第四百二十三話 内緒のアイドル声優
「おはよう、北本さん!」
「北本先輩、おはようございます!」
「はい、おはようございます」
友子との登校中、同じく学校へと歩く皆と挨拶をかわします。出会う生徒達は皆私を見ると嬉しそうに声をかけてくれます。
「皆もすっかり慣れたわね、初めは大騒動だったけど」
「そうね。人間、何でも慣れるものね」
あのイベントの日から、私は眼鏡をかけなくなりました。
髪も三ツ編みは止めて、ポニーテールにしてあります。長いのでポニーテールに見えないけどね。
そのままだと長くて大変なので、一旦上に上げて地につかなくしているのです。纏める事で広がらないから絡まりにくく、登校時はこの髪型と決めています。
「そうそう、新しい短編アニメの主役、決まったわよ。スケジュールに入れたから」
「ありがとう。友子もマネージャーが板に付いてきたわね」
卒業後、私のマネージャー確定の友子は今から仕事をしています。私への対応が減ってデスクワークか増えた桶川さんは不満そうですが、社員の方々(特に副社長さん)には好評です。
「社長も張り切ってるし、どんどん仕事入れるわよ!」
「・・・お手やらかにお願いします」
2人が張り切り過ぎると、際限なく仕事入れるのです。もう2週間連続休みなしは勘弁してほしいのですが。
「大丈夫よ、1月程休みがなくなるだけだから!」
「友子さん、朝から質の悪い冗談は止めません?」
「心配ないわ、冗談ではないから」
それこそ冗談ではなく本当に止めて下さい。私は生身なので消耗するのです。
「売れっ子は大変だね!」
「北本さんの作品が増えるのね。チェックしないと!」
「ちょっと、私休み無しで働かされるのですけど!」
誰かこのブラックな労働環境に待ったをかけて下さい!労働基準監督署さん、お仕事してください!
「だって、ねえ・・・」
「ユウリファンの私達とすれば、喜ばしいものねぇ」
「周囲に私の味方が誰もいない!?」
友子が肩に手を乗せて首を振ります。その顔は私をからかう時に見せる心底嬉しそうなひょうじょうをしていました。
「諦めなさい。それが人気声優の宿命よ」
「お願い、せめて週一で休みを!」
漫才のようなやり取りを、暖かく見守る生徒達。既に日常となった、夏風高校通学路で定番と化したやり取りです。
「諦めなさい、ね」
笑みを浮かべ止めを刺す親友に、がっくりと肩を落とします。
「好きで選んだ仕事だものね。頑張りますか」
「その意気よ、遊!」
これは私が望んだ道なのです。だから、歩む事を止めるなんて絶対にあり得ません。
「友子、サポートよろしくね」
「もちろんよ、任せなさい!」
私はアイドル声優。
今までも、そしてこれからも。
内緒のアイドル声優 完
半年以上の中断があったにも関わらず最後までお付き合いいただきありがとうございました。




