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内緒 第四十六話

 明けて翌日。由紀は部活で早くに家を出たため、両親と三人で朝食を食べます。


「今日は由紀も出たし、うちから着替えて行かない?」


「ダメ。ここからユウリになったら、電車に乗れないもの」


 着せ替え人形にする気満々のお母さん。それは読めていたので、考えていた言い訳で回避します。


「じゃあ、お父さんが車で送っていくって事でどう?」


「車で都心に行ったら時間かかるわ。間に合わないからダメよ」


 都心に車なんかで行ったら、みすみす渋滞に嵌まりに行くような物です。高速道路も万年渋滞状態で、低速道路に改名した方が良いのではないかと思う程です。


 お母さんの魔の手を逃れて自室に行き、普通の服に着替えユウリ用の服をカバンに入れて準備完了です。下に降りると、両親が待っていました。


「遊、頑張ってな」


「帰ったらお話聞かせてね」


 二人とも、私が仕事をやっているのが嬉しいようです。声優という仕事が、両親の言う熱中する事かはわかりません。大体、好きになったからと言って一生続けられるという職業ではないのです。


 などと考えているうちに最寄り駅に到着しました。通勤ラッシュは過ぎたものの、結構混んでいる電車に乗り込みます。


 目的の駅に着き、歩きで事務所へ向かいます。駅でも道でも、私に注意を払う人なんかいません。何事もなく事務所へ到着しました。


「おはようございます。昨日のラジオ、面白かったですよ!」


「ありがとうございます。評判は悪くないみたいで、ほっとしてますよ」


 顔見知りとなった受付の女性が挨拶すると、隣に座っていたもう一人の受付嬢さんが怪訝そうな顔で見ています。彼女は私がユウリだと知らないので、当然の反応です。


「ねぇ、なんの事?」


「言っても良いかしら?」


「受付の人には覚えてもらってた方が良さそうですね」


 これからも遊のままで事務所に来ることになるでしょう。その度に受付で足止めをされるのは歓迎出来る状態ではありません。


「あのね、彼女は声優のユウリさんよ!」


「ええ~っ!ユウ・・・」


 耳元に顔を寄せてヒソヒソと教える受付嬢さん。教えられた受付嬢さんは一瞬硬直すると叫びそうになったので、慌てて口を塞ぎました。


「彼女の事を知ってる人は少ないのよ!言っちゃダメ!」


 口を塞がれて言葉を出せない受付嬢さんは、首を振って何度もうなずきます。それを確認して口を塞いだ手を離しました。周囲にいた人達から注目を集めてしまっています。


「北本遊です。よろしくお願いします」


 彼女がユウと言ってしまったため、少し大きな声で自己紹介しました。幸い周囲にいた人達はすぐに興味を失くしたようです。


「よろしくお願いします。私、ユウリさんのファンなんです!」


 差し出した右手を、両手で包むように握ってきました。困った事に、離してくれそうにありません。かと言って、私から離して欲しいとも言えません。


「ちょっと、ユウリさん、これから仕事なんだから!」


 手を離さない受付嬢さんに困惑していると、桶川さんが来てくれました。


「中々来ないと思ったら・・・こんな所で足止めされてたのね。あまり時間無いのよ」


 会社のトップである社長の出現に、受付嬢さんは慌てて私の手を離しました。早めに来たはずなのですが、結構時間を食っていたようです。


「すいません、つい興奮してしまって・・・」


「仕方ないわね。今回だけは大目にみるわ。次またやったら、他の部署に異動よ?」


 顔を真っ赤にした受付嬢さんを嗜めた桶川さんは、私の手を引っ張ってエレベーターで上がります。


「ユウリちゃん、取材が沢山入ってるわ。知名度を上げるチャンスよ、大変だけど頑張ってね!」


 張り切る桶川さんに適当に答え、準備の為に更衣室に入ります。服を着替えて眼鏡を外し、髪をほどいてブラシを通します。

 仕上げに化粧をすればユウリの出来上がりです。


「さ、準備が出来たら行くわよ!あと、これを付けてね」


「何ですか、これは?」


 渡されたのは、いかにもなサングラスと白くてつばの広い帽子でした。付けられている水色のリボンが可愛いアクセントになっています。


「帽子とサングラスよ。変装用の」


「何でこんな物を?」


 それは見ればわかります。それよりも、何故にそれを私に渡すのかを聞きたいのです。


「車だと時間が掛かるから、電車で行くのよ。変装せずに行ったら大変よ?」


 納得した私は、帽子とサングラスをつけました。電車で移動するならば用心しておくに越した事はないでしょう。


「これでOKね。行くわよ!」


 エレベーターで一階に降ります。普段は地下の駐車場まて降りるのですが、今日は電車移動なので一階の正面玄関から出るのです。


「そうそう、今日の移動はこれを使うわよ」


「これはテレホンカード・・・ではないですね」


 桶川さんに渡されたのは、一見テレホンカードのような物でした。ですが表面には国営地下鉄のロゴが表記され、大きくイヨカードと書いてありました。


「それはイヨカードと言って、自動改札に入れると入った駅が記録されるのよ。出た駅でも記録されて、運賃が引かれるという画期的なカードよ。まだ試験運用の段階だけどね」


 どうやら、切符を買わなくても地下鉄に乗れるカードのようです。世の中、便利になっていくものなのですね。



時代設定は、自動改札機が普及し始めてイオカードが出る寸前という感じです。


駅務機器と携帯電話の技術にギャップがありますが、そこはパラレルワールドということで。

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