなれません。


「ユウリちゃんは丁度進学だから、高校の話は必ず出るわ。気を付けてね」


「勿論です。平穏な暮らしは守ってみせます」


 取材を受ける雑誌社に到着し、取材を受けました。内容は前回と同じような物に加えてラジオの収録について少し聞かれた程度でした。

 前回同様そつなく答え、その後何社かの取材を受けましたが中身は殆ど変わりません。無難にこなして2時過ぎにやっと昼食をとれました。


 お昼時を外しているので、レストランはかなり空いていました。奥まった席に座り、人心地つく余裕が生まれます。


「はぁ、疲れました」


「疲れたでしょうけど、あと2件よ。その後アフレコね」


 質問の中身は定番となった物が多いので、その答えも定番となっているので深く考えずに答えられます。しかし、それで気を抜いた所にプライベートを探る内容の質問が来るので油断出来ません。


「同じような事を何度も言うのって、疲れますね」


 どんなに疲れていても、顔に出さず笑顔を保たなければなりません。演劇を学んでいなければ、とっくにボロが出ていたでしょう。


「芸能人の人達は、皆こんな毎日送ってるんですね。よく平気でいられますよ」


 私は遊に戻れば免れますが、他の声優さんはそうはいかないはずです。

 親族会議で、身内にその声優さんがいる事を自慢しないようにと通達した人も居るそうです。


「有名税という奴ね。あっ、料理が来たわよ」


 注文した料理が来たので、話を中断します。ワゴンからテーブルに料理を移す際、ウェイトレスさんが、チラチラと私を見ていました。


 私の事を知っているような雰囲気でしたが、何事もなく食事を終えて店を出ました。

 残りの取材も無事に終わらせ予定の時刻に取材は全て終了。アフレコに遅れず行けました。

 スタジオでは、先輩方がてぐすねひいて待っていました。


「ラジオ面白かったよ!」


「来週も期待してるわよ。蓮田さんのお守り、頑張ってね」


 先輩方からお褒めの言葉をいただきました。蓮田さんの相手を務めた事への労いが多かったなんて気づいていませんよ。


「蓮田さん、完全に暴走しててユウリちゃんにフォローされてたよな」


「全く、どちらがベテランかわからないわ」


 今日は蓮田さんの出番が無いので不在です。そのためか先輩方は蓮田さんを弄る話で盛り上がっています。


「蓮田さんの暴走は抑えるのが大変だから、ユウリちゃんには感謝してるんだよ」


「へぇ、そうなのね」


 先輩方の顔から血の気が引き、背後から女性の声でありながら怒りの籠った低い声が聞こえました。


「時間が空いたから、ユウリちゃんに会いに差し入れ持ってきたんだけど・・・あんたたちはこれでも喰らいなさい!」


 その後、スタジオには小粒のドライアイスが飛び交い怒る蓮田さんから先輩方が逃げ惑いました。


 蓮田さんが差し入れてくれたアイスは、私とスタッフさんで美味しく頂きました。

イオカードの裏面の印字は、部品の汚れや劣化ですぐにずれるので調整が大変でした。

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